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新型コロナウイルス禍が史上最大の石油供給削減をもたらした経緯

サウジアラビア国営石油・ガス会社の巨大エネルギー企業サウジアラムコ提供の配布資料の写真。サウジアラビア東部のダーランにある石油プラント。2018年2月11日撮影。(AFP/Aramco/File Photo)
サウジアラビア国営石油・ガス会社の巨大エネルギー企業サウジアラムコ提供の配布資料の写真。サウジアラビア東部のダーランにある石油プラント。2018年2月11日撮影。(AFP/Aramco/File Photo)
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19 Sep 2020 03:09:19 GMT9
19 Sep 2020 03:09:19 GMT9

アラブニュース

  • ピューリッツァー賞受賞の著者ダニエル・ヤーギン氏の新著「新たなる地図」が今年3月から4月の劇的な展開を詳述している
  • 新型コロナウイルス禍の経済的影響が原油の需要予測に与えた打撃により石油市場は自由落下状態となった

今春初め、新型コロナウイルス禍の経済的影響が原油の需要予測に与えた打撃により世界の石油市場は自由落下状態となった。サウジアラビアとロシアが主導していたOPECプラス連合は数週間の内に原油価格が半減する様を目の当たりにしたが、対応策を見出せなかった。ピューリッツァー賞を受賞したダニエル・ヤーギン氏は、自身の新著「新たなる地図:エネルギー、気候、そして国家の衝突」からの2つの独占的な抜粋の最初の箇所で、世界の石油業界の震撼した1ヶ月間のインサイドストーリーを語っている。

3月第1週、OPEC加盟国とOPEC非加盟主要産油国からなるOPECプラスの全23カ国がウィーンで協議することになったのは、まさにこの記録上最大の消費量の下落についてであった。

ウィーンに参集した各国は状況が悪いことを知ってはいたが、どれほど悪いのか、そして、どのくらい悪くなり得るのかについては分かっていなかった。その頃には、しかし、主要参加国のサウジアラビアとロシアの2ヶ国が過去数年間にわたって共有してきた利益が既に白紙に戻りつつあったのだ。

ロシアは1バレル42ドル、サウジは65ドルを前提に予算を組んでいたが、IMF(国際通貨基金)によれば、サウジアラビアは収支を合わせるためには80ドル以上にする必要があるとのことだった。さらには、ロシア側は2016年のOPECプラスでの取り決めを一時的、便宜的なものと看做していたが、サウジ側は恒久的な枠組みとしてロシアをその中に抑え込んでおきたがっていた。

サウジのエネルギー相アブドルアジズ・ビン・サルマン王子は、より大きな減産を新たに求め、さらに大規模な減産を強硬に主張した。ロシアのエネルギー相アレクサンドル・ノヴァク氏は同等の強硬さで抗った。ノヴァク氏は現行の取り決めを延長し、数週間にわたってはそれ以上の減産を行わずに新型コロナウイルス禍の推移に伴う変化を見定めることを望んでいた。

3月6日朝、ノヴァク氏はモスクワからウィーンに飛行機で到着し、OPEC本部へと向かった。5階の小さな会議室でノヴァク氏はアブドルアジズ王子と非公式に会談した。合意に達することはなかった。2人のエネルギー相は硬い表情で1階のOPEC諸国と非加盟主要産油諸国の担当大臣たちが出席する重要な合同会議へと降りていった。話し合いは行き詰まった。会議は合意に達することなく決裂した。

「私たちは皆、今日という日を後悔することになるでしょう」とアブドルアジズ王子は退出時に言った。サウジアラビアは、それでは、どう対応するのかと問われ、王子は「皆さんに思案し続けていてもらいましょう」と付け加えた。

OPEC加盟国は「他の方策をまったく考慮していませんでした」と、ノヴァク氏は言った。そして、合意が今や存在していないのであらゆる産油国が好きなだけ生産できますとノヴァク氏は言葉を足した。

言葉の応酬をなだめる試みはアラブ首長国連邦のスハイル・アルマズルエイ石油相によってなされた。「彼らには考える時間がもっと必要なのです」と、アルマズルエイ氏は言った。だが、OPECプラスは吹き飛んでしまっていた。

ウィーンでの会談決裂は世界の石油市場を震撼させ、その反響は金融市場に及んだ。サウジアラビアは即座に思案を切り上げ、全力を尽くして日産970万バレル(bpd)から1230万 bpdに生産量を翌月にかけて引き上げることを発表した。

「需要が下落している時の増産は、経済理論の観点から、筋が通りません」と、経済専門家としての教育を受けたノヴァク氏は言った。だが、ロシアにはサウジほどの追加生産能力は無いものの、それでも限界まで増産するとノヴァク氏は明らかにした。

2016年来の礼譲は消え失せ、価格戦争と市場シェアの争いが代替した。パートナーとなりそうだった2国は、手強いライバル同士に戻ってしまった。ロシア政権側の一部は、生産を抑制する取り決めに元々反対で、交渉の決裂をむしろ歓迎した。

「市場を1度失ってしまうと2度と取り戻すことはできません」と当初からOPECプラス批判のロシアにおける急先鋒だった、ロスネフチのイーゴリ・セーチンCEOは言った。あらゆる取り決めに反対するセーチンCEOのようなロシアの人々は米国に市場シェアを奪われることを特に嫌っていた。

サウジの首都リヤドの少し南にあるアルクル地域付近のアラムコの石油施設入口の写真、2019年9月15日撮影。(AFP/資料写真)

