伊勢:日本アルプスの森の奥深くで、白装束に身を包んだ木こりが斧で2本のヒノキの古木を切るのを、神職が見守っている。
1時間後、木こりが「木が倒れるぞ!」と叫ぶと、樹齢300年のヒノキの1本が倒れ、森に深い亀裂が響いた。その刹那、もう1本のヒノキが倒れた。
この神聖な木材の儀式的伐採は、日本で最も崇敬されている神宮である伊勢神宮で過去1300年間、20年ごとに行われてきた驚くべきプロセスの一部である。
毎世代、伊勢神宮は取り壊され、一から建て直される。3億9000万ドルという巨費を投じ、約9年かけて取り壊しと建設が行われる。伊勢神宮の再建には、国内最高の大工、木こり、建築家、職人たちが、工事が始まった瞬間から運命が決まってしまう建造物の細部に心血を注ぐ必要がある。
伊勢の建物は、プロジェクトが再び始まるまでの約10年間しかっていないが、神職が建物を奉献すると、職人たちは叫ぶ:「千年の建物!万年!100万年と永遠に!」
神社の近くにいる人々は、終わることのない再建が自分たちの生活と絡み合っていることに、しばしば深い悲しみを覚える。
「今から20年後、上の世代、つまり私たちの祖父たちはもうここにはいないでしょう。そして今まだ若い私たちは、孫たちが次の伊勢の姿に携わるのを見ることになるのです」と、神社のミニチュア・レプリカを製作する家業を持つ神職の川西洋介氏は語った。「20年も経てば、私たちが造っている神宮はかなり劣化しているでしょう。でも、”せっかく建てたものを壊すのはもったいない “と考えるのではなく、”20年経ったのだから、神さまには美しく新鮮な新しいお社に移っていただきたい “と考えるのです」
AP通信のジャーナリストたちは、今年公に始まったこの古代の循環プロセスの最新版を記録している。
125社殿の再建は9年がかり
これは63回目の再建サイクルである。最初の記録は、持統天皇の皇后時代の690年だと、日本の歴史と考古学の専門家である皇學館大学名誉教授の岡田昇氏は言う。
125棟の社殿はすべて取り壊され、同じ建造物や1500点以上の衣服や祭具が、代々受け継がれてきた技法で再建される。それに付随する33の祭りと儀式があり、2033年には祭神を新しい神社に移す儀式が行われる。
伊勢神宮の内宮は、五十鈴川のほとり、三重県の山間に二千年にわたって祀られてきた太陽の女神、天照大神を祀っている。
稲田美織氏は、伊勢神宮の再建を10年にわたり撮影した写真に基づく本の中で、絶え間なく続く再建について、20年というサイクルが貯蔵米の賞味期限や、人間の寿命を構成する伝統的な20年ごとの段階(誕生から成人、成人から中年、中年から死)に合致しているなど、いくつかの説を提示している。
稲田氏は、新しい神社の祭礼についてこう書いている:「目の前で繰り広げられているのは、1300年前、それから20年ごとに行われてきた儀式とまったく同じであり、これからも何度も何度も繰り広げられるのだということに、私は大きな感動を覚えた」
ハーバード大学で美術史と建築学を教えるユキオ・リピット教授によれば、再建が中止されたのは、15世紀と16世紀の内戦中と第二次世界大戦後の2回だけだという。
「伊勢が独特なのは、消耗のために、再建のサイクルを維持するのは難しい。かつては定期的に建て替えが行われていた神社の多くが、現在では建て替えを中止している」
神官が山の神に伐採の許可を求める
先日の土砂降りの雨の中、糊のきいた衣をまとった神官たちが太鼓を打ち鳴らしながら伊勢神宮の内宮まで行進し、古くからの再建プロセスの始まりを告げる祈りを捧げた。
「私たちの住む世界と山の世界は別世界です。そのため、人が山に入り木を切ったり植物を採ったりするときは、まず山の神の許可を得なければなりません」と歴史学者の岡田氏は言う。
再建の儀式を見ようと何千人もの人々が集まるが、これは長い間、神道信者の極点であった神社に集まる年間約700万人の巡礼者の一部である。日本の土着信仰である神道は、家族や共同体の文化的な結びつきとしても機能しており、その大部分はアニミズムに根ざしている。神道では、何千もの「カミ」(精霊)がこの世に存在する。伊勢は繁栄しているが、日本の人口が減少し、若者が地方から大都市に移住する傾向が強まるにつれ、神社の数はここ数十年で激減している。
「一生に何度このような光景を目にすることができるか、片手で数えられるほどなので、本当に貴重な光景だと感じました」と、初めて神事を見たという中瀬勇人さんは語った。
夜、神官たちは提灯を持って山に向かい、本殿の床下に安置される御柱のお祓いをする。
儀式は立ち入り禁止だが、神社関係者によると、特別な斧で木を切り倒した後、白い布と葦のマットで包むという。
参拝者はしばしば伊勢の深い神秘性を口にする。
「多くを語らず、多くを見せず、多くを説明しない。感じるものなのです」と神職の川西氏は伊勢神宮について語った。
地元で酒屋を営む前田依子さんは、橋を渡って境内に入った瞬間、その変貌ぶりに気づいたという。
「呼吸が変わるんです。感じるものも変わります。音や風や自然が、私のストレスを解放してくれるようです。…そこにはある種の深みがあり、私にとってはとても心地よく、快適な空間なのです」
細部にまでこだわる伐採儀式
長野県の森では、木こりが伐採したばかりの木の先端を、伐採したばかりの別の木の切り株に差し込む。集まった木こりたちは、切り株の前で一礼して祈りを捧げ、伊勢に使われる特別なヒノキを記念する。
「木の命の連続性を尊び、森の再生を祈るものです」と、地元で製材会社を経営し、伝統的な伐採技術を守る会を運営する池田宗樹さんは説明する。「木が生き物であることに感謝し、その気持ちを心に刻むのです」
それからの数日間、伝統的な衣装を身にまとった数十人の男たちが、膝まで水につかりながら、リズミカルにお経を唱えながら、2トンの丸太を五十鈴川の中を神社まで引っ張っていく。
ハーバード大学のリピット教授によれば、伊勢には10軒の大工工房が常住しており、さらに他の職人も呼び寄せられるという。神宮の屋根に使われるミスカンサスの萱は、特別に2メートルを超える長さまで育てられる。
伊勢のヒノキ林は、絶え間ない建築のために特別に植えられたもので、その栽培はしばしば人間の寿命を超え、代々受け継がれていく。
木材の専門家である池田氏は、神宮のために育てられたヒノキとの関係について尋ねられると、一言だけ答えた:”深い”。と答えた。
40年前、彼が24歳のとき、祖父の運転で伐採の儀式に参加した。祖父は私にこう言った。「木が泣くことを知っているか?」
私は『まさか、木が泣くわけがない』と答えました。
しかし、木こりがヒノキを切り倒すのを見ているうちに、「斧の音が山に響き渡り、約1時間後、斧が木の芯を打つと、血のように流れるヒノキの香りが充満した」という。
「最後の斧の一撃で木が折れたとき、悲鳴のような、『キィー』という甲高い音がして、木が雷のような音を立てて倒れた。その瞬間、『ああ…本当に泣いたんだ』と思いました。木が自分の命の尊さを知っているかのように、自分の命を悼んで泣いているように感じたのです」
AP