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インタビュー:つながった湾岸諸国というヴァージン・ハイパーループのビジョン

ルイス・グラニーナによるイラスト
ルイス・グラニーナによるイラスト
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23 Nov 2020 12:11:26 GMT9
23 Nov 2020 12:11:26 GMT9
  • サウジアラビアが世界的「ムーンショット」計画の拠点となっている理由について、ハイテクプロジェクトの中東責任者が説明する

アラブニュース

アブダビの家からリヤドに通勤?ジッダからドバイまで2時間で移動?リヤドからメッカまで日帰りの旅?

こうした未来的概念も、ハイパーループの時代が到来すれば10年後には現実のものとなる可能性がある。ハイパーループは今まさに中東、そして世界の日常生活を変貌させようとしている高速輸送テクノロジーだ。

ヴァージン・ハイパーループ・グループ中東・インドの取締役社長ハージ・ダリワルは、ハイパーループテクノロジーこそ未来の輸送システムだということをもはや信じて疑わない。2週間前にネバダ州の砂漠地帯で、初めて乗客を乗せた試運転が成功に終わったからだ。

「米国運輸省長官(イレーン・チャオ)は、ハイパーループこそ現在の輸送システムにとって最も大きな期待の寄せられるものだと言うが、おそらくそれは本当だろう。このテクノロジーの有用性が実証されていけば、高速鉄道はもはや過去のものとなる」とダリワルはアラブニュースに語った。

ダリワルがそう言うからには、かなり信憑性の高い話である。彼はもともと英国で輸送プロジェクトに深く関わっており、やがて米国のグループ、パーソンズで中東における先進的鉄道システムの開発に携わるようになった。その経歴にはアラブ首長国連邦(UAE)でのエティハド鉄道プロジェクトやサウジアラビアでのリヤドメトロなどが含まれる。しかし、ハイパーループに関して言えば、人や物資の移動というものを根本的に変えてしまうものとなる、と彼は確信する。

「ハイパーループという有望な可能性がある時に、鉄の車輪を鉄のレール上で走らせるといった150年前からのテクノロジーに対して何十億ドルという投資をするような人はいないだろう」と彼は言う。

ダリワルは、例えば大重量の物資や石油化学製品の輸送など、従来型の鉄道もやはり中東地域で重要な役割を担うことになることは認めている。しかしハイパーループは未来のテクノロジーであり、しかもサウジアラビアではどこよりもそれが言える。

今年初頭、ヴァージン・ハイパーループ・グループはハイパーループの潜在性の研究についてサウジアラビアの運輸省と協定を結び、試運転用のトラック設備や他のテクノロジー関連のインフラストラクチャの建設について取り決めが行われた。

その合意によって、サウジアラビアとヴァージン・ハイパーループの間の財務関係がより緊密になる可能性がある。今のところ、UAEの港湾業務及びロジスティクスの企業DP ワールドをはじめとする投資家たちから4億ドルの資金を集めているが、ハイパーループの次なる開発段階のための資金がさらに必要とされている。

サウジアラビアはハイパーループの戦略上の中心地3カ所のうちの一つとなり、他の2カ所はインドと米国だ。同社は先日ウェストヴァージニア州に5億ドル相当の試行と認定を行うセンターを建設する計画を発表した。 

「当社はサウジアラビアにも同様の施設を置いて、同国と他の中東諸国とを結ぶことを検討しているが、さらに製造、テクノロジー、資材の中心地としても機能させようと考えている。ヨーロッパは(サウジアラビアから)さほど遠隔ではなく、テクノロジーと資材を輸出することが可能だ」とダリワルは言う。

この戦略はビジョン2030多様化計画の目標にも即したものだと彼は言う。その目標とは、テクノロジーを中心として国の経済の石油歳入依存を低減するというものであり、サウジアラビア国民のために価値の高い仕事を創出することだ。

略歴

出身:1964年英国生まれ

教育:ノッティンガム・トレント大学、工学学士号取得

職歴

  • 英国輸送プロジェクトで様々な職務を経験
  • カタリ・ディアル、プロジェクトディレクター
  • パーソンズグループ、シニアバイスプレジデント
  • ヴァージン・ハイパーループ中東・インド、取締役社長

ダリワルは、ハイパーループが改革計画における大規模プロジェクトの幾つかを結びつける上で極めて重要な役割を担うと考えている。それらのプロジェクトには、サウジアラビア北西部のNEOMで建設中のテクノロジーメトロポリス、リヤドの南のキディヤにおける広大なテーマパーク、紅海沿岸のキング・アブドラ・エコノミック・シティにおける海事拠点などがある。

彼はジッダ近郊にあるキング・アブドラ科学技術大学と提携し、ハイパーループテクノロジーの詳細部分について研究を続けている。

「我々はサウジアラビアの輸送上の要件を理解しようとしている。サウジアラビアがテクノロジー部門のリーダーとなるべく多様化を進めるにしたがって、当社のような企業が国と提携関係を結ぶ機会が増大する。

「バッテリー、電気自動車、太陽エネルギー、人工知能といった他のテクノロジーの分野では多くの副産物が生まれている。単にAからBへの輸送ということにとどまらず、製造と知識に関する無限の成長の機会がある」とダリワルは言及した。