ロシアが協調体制の一翼を担い生産を抑制していた4年間に、米国は石油生産量を60%増加させ世界第1位の産油国となった。

市場といった次元を超えて、ロシアは米国のシェールオイルを「戦略上の脅威」と看做していた。シェールオイルとガスの豊富さが米国の外交政策にとって有用であり、ほぼ完成していたノルド・ストリーム2パイプラインの建設がたった数ヶ月前に中断されたように、ロシアのエネルギー部門に自在に制裁を加える手段を与えているとロシアは考えていた。

サウジやロシアの従来型の石油と比較すると、コストが割高で掘削を継続する必要がある米国シェールが価格競争によって致命的な打撃を受けることは避けられないとロシアは期待した。

けれども、この市場シェアの攻防がウイルス(COVID-19)によって急速に縮小しつつある市場で開始されたことは、3月初めの時点では未だよく理解されていなかった。中国の流行病は世界的な大流行に変貌しつつあったのだ。

………….

トランプ氏は自身の全キャリアを通じて行い続けてきたことをまた始めた。サルマン王、(ムハンマド・ビン・サルマーン王太子)MBS、(ロシア大統領)ウラジーミル・プーチン氏、そして各国の首脳に、今回は総当りで電話をかけ続けたのだった。

「ディールメーカー」を自認するトランプ氏は超巨大ディールを目指した。サウジアラビアとロシアのウィーンでの決裂を招いた原因が「和解し難い不和」であったと説明されていたことを考えると、トランプ氏の折衝は離婚調停のようなものだったとも言える。

約2週間後、トランプ氏はプーチン氏と前年の合計回数よりも多く電話をかけていた。4月1日、サウジの生産量は1200万bpdに上昇した。トランプ氏の電話の一部は非常に直接的なものだった。石油の価格戦争に対しての不満を表明した産油州選出の上院議員13人が言及された。

そうした1件の電話の後、トランプ氏は、「ロシアのプーチン大統領と話した友人のサウジアラビアのMBSと話し、彼らが約1000万バレルかもっと大幅に減産する期待と希望が持てるようになりました」と、ツイートした。この直後に、トランプ氏は分担を1500万バレルに上げた。

石油戦争であることとそこで作用している敵対意識を考慮して、トランプ氏の掲げた数字は懐疑的に迎えられた。だが、歯車は回っていたのだ。サウジアラビアは、「米国のドナルド・トランプ大統領の要請に感謝して」、産油国に緊急会議を呼びかけた。

4月3日、プーチン氏はテレビ会議でロシアだけでなくサウジアラビアと米国は、「市場の長期安定化を確かなものとする、共同の…十分に調整された行動に関心があります」と述べた。

プーチン氏は価格の急落はCOVID-19によってもたらされたと言った。

しかし、ディールはどのように成立したのだろうか?

…………..

4月10日、G20のエネルギー担当相が一同に会した。「世界のエネルギー市場を安定させなければなりません」と、米国のエネルギー省長官ダン・ブルイエット氏が述べた。「すべての国が、それぞれ、供給と需要の不均衡の是正のために何ができるかを真剣に考察するべき時がきました」。

その頃には重要な交渉を行うための環境が相応に整っていた。OPECプラスの1カ国だけが唯一の例外だった。メキシコのロペス・オブラドール大統領はこの取り決めに関わりたくなかったのだ。オブラドール大統領には国営石油会社ペメックスに注力しなければならない独自の政治的立場があった。たとえ、ペメックスの実際の生産量が低下していたとしても、減産ではなく増産の姿勢を示す必要があったのだ。

夜間に電話が何本もかけられ、メキシコとの合意が得られた。続いて、トランプ氏、プーチン氏、サルマン王の電話会談が行われ、取り決めが成立した。

サウジの首都リヤドの450km東にあるダンマーム市内のサウジアラムコの石油施設の概観。(AFP/資料写真)

OPECプラス全体としての取り決めは970万バレルの減産だった。その内、ロシアとサウジアラビアがそれぞれ250万バレル分の減産を担うことになった。これら2カ国が完全に同等の協調減産を行うことになったわけだ。合意されたベースラインはそれぞれ1100万bpdで、減産後はそれぞれ850万bpdとなる。

他のOPECプラスの21カ国はそれぞれの減産量に合意した。OPEC非加盟でOPECプラスでもない主要産油国であるブラジル、カナダ、ノルウェーも減産に合意した。しかし、こうした減産には経済的な理由による下落や既に減少した分も含まれる。

この取り決めは、それ自体、参加国の数、内容の複雑さの両方の観点から、歴史的なものだった。史上最大の石油供給削減だった。石油の世界でこのようなことには前例が無く、ましてや米国を中心として起きることなど有り得なかった。

取り決め成立後、アブドルアジズ王子はこの石油をめぐる戦いはサウジの方針からの「有り難くない逸脱」だったと表現した。だが、同王子は、「手を拱いて何もしないのではなく、多少なりとも収益を上げたいという願望のためにこうせざるを得なかった」とも述べた。

そして、ワシントンからの「調停」も役に立った。ロシアとの不和が、少なくとも現時点では、解消したのだ。「未だ離婚弁護士を呼ぶ段階ではありませんね」と、アブドルアジズ王子はいくらかの安堵感を交えて言った。

  • ダニエル・ヤーギン著「新たなる地図:エネルギー、気候、そして国家の衝突」(アレン・レーン)から抜粋。(C) Daniel Yergin 2020.
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