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元日産幹部ケリー氏「刑事裁判でなく、役員室での裁判を」

2020年9月15日、東京地方裁判所での初公判に現れた日産自動車の元幹部グレッグ・ケリー氏(左)。(資料画像・AP)
2020年9月15日、東京地方裁判所での初公判に現れた日産自動車の元幹部グレッグ・ケリー氏(左)。(資料画像・AP)
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19 Aug 2021 05:08:23 GMT9
19 Aug 2021 05:08:23 GMT9

元日産幹部グレッグ・ケリー氏は3年近く経った今でも、氏の日本での逮捕および裁判を招いた質問がなぜ同社の役員室で取り上げられなかったのか、不思議に思っている。

日産自動車で30年間働いたアメリカ人弁護士のケリー氏は、カルロス・ゴーン元会長の不正会計容疑事件の裁判の判決を待っている。追い詰められたルノー・日産・三菱アライアンスのゴーン元会長は2019年末の保釈中にレバノンへ逃亡し、日本に残されたケリー氏はゴーン元会長の報酬の過少申告容疑にひとり直面することとなった。ケリー氏は容疑を否認している。

「我々のどちらかが犯罪や犯罪行為に関与したとは考えていません」と保釈中のケリー氏は水曜、氏の東京のマンションで行われたAP通信のインタビューで語った。

「我々が関与していたのは、ビジネス上の問題解決です。その問題とは、非常に価値が高いが報酬の低い幹部を引き留めるために取ることができる合法的な手段は何か?というものでした」と、ケリー氏はゴーン元会長について述べた。

「この問題は日産で、企業レベルで解決されるべきものでした。刑事の問題ではありません」と、有罪判決が出れば懲役15年となり、運命の行方を待つ間日本を離れることも許されないケリー氏は語った。判決は3月まで出ないものとみられる。日本の刑事裁判は99%以上が有罪判決となっている。

ケリー氏の背後に目をやると、妻のディーさんとともに暮らすマンションの一室の壁には2人の孫の写真がたくさん貼られているが、ケリー氏は月齢20カ月の子のほうについてはまだ抱いたこともない。いちばん大切なものは家族だ、人生の終盤を迎えた今はなおさらだ、と64歳のケリー氏は言う。

「60代に入ると、その先は長くありませんから」とケリー氏は述べた。

「私にとって、家族と一緒に過ごせない一日一日がストレスなのです。家族から引き離されて33カ月にもなります。これは企業の問題なのに、おかしなことです」

事の経緯

2018年に日本での会議に出席するよう依頼を受けたとき、ケリー氏はすでにテネシー州ナッシュビルで日産の仕事をしていた。ケリー氏は疼痛を伴う頸椎の病気で頸椎固定術という手術を受ける予定が入っていたため、テレビ会議を提案した。しかし日産はその週のうちに帰れると約束し、社用ジェット機を押さえた。

日本に到着すると、ケリー氏はバンに乗せられた。運転手はちょっと車を止めてもいいかと尋ね、電話をかけた。すると突然バンのドアが開き、検察官および通訳と称する数名が車内に押し入った。

ケリー氏は手錠をかけられ、ボディチェックをされて拘置所に連行され、その後取調室へ連れていかれて検察官の尋問を受けた。当初は弁護士の同席もなかった。

「ショックでした」とケリー氏は言う。

氏は35日間独房に入れられ、毎日尋問を受けた。ケリー氏は混乱した。妻にも電話できなかった。日産に助けを求めたいと懇願した。その実、逮捕劇の裏にいたのが日産だったとはつゆほども知らなかったと、氏は語る。

保釈中の生活

ケリー氏は判決を待つ間、夫とともに過ごすために2019年1月に学生ビザで来日して日本語の授業を受けている妻と、長い散歩に出かける。

イリノイ州ロックアイランドのオーガスタナ大学在学中から同窓で恋人だったディーさんがいてくれて幸運だと、ケリー氏は言う。
ディーさんは裁判も傍聴し、ケリー氏が法廷に入室すると氏に向けて親指を立てるジェスチャーをみせた。裁判記録は日本語でのみ作成されるため、最前列で熱心にメモをとった。

