アンソニー・ローリー
中国の国家資本主義制度は自由市場で戦う米国企業にとって不公平な競争を代表する存在だと主張するドナルド・トランプ大統領以下の米当局者たちは、国有企業、つまりSOEを目の敵にしている。だが、SOEの数と規模は中国以外の国々でも急速に拡大している。
国際通貨基金の新たな分析は、アジア全域、中東、ヨーロッパの一部、ロシア、その他世界中の地域で、石油、水道、製造業から銀行に至る国有企業のネットワークがいかに巨大化しているかを明らかにした。
この分析は、コロナウイルスショックによって財政難に陥った企業の少数株式、場合によっては大多数の株式を政府が買い取らざるを得なくなることによって、政府が一部出資する企業および全額出資の国有企業の数が増大しそうなこの時期に行われた。
国家資本主義は、持続可能性モデルとしての評価が、頻繁に危機に陥りがちな市場システムより最終的に高まる可能性がある(それは必ずしも新型コロナウイルスだけのせいではない)。今回の危機に対処するには、これから社会主義を大量に注入する必要がある。
1880年代に「今や我々はみな社会主義者だ」という表現を最初に使ったとされるのは英国の大蔵大臣であり、リベラルな政治家だったウィリアム・ハーコート卿だが、そのおよそ100年後にリチャード・ニクソン米大統領は、それをもじって「今や我々はみなケインズ主義者だ」と言った。
[caption id="attachment_15324" align="alignnone" width="500"] 最近、その事実を物語る印象的な出来事があった。一つは、ベテランの日本経済アナリスト、イェスパー・コール(その他の人々)が「金融の社会主義化」が進んでいると表現している世界中の中央銀行が銀行や金融機関から膨大な量の負債を買い取っている現象だ。[/caption]最近、その事実を物語る印象的な出来事があった。一つは、ベテランの日本経済アナリスト、イェスパー・コール(その他の人々)が「金融の社会主義化」が進んでいると表現している世界中の中央銀行が銀行や金融機関から膨大な量の負債を買い取っている現象だ。
社会主義的な傾向やケインズ主義的な傾向を持つ人々は、長い間、自由市場の擁護者たちから疑惑と軽蔑の眼差しを向けられてきた。だが、経済破綻を回避するには国家の役割を受け入れる必要があり、場合によっては強化する必要さえあるという認識が現在芽生えつつある。
最近、その事実を物語る印象的な出来事があった。一つは、ベテランの日本経済アナリスト、イェスパー・コール(その他の人々)が「金融の社会主義化」の進行と表現している,、世界中の中央銀行が銀行や金融機関から膨大な量の負債を買い取っている現象だ。
世界経済の低迷により、債務者が借入を返済することが困難または不可能になっていることから、その負債の多くは、ほぼ間違いなく、株式に転換する必要がある。その株式を中央銀行が保有し続けるにせよ、国家持ち株会社に譲渡するにせよ、債務者企業は「社会主義化」されることになる。
ボーイング(経営陣は抵抗しているが、おそらく株式を譲渡せざるを得ないだろう)のような注目度の高い米国企業やドイツのルフトハンザへの政府出資は、ビジネス界や産業界にすでに存在する国有化という大きな山の一角に過ぎず、その山が今後ますます大きくなることはほぼ間違いない。
一方、IMFの分析は、中国のような国家だけでなく、世界中の新興国でも先進国でも無数の国有企業が果たしているきわめて広範な役割を初めて浮き彫りにした。
報告書(IMFの財政モニターシリーズの一部)が指摘しているように、「過去10年間で世界の大企業に占める国有企業(SOE)の重要性は倍増している。その資産は45兆米ドルに達し、今や全体の20%を占めるようになっている」
「SOEは事実上すべての国に存在しており、たとえばドイツ、イタリア、ロシアではSOEの数が数千に及ぶ。世界の舞台におけるSOEの最近の成長は主に中国経済の台頭を反映している。中国では、他の新興市場経済と同様に、SOEがいまだに大きな役割を果たしている」
ここで言及されている他の新興市場経済には、インド、インドネシア、マレーシア、ベトナム、ロシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦などがある。SOEは、IMFが言うように、「世界のほぼすべての国で事業を展開しており、ほぼすべての経済部門で商品やサービスを提供している」
SOEは「多くの場合、人々が飲む水、乗るバス、日常生活に欠かせない電気などの基本的サービスを提供している」。また、銀行、公益事業、運輸業、そして「靴から機関車に至るあらゆる物」の製造業など、主要部門にも広く存在している。
最大規模の非金融SOEには、中国国営石油会社、フォルクスワーゲン、サウジアラビア石油会社、ロシアのガスプロムとロスネフチなどがあり、これらの企業は現在、世界市場で存在感を増している国有多国籍企業という大きな成長カテゴリーの一角を担っている。
SOEの中には、実質的に政府の一機関である企業もあり、商業活動に力を入れている国有と私有の混合企業もある。多くの人が「政府の所有または管理しているすべてのSOEを把握できていない」ほど、SOEの規模と多様性は大きく、中央政府および地方自治体による所有形態もさまざまだ。
だが、国有企業や政府の民間企業への出資の一覧の作成は、当分先のことになりそうだ。納税者は、自分が事実上の株主であることを認識できるように、自分の名義で何を所有しているのかを知る必要がある。
IMFは、SOEのメリットとデメリットに関してイデオロギー的に中立に見せかけようと躍起になっている。SOEの生産性がしばしば民間企業に比べて低いことを指摘する一方で、IMFは「実績の低さは、多くの国の政府が適切なインセンティブの確立に失敗していることを反映している」とほのめかしている。
IMFは、政府がSOEとの財務関係について透明性を確保すると同時に、規制当局を通じてSOEにも自らの事業運営について同等の透明性を確保させる必要があるという非常に理にかなった提案をしている。
SOEが国際舞台で存在感を増し、ポストCOVID-19の政府の救済活動によってSOEの数が膨れ上がるなか、SOEを国家資本主義の恐竜として非難するのではなく、SOEを改革する方が前向きな対処法であるように思える。ウィリアム・ハーコート卿が気付いたように、「今や我々はみな社会主義者なのだ」