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石油業界はいかにしてコロナによる混乱から立ち直ったか

2020年5月31日、マスクを着けた従業員たちがラワルピンディ市のガソリンスタンドで客を待っている。(AFP通信)
2020年5月31日、マスクを着けた従業員たちがラワルピンディ市のガソリンスタンドで客を待っている。(AFP通信)
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05 Jun 2020 01:06:38 GMT9
05 Jun 2020 01:06:38 GMT9

フランク・ケイン

ドバイ:原油業界は史上最高ともいえる6週間を享受したところであり、この期間に国際原油価格は倍増し、サウジアラビア、ロシア、米国というエネルギー大国がかつてない団結を見せた。

石油業界の政策決定者たちは、エネルギー問題の混乱の淵から世界を救ってくれたとの賞賛をひとしきり浴び、感染防止のためのロックダウンによる大損害からの回復に向かうスムーズな道のりを心待ちにしていると思われているかも知れない。

しかしそうではなく、彼らは先週、新たな楽観的見通しを確固としたものにすべく23カ国の産油大国による会議を招集しようと取り組んでいた。

サウジアラビア率いる石油輸出国機構(OPEC)の加盟国代表たちは、ロシア率いるOPEC非加盟の産油国代表たちとともに、国際エネルギー市場の安定を回復させた同盟であるOPECプラスの次なる会合の正確な取り決めについて議論していた。

「いつ会議を開くかという件についてでさえ、土壇場での言い争いがなければOPECとは言えない」とある傍観者は述べた。

しかしOPECプラスのお決まりの土壇場での諍いも(基本的に次なる段階の生産量合意という些細なことに関するものだ)、石油業界が3月の初めからの世界的ロックダウンによる需要破壊への対策において、歴史的やり方で協力してきたという事実を曖昧にするものではない。

[caption id="attachment_15955" align="alignnone" width="450"] ショッピングセンターや遊園地の完全閉鎖や民間企業の業務停止といった新型コロナウイルス感染拡大防止措置のなか、リヤドのガソリンスタンド従業員がマスクを着用して客を待っている。(AFP通信)[/caption]

ロックダウン以降、石油業界は2つの出来事で奈落の底を見た。新たな生産量規制について合意に至らずにウィーンのOPEC本部での話し合いが決裂し、それが引き金となって過去20年で最悪の国際原油価格破壊が起きたのだ。

3月末までには国際指標であるブレント原油価格が、バレル当たりわずか20ドル余りとなった。これは9.11のテロ直後とほぼ同レベルである。

ドナルド・トランプ米大統領の要請で、OPECはこの対策として原油業界史上最大の減産を計画することとなった。

[caption id="attachment_15956" align="alignnone" width="450"] 2020年4月22日、バーレーン南部サヒールの砂漠油田で稼働するポンプジャックのこちら側に作業員が立っている。(AFP通信)[/caption]

G20議長国サウジの主催で1週間に及ぶ厳しい駆け引きの末、サウジとロシアは世界市場において前代未聞の日量970万バレルという減産合意への道を開いた。

これはコロナ禍以前の供給量の約10%に相当する。そしてその後さらに、価格低下で油井の閉鎖や経営者の破産を余儀なくされた米原油業界の減産により、これが強化されることとなった。

石油問題の卓越した専門家であるダニエル・ヤーギン氏は、歴史的合意後に次のように述べた。「市場心理に明らかな変化が感じられる。原油価格について考える市場心理に変化がみられるのだ」

しかし惨事が回避されたとの高揚感は長くは続かなかった。4月20日は「ブラック・マンデー」としてすでに歴史に刻まれた。この日、主として論理的理由と石油取引市場が本来持つ投機的性質により、価格が再び底を打った。

[caption id="attachment_15957" align="alignnone" width="450"] 2020年4月22日、シドニーのガソリンスタンドで異なる燃料タイプのラベルが貼られたノズルが見える。(AFP通信)[/caption]

米国指標であるウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)については、マイナスの領域にまで下落し続けた。

一時、WTIはバレル当たりマイナス40ドル近くまで下がったが、これはつまり生産者にとっては、お客にお金を払って要らない原油を持って行ってもらうという意味になるのだ。これは原油市場経済が極端に作用した例となった。

後になってみればそれが最悪の時だった。サウジアラビアは自発的に100万バレルの追加減産を決め、アラブ首長国連邦やクウェートの他の湾岸生産者たちがこれを支援した。

サウジエネルギー相のアブドゥル・アジズ・サルマン王子は、サウジが再び市況を整えて国際原油業界の模範となる「スイング・プロデューサー(原油価格の安定を図る調整役)」としての役割を果たすことで、原油問題について「先手を打ちたい」のだと述べた。

[caption id="attachment_15958" align="alignnone" width="450"] 2020年4月22日、バーレーン南部サヒールの砂漠油田で稼働するポンプジャック。(AFP通信)[/caption]

「我々は正常化への回復を早めたいと考えている」とさらに述べ、「需要は持ち直している。需要供給バランスの調整を迅速化できているとの確信が欲しいのだ。サウジは積極的な役割を果たしており、他の諸国にもこれに続くよう働きかけている」と彼は付け加えた。

サウジ-ロシア合意は、米国シェール業界がバレル30ドル以下では立ち行かなくなって減産させざるを得なくなった結果にも後押しされ、年内の原油均衡化について供給面は効果的に抑えたといえる。

