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日本の建築: 隈研吾のレンズを通して

梼原木橋ミュージアム by KKAA - イメージ by Takumi Ota
梼原木橋ミュージアム by KKAA - イメージ by Takumi Ota
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08 Apr 2021 08:04:50 GMT9
08 Apr 2021 08:04:50 GMT9

Nader Sammouri

大阪: 隈研吾氏の作品は、過去の要素と楽観的で確固たる未来との間の完全な相互作用であり、自然を囲みながら伝統を解釈する多様で大胆な形で表現されることが多い。彼の建物に出会うと、勇気という独特の性質を目の当たりにする。

隈氏は、日本および世界中で数え切れないほどの創造的ランドマークを達成し、デザインにおける微粒子化戦略で知られる現代日本の最も重要な建築家の一人と見なされている。

隈氏はアラブニュースジャパンのインタビューに応じ、建築とデザインのレッスンを提供した。「建築は独立したものではなく、隣人、庭、周辺環境との関係を常に大切にするべきです」と隈氏は語った。

彼は「建築は関係である」と述べ、この考えを何度も強調した。

非ノスタルジックな過去

「日本の国土は狭く、市街地は他の国よりずっと小さいです。 日本は人口が多いですが、都市は調和しています。その秘訣は、寿命の限られた木の使用でした。その結果、柔らかく親密な人的な規模の建物が生まれ、それは環境に適合し、人々にとって快適な場所を創り出しました」と隈氏は言う。

隈氏は、日本の伝統的な建築とその要素に大きく影響された彼のデザインへのアプローチを表明した。

「寺院には、内側から見ることのできる、大きく、美しく、日陰にある空間があります。私の意見では、この種の無の空間は、何かが存在する空間よりも魅力的です。無の空間は美しいと思います。

台湾の宗教施設「TAOプロジェクト」著作権: Kengo Kuma & Asociates (KKAA)

日本文化における空虚は高く評価されており、皮肉なことに、空虚のために多くの空間が割けられている。空虚は、目に見えないエネルギーで満たされた建築空間の一時停止であり、沈黙して語るようなものである。空虚は、建築を超えて日本の他の芸術、さらには生活様式にまで浸透する深遠な哲学である。

隈氏が伝統的なデザインから借りたい要素の1つは、透明性だ。

「私が作品に埋め込みたい透明性は、層の並置で、それにより私たちに自然を近づけることができると思います。壁の不透明性は空間を分離しますが、透明性を生み出すことができれば、自然とのつながりを感じることができます」と隈氏は言う。

梼原木橋ミュージアム by KKAA – イメージ by Takumi Ota
橋の上にはアトリエギャラリーがあり、新しい公的表現方法である。

しかし、隈氏はノスタルジックなコピーを作ることを避け、複製するのではなく、独創性を生み出すことを望んでいる。

「伝統的な建築は、以前の社会には完璧に合っていたかもしれませんが、現在、社会はずっと複雑になっています。環境的にも、私たちは危機に直面しており、現在の状況に合った新たな解決策を常に追求するべきです」と隈氏は付け加えた。

木を称賛して

隈氏のプロジェクトは、絶え間なく木に引き付けられている。これに関し、隈氏は次のように考えていた。

「私は素材性にとても興味があり、木は、私が愛し、多くの作品で使っている美しい素材です。時には、石や衣、またアラビア諸国で見られる泥さえも使うことがあります。各素材の美しさをより高めたいと思っています。」

建築、内装、工芸において重要な木なくして、伝統的な日本を想像するのは難しい。

「木の柔らかさと柔軟性は、日本人の生活様式と精神性に良く合いました。ですので、日本人と木材は良好な関係にあることが判明しました」と隈氏は語り、次のように付け加えた。

「私の立場から言うと、コンクリートや鉄鋼は避け、天然素材に戻るべきです。」

ダイワユビキタス学術研究館(東京) by KKAA – イメージ by Takumi Ota
コンクリート、金属、石などの硬い素材で作られた通常のキャンパスのイメージから離れ、この建物は伝統的な外観を破壊し、木や土で作られたより柔らかい建築を提示した。

隈氏は、木を「幸せな素材」と捉えている。 彼は木を賞賛して次のように語った。

「木に触れると、私は強いつながりを感じます。その質感、温かさ、柔らかさなどのため、友人のように感じるのです。一方、コンクリートに触れても、まったく友人のようには感じません。」

隈氏は、コンクリートは人間の本性から遠く離れたものであり、冷たく感情のない印象を与えると考えている。代わりに、木は親しみ易く、人々によって比較的よく受け入れられている。 また、人類は森から生まれ、木の質感とともに生き、それは人類の生存に寄与したてきたとも述べた。その記憶は人間に深く根付いており、人と木の温かい関係について説得力がある。

「レバノンの美しい松や杉を知っています。レバノンでも確か木材が建築に使われていると思います」と隈氏は述べた。

隈氏は、木材は安価な住宅にも優れた可能性を秘めていると考えている。木はどこにでもあり、特に日本では国土の70%近くが森林である。

「木をより賢く利用できれば、住宅建築のコストを下げることができます。木は柔軟で、私たちのライフスタイルに適応することができます」と隈氏はアラブニュースジャパンに語った。

日本の大工は非常にスキルが高く、謙虚で、労働力は安価である。 歴史的に見て、少なくとも日本では、木材は他の材料と比較して常に最も安価な素材であった。しかし隈氏は、数え切れないほど多くの日本企業が、利益率を最大化するために建物のコストを上げ、この比較的低コストのスキルを利用していることは残念な事実であると述べた。