ネバダ州での試運転はこのテクノロジーの開発における金字塔となった。

ヴァージン・ハイパーループのCEOジェイ・ウォルダーはこう語る:「これは歴史的重要性を持つ一段階だと言っても過言ではない。ムーンショット的瞬間だ。これによって世界が変わることを私は信じて疑わない」

ダリワルは比較的控えめにこう語る:「それは2年に及ぶ研究開発の集大成だった。開始当初から、いつ実際にそれに人が乗れるようになるのかと尋ねられていた。そして今我々は、真空環境での浮上が実用可能であり、真空チューブ内で浮上走行するポッドで安全に乗客を運ぶことができるということを実証することができた」

他の競合グループもハイパーループのような真空チューブによる移動手段の開発に取り組んでおり、世界各地で試験運行を行っているが、ネバダ州での試運転はポッドに実際に人を乗せて密閉チューブ内を移動させた初の試みであった。このテクノロジーのアイデアの元祖はテルサの億万長者イーロン・マスクだ。

ヴァージン・ハイパーループの2名の社員が長さ500mの試験トラックを15秒で移動し、そのスピードは時速172kmに至った。

「スポーツカーでアクセルを踏んだ時とほぼ同じような感覚だった」とその一人は言う。スピードは試験トラックの長さのために制限されていたが、ヴァージン・ハイパーループとしては最終的に人や物資を時速1,000 km以上で移動させることを考えて  いる。

それは3万フィートの上空を飛ぶ民間航空機とほぼ同じスピードであり、ダリワルがハイパー・ループの走行性能を語る際に、バンキングとかロールとかピッチといった航空機用語を使うのももっともだ。

そうしたレベルのスピードにおける安全性がやはり最大の懸念であり、ダリワルや他の同社重役たちは、このテクノロジーが乗客を乗せるに足るものであることを実証するにあたり、長い時間をかけて規制機関や認可当局と話し合いを重ねている。

ハイパーループによる移動には世界的な基準というものが存在しないため、そのテクノロジーならびに関連するインフラストラクチャは、開発を進める中で主に米国とヨー ロッパの規制事項を織り交ぜ、中東の現地要件と照らし合わせながら、独自の規則を作り出している。

「一企業として当社はやるべきことをすべてやり、業界に対しては規制機関や当局の方から話をさせた」とダリワルは言った。

初の乗客輸送という画期的試みに全注目が集中した一方で、ダリワルはハイパーループの物資輸送能力についても強調する。とりわけ高価で腐敗しやすい物の輸送に関しては、スピードと効率が非常に貴重な要因となる。

「ポッドは連結させて一つの隊列を作ることができ、高速で物資を輸送する上でそれは最も効率的な方法となる。また、電動でそれらを分離させたり、再び結合してさらに次の輸送を続けたりすることができる」と彼は言う。

高価物資の輸送能力は、ヴァージン・ハイパーループの主要株主であるDPワールドの関心を惹きつけた理由の一つだった。UAE企業であるDPワールドは、UAEのジェベル・アリの拠点、中東内の他の拠点間、そして同社のカーゴスピード業務におけるその他の拠点に先進的なロジスティクスシステムを導入する計画をもっている。同社のサルタン・アフマド・ビン・サライエム会長はヴァージン・ハイパーループの会長も兼任 する。 

起業家リチャード・ブランソンの経営するヴァージン社は少額投資会社で、ヴァージン・ハイパーループの重役会にも名を連ねている。「ヴァージンはビジネス上当社の一部のような存在であり、今現在も彼らから多くのサポートを受けている」とダリワルは言う。

ある段階において、ヴァージン・ハイパーループはこれまでに集めた4億ドルにさらに上乗せする資金を集めようとしている。さらなる試行施設の建設・運営という金のかかるビジネスのための資金、そして当分先の話ではあるが、向こう10年以内ぐらいで、いずれは初の実地運行のための資金も必要となるからだ。

「これまで集めた資金額はわずか6歳のスタートアップ企業としては例を見ない大きさだが、さらに多くの投資家と提携先が必要となる。資金の用途はいくらでもある」と彼は言う。

高度なテクノロジーと仕事の創出の点から、ヴァージン・ハイパーループはサウジアラビアの投資家たちにとって当然といえる投資先だ。サウジアラビアで成長を続けるソブリン・ウェルス・ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンドは大規模プロジェクトの後ろ盾となり、経済の多様化戦略を支援するため、ハイテクと自動化に関する計画に対して優先的に融資を行っている。

「当社はサウジアラビア政府や大規模プロジェクトを行う人々と提携している。また、投資の機会があればそれを拡大するための努力を惜しまない。現在当社はそうした方向に向かっている」とダリワルは述べた。

ハイパーループテクノロジーが期待通りのものであるならば、ネバダ州での有人テストはそれに向けての大きなステップであり、サウジアラビアのロジスティクス及び輸送産業におけるゲームチェンジャーに、そして、ビジョン2030多様化計画における重要な要素になるはずだ。

「ヴァージン・ハイパーループに参入した時、私はつながった湾岸諸国というビジョン、つまり時間と距離がもはや雇用と開発の障壁とはならない「仮想地域」を作り出すというビジョンを持っていた。そしてそのビジョンは立ち消えとはならなかった」とダリワルは言う。

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