今年末までの世界産油国の生産量は国によって異なるが、国際エネルギー機関によれば、いずれにしてもコロナ禍以前の日量1憶バレルをはるかに下回り、過去1世紀のどの時代よりも大幅な減産となることだけは確かだという。

今年この先から2021年にかけての価格推移を決定付ける大きな不明確要素は「需要」であり、それはウイルスの感染拡大状況とそれに対する各国政府の政策に大きく掛かってくる。

[caption id="attachment_15959" align="alignnone" width="450"] フランス中部アンボワーズ市のガソリンスタンドで、国がロックダウンに入って39日目の2020年4月24日、マスクを着けた男性が安いガソリン価格の表示を見つめている。(AFP通信)[/caption]

コロンビア大学国際エネルギー政策センター上級研究員のクリストフ・ルール氏は、アラブニュースに次のように語った。「原油需要は回復を保証する担保であり、回復はパンデミックへの担保だ」

しかし、エネルギー需要の原動力となる世界経済が、第2四半期の経済活動の激しい落ち込みからいかに急速に回復し得るかについて、専門家の意見は分かれる。

車や飛行機による移動や産業が停止した3月末から6月末までの間に、世界経済は30%以上縮小することになるだろうと見積もる専門家もいる。

米大手銀行モルガン・スタンレーは、2020年の世界のGDPはわずか3%の減少に留まると考えており、これは今年後半に急激なV字回復があるだろうとの予測を示している。

[caption id="attachment_15960" align="alignnone" width="450"] 2020年5月4日、オクラホマ州クッシング市の原油貯蔵施設の背後で日が暮れる。(AFP通信)[/caption]

より悲観的な見方もあり、米国のライバル銀行ゴールドマン・サックスなどは前年比6%以上の落ち込みを予測している。

国際通貨基金(IMF)は、2020年の経済見通しの再度の下方修正を考えていると述べた。

楽観主義者たちは、経済的打撃が激化してもなお世界の証券取引が持ち堪えている事実に加え、ロックダウンが実質的に至るところで緩和されつつある兆候を好材料とみている。

[caption id="attachment_15961" align="alignnone" width="450"] 2020年5月7日、テキサス州カルバーソン郡で撮影されたキャピタン・エナジーの外観。(AFP通信)[/caption]

交通分析専門家によれば、中国の高速道路や路上の交通量はパンデミック以前の水準に戻っており、米国でも先日のメモリアル・デーには祝日を享受して道路の交通量が増えたという。

はるかに陰鬱な見方をする向きもある。2008年の世界経済危機を予言した人物として世界的名声を得た経済専門家のヌリエル・ルビーニ氏は、つい最近次のようにツイートした。「3カ月ですべてが正常に戻るだろうというのか?それは狂気の沙汰だ」。ルビーニ氏はこの先何年にも及ぶ「大恐慌」を予言している。

経済専門家たちにとって憂慮すべき最大の要因は、新たなロックダウンを強いる第二波の感染拡大と、米中対立による地政学的な不穏の高まりだ。

[caption id="attachment_15962" align="alignnone" width="450"] 2020年5月5日、オクラホマ州クッシング市の原油貯蔵施設の背景で日が暮れる。(AFP通信)[/caption]

不安定な大統領選の年に米国各地の都市に溢れる群衆デモも、とうてい楽観材料にはならない。

原油業界の政策決定者たちにとっては、これらの不確定要素を切り抜ける取り組みが必要だ。OPECプラスの会合が開かれた際のメッセージは、供給は今や掌握されたというものになるのだろう。

4月に合意された大規模な減産は、どれだけ延長するかは未だ交渉下にあるもののいずれにしても延長されることになるだろう。そしてすべてのOPECプラス加盟国による新たなレベルでの合意内容の順守を確実にするために、より大規模な取り組みがなされることだろう。

[caption id="attachment_15963" align="alignnone" width="450"] 2020年5月7日、テキサス州カルバーソン郡のキャピタン・エナジーで未完成の油田がそのままになっている。(AFP通信)[/caption]

先月はOPECプラス目標が約75%達成されたという励みになる順守レベルであったが、これが新体制を維持できるとの楽観材料をOPECプラスに与えている。

しかしそれは完全にサウジ-ロシア同盟の手中にあるわけではない。原油価格は今週、3月初旬以降で初めてバレル当たり40ドルに到達した。価格が回復するに連れ、米国の産油業者たちは掘削リグの稼働を増やしてシェール業界の中心地であるテキサスへと向かうことになるだろう。米国の産油量が急増すれば、OPECプラスが慎重に進めている審議もすべて水泡に帰してしまう。

[caption id="attachment_15964" align="alignnone" width="450"] 新型コロナウイルス禍にある2020年4月28日、ロングビーチやロサンゼルスの港付近に係留中のタンカーの上空からの眺め。(AFP通信)[/caption]

5月初旬にエネルギー関連の混乱が収まった後、米国の石油研究の学者であるジェイソン・ボードフ氏が、サウジアラビアは今回のパンデミック後に「思いがけない勝利者」として現れたと執筆して議論を巻き起こした。

サウジのエネルギー当局はこの賛辞を感謝で受けとめたが、しかし依然として先は長いことを十分に認識している。「最終的には原油市場の安定により誰もが勝利者となるのだ」とある当局者はアラブニュースに語った。

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