福岡県大宰府のスターバックスコーヒー by KKAA – イメージ by Masao Nishikawa写真スタジオ
X形の杉の木造構造物が見せる高度な大工職。形式だけでなく、内部空間を支える構造物として機能している

普通の人が家を建てるときに、木を使った美しいデザインが、どうすればアクセス可能になるのかと思うかもしれない。これに関し、隈氏は次のようにコメントした。

「私は建築家であった父と一緒に家を建てました。その体験はデザインについて多くのことを教えてくれました。 日本の大工たちはわが家の骨格と外側を作り、父と私はわが家の内側全体を自らの手で造りました。 これは良いデザインにアクセスするために、社会で私たちが必要とする住宅の民主化です。 私は建築の民主化が建築の目標の一つであると信じています。」

アラブ諸国に関する黙思

隈氏は首長国、特にドバイの性格について意見を述べた。 彼は、北と南があり、太陽が昇って沈み、風が特定の方向から吹いている限り、そこには自然が存在する。自然がすでに提示した建築との関係があり、建築はその関係を調和的に完成するべきだと説明した。

「自然は私たちの周りにどこにでもあります。 砂漠は抽象的ではなく、非常に複雑な環境です。 例えば、ドバイに何かを建てる場合、建物と砂漠の関係を考えるべきです」と隈氏は述べた。

隈氏が設計したプロジェクトの一つが、サウジアラビアの紅海プロジェクトである。 砂漠の穏やかに流れる表面に触発され、文化と自然の共生がデザインに反映された。

「砂漠はとても精神的な空間です。私は学生のときにサハラ砂漠を訪れました。そしてこの砂漠で精神的なことを数多く体験しました。砂嵐と砂に照りつける太陽光は、私にとってはとても精神的なものでした」と彼は語った。

「私は数度中東に旅をし、そこの自然や文化を愛しています。 私のプロジェクトのいくつかのためにそこで仕事をしたことは、確かに刺激的でした。日本は湿気が多いですが、私が訪れた中東の地域は非常に乾燥していました。「多彩な自然の新しい場所で仕事ができることに、喜びを感じました」と隈氏は説明した。

隈研吾氏と会うとき、彼が新たな体験に完全にオープンであることに気付かない人はほとんどいないだろう。すべての旅行、数々の体験、世界的な名声の獲得後も、彼はさらに経験を積み、今まで知らなかった新しい場所を探求する熱意を謙虚に表す。

「好奇心がわたしの創造の基礎です。 私は約30カ国を訪問しましたが、それは世界のごく一部にすぎません。気候も民族も異なる新しい場所で仕事をする体験をもっともっとしたいと考えています」と彼は付け加えた。

隈氏は、この世界が与えてくれる、驚くべき、そして美しい多様性に親しみたいと考えている。

「多様性は世界の美しいところです。体験し、吸収し、建築設計を通じて表現したいのです」と隈氏は語った。

隈氏は、新しい価値観やデザイン姿勢を生み出すための協力と相互交流の重要性を強調し、革新的なことはいつでもどこでも1つの簡単な理由で起こっていると説明した。それはつまり、人々はユニークな仕事を成し遂げることに生きがいを見出すということだという。従って、多様性が消滅しつつあるように見える一方で、新たな多様性も出現しているので、地域性の消滅を心配する必要はないという。

「アラブ諸国から様々なヒントを得ることができます。日本人とは大きく異なりますが、時々感じられる共通の経験や感情があります。アラブ諸国と日本の連携は、多様性が基礎となっているため、未来のために非常に重要です。両地域の交流は、新たな価値を生み出し、新たな設計アプローチを生み出すことでしょう」と隈氏は述べた。

幸福の建築

デザインにおいて、幸福はほとんどトピックとならない。しかし、デザインの主要目的の1つは人々に幸福を提供することである。隈氏はこれに同意し、次のように述べた。

「幸福は最重要です。しかし21世紀に入ると、人々は建築設計における幸福という要因をなぜか忘れ、機能、効率、弾力性のみを考えるようになってしまいました。」

人類はもはやその初期の本能に訴えないような生き方に、ますます関心を示しているように見えるかもしれない。

「建築と幸福には非常に強い関係があり、結束していなければなりません。素材性は人類の幸せの鍵のひとつであり、私は建築を通して喜びを引き出すために、これを使おうとしています」と隈氏は語った。

自然のパンデミックからのインスピレーション

隈氏は、我々が経験しているパンデミックが自然の出来事であり、反省して、新しいアイデアをつかむ機会であると述べた。

「パンデミックは歴史の転換点だと思います。 パンデミック以前、私たちの空間は都市空間とそれを超えた空間でした。 私たちは、オープン性を求めるこのような方向に向かっていました。 今、私たちは密閉された個人空間に追い込まれています。このような密閉空間は、私たちにとって大きなストレスとなる可能性があります」と隈氏は語り、パンデミックが彼にこのような密閉空間の危険性を教え、多くの人々がこの密閉空間から逃げ出す必要性を感じていると述べた。

「密閉空間は幸福ではありません。「少ないほど、より多い」(というミニマリズム)はしばしば誤解されています。私たちは、自然に戻ることで、必要な幸福と満足を得ることができます。「少ないほど」というのは、自然に戻ることだと考えます」と隈氏は説明した。

今日、我々は自然の支配者ではなく、自然の一部であることを認識した。

現代社会が隠してしまっているものはたくさんあるが、自然には常に人間にその力を思い出させる方法があるようである。

そうした方法を心に止めた上で初めて、我々は、食べ物、着る物、そして建てる物などを含むあらゆる面で自然と調和して生活するために、自分の生活を見直し、調整し始めることができるようになるであろう。

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