ディーさんは2018年11月にラジオでゴーン元会長と「アメリカ人幹部」の逮捕のニュースを聞いたとき、夫妻の自宅近くを散歩中だったという。

出張中の夫に何が起こりえたのかわからず、「息ができないような感じでした」とディーさんは言う。

自宅に戻ると、すでに日本の報道陣が玄関に集まっていた。

「老後は子どもたちと一緒に過ごす時間を持てるようにと、生涯ずっと働きづめだったんです。孫たちの人生に大きく関わりたいという強い思いを抱いていましたが、その機会も奪われました」と、ディーさんは以後展開した出来事について語る。「彼が受けた仕打ちはひどいなどという生易しいものではありません」

ケリー氏は日産に生涯を捧げたとディーさんは言う。「こんな扱いを受けるなんて。特にそれが、かつて友人だった人達によるものでしたから、本当につらいです」

裁判事件

日産のトップ幹部の数人のみが知っていたことだが、日本で各幹部の給与の公開が義務付けられた2009年度にゴーン元会長の給与は20億円(2000万ドル)から10億円(1000万ドル)に切り下げられた。

検察は給与カット分を埋めるための綿密な計画があったと主張しており、これは日産の有価証券報告書に記載されるべきだったという。

検察は裁判で、別の日産幹部が詳細に記録していたゴーン元会長の未払い給与一覧表を提示した。ケリー氏はこの一覧表の存在を知らなかったとしている。

自動車業界の大物から国際的逃亡者となったゴーン元会長は生まれ故郷のレバノンで、報酬の過少申告と会社資金の不正使用の容疑を否定し、パートナー会社のフランス・ルノーの支配への抵抗による日産の業績低下に関連した社内クーデターの犠牲者になったものと主張している。

ゴーン元会長はAP通信が5月に行ったインタビューで、ケリー氏について「明らかに無実だ」として堅牢な弁護姿勢を見せた。

「ケリー氏は(日本)政府がゴーン元会長逃亡後、メンツ回復を図り駒として利用されたようなものと捉える向きもあります」と、リッチモンド大学のカール・トビアス教授(ウィリアムズ名誉法学教授)は語る。「結局のところ、この浅ましい物語に勝者はいないのかもしれません」

アライアンスの背景

ケリー氏の主任弁護士を務める喜田村洋一弁護士は43年に及ぶ被告側弁護士のキャリアの中で、今回のケリー氏のような事件に遭遇したのは初めてだと言う。

「証拠がまったくありません」と喜田村弁護士は言い、さらに動機もないと付け加えた。「日産と検察側が結託して刑事事件に仕組んだのです」

ケリー氏はただ日産のために最善なことをやろうとしていただけだと、喜田村弁護士は続けた。

日産の人事部門でケリー氏と一緒に働いていたハリ・ナダ氏がケリー氏の裁判で行った証言によると、ナダ氏は検察に対しゴーン元会長の未払い報酬に関する情報を提供した。ナダ氏は司法取引により起訴を逃れた2人の日産幹部のうちの1人だ。

ケリー氏はゴーン元会長と同様、両社がより対等な立場を維持しつつ競争力も保つことができると考えた方法でアライアンス強化を図る日産・ルノーの合併を支持したがために、自身がやり玉に挙げられたのではないかと言う。

裁判所での証言によると、ナダ氏、日産の西川廣人元最高経営責任者(CEO)、その他日本人幹部数名は合併に反対したという。

「このシナリオはごく小人数で作られたのです」と、ケリー氏は自身およびゴーン元会長の逮捕について語った。

ケリー氏の兄弟たち

グレッグ・ケリー氏の兄弟、ジョンさんとデイブさんは先月、いとこや妻、友人たちとともにシカゴオートショーに姿を見せた。全員で「グレッグ・ケリーを解放せよ」と書いた帽子やTシャツを身に着け、ピケを張りリーフレットを配布した。

「犯罪を行うには動機が必要です。グレッグは何ももらっていません。日産を助けようとしていただけです」と、ルイジアナ州ラファイエットに住む石油エンジニアのデイブ・ケリーさんは電話インタビューで語った。

「グレッグは自分の仕事をしていただけです」

兄弟は裏庭で一緒に野球やフットボールをして育った。

「グレッグはいつも正直者でした。いつだって信頼でき、相談できる人間でした」と、ニューヨーク州オナイダ在住で一般外科医を務めるデイブさんは言う。

「自分の兄弟だから、わかります。グレッグはいかなる不正にも絶対に関与する人間ではないと、私は知っています」

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