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トルコ内相が辞任表明するも受理されず うかがわれる政権内の溝の深さ

トルコのスレイマン・ソイル内相。(AFP)
トルコのスレイマン・ソイル内相。(AFP)
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14 Apr 2020 11:04:50 GMT9
14 Apr 2020 11:04:50 GMT9
  • 与党公正発展党(AKP)からは昨年、離党組により2党が分離、すでに相当の支持基盤を喪失

アラブニュース

【アンカラ】12日遅く、一言居士で鳴るトルコのスレイマン・ソイル内相が電撃的に辞任を表明、新型コロナウイルス感染症の拡大阻止に向けた対策をめぐり、トルコ政府内で溝が広がっていることが明らかとなった。

レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が受理しなかったとはいえ、ソイル氏が辞任表明したことは大統領のリーダーシップにも危機を招きかねなかっただけに小事とはいえない。

ソイル氏は2016年から内相ポストに就く。今月10日、ほぼ深夜の時間帯に突如として2日間の外出禁止令を31都市に発令、パニックを呼んだことから辞任を表明した。
社会的距離の確保が叫ばれるなか、パン店、ガソリンスタンド、食品店へ群衆が殺到、同氏は危機管理にミスがあったとして陳謝した。野党勢力は手厳しくこれを批判した。

10日夜の混乱の責任を取る形で同氏がみずからのミスを認める異例の発言をしたことは、政策ミスがあってもだれひとりそれを認めて辞任することのない与党公正発展党(AKP)としては稀有の例だ。

「ソイル氏の辞任表明は、外出禁止令をめぐるミスの責任を取るというよりは、これを機にエルドアン氏がソイル氏を馘首することを期待した敵陣営に対するむしろ先制攻撃とみる向きが大勢となりつつある」。政治アナリストのアンベリン・ザマン氏はこのようにツイートしている。

エルドアン氏の側近中の側近であるソイル氏が辞任表明したことはトルコ政府内部に軋轢があることを示す。それとともに、新型コロナ感染症が蔓延するなかで、政権内の内紛の深まりに対処する必要性も示唆している。

ソイル氏は、エルドアン氏の娘婿で財務相を務めるベラット・アルバイラク氏とは犬猿の仲で知られる。社主がアルバイラク氏に近い日刊紙サバフは、25万人がパン店などに押し寄せる結果となった10日夜の外出禁止令発表で「下手を打ち」、ソイル氏の辞任表明となったとツイートした。

今回のソイル氏の辞任表明にからみエルドアン氏が難しい選択を下したのは、仮にソイル氏を辞任させた場合、同氏はみずから新党を結成するか、あるいは既存の右派政党に加わりかねず、そうなるとすでに弱体化している与党にとって追い打ちをかけることになるからだ、とみるアナリストらもいる。

AKPからは昨年離党組により2党が分離しており、すでに相当の支持基盤を喪失している。

AKP入りする以前のソイル氏はエルドアン氏に対する歯に衣着せぬ批判で知られた。黒海地域にルーツをもつ同氏に対してはエルドアン氏の後継者とみる向きも多く、またトルコ社会のイスラム教徒や民族主義者らを背景とする独自の支持基盤ももつ。

AKP王国として知られるトルコ北部のリゼ市では、ソイル氏の辞任表明を知った市民の一人が自殺をちらつかせたものの、警察から辞任しても受理されないと言い含められ思いとどまった。イスタンブールの保守的なエリアでは、エルドアン氏がソイル氏辞任を受け入れなかったことを受け、車列を組みホイッスルを響かせながらこれを祝賀する者であふれた。

ソイル氏は事態収拾後、開口一番に、大統領および国民の支持に身の縮む思いだ、とツイートした。さらに、「今後とも国家に尽くす責務を続ける」ことを誓約した。
『エルドアンの帝国――トルコと中東政治』の著者ソネル・チャアプタイ氏は、2013年以降、エルドアン氏の政策指針はイスラム思想家のネジップ・ファズル・クサキュレクの哲学を借りたものだという。クサキュレクはかつてこんなことを言ったそうだ。「一塊の煉瓦とて防壁より落とすべからず」。

本紙にチャアプタイ氏は語る。「閣僚はエルドアン氏が罷免するまで仕える。職務に失策があったからといって一人辞めさせれば、他も辞めさせろと求める声は雨あられとなるはずだ。なので、全員職にとどめておいたほうが良策なのだ」

今回の辞任劇はトルコ政府中枢に深い亀裂があることを示すが、エルドアン氏がそれを表立たせることはまずないだろう。また今後は、閣僚は一人たりと辞任させないはずだ。チャアプタイ氏はそうも言う。

「一人でも閣僚を離任させれば内閣全体とエルドアン氏自身が矢面に立つことになりかねない。昨日の一件で勝利したのはエルドアン氏の生存本能ですよ。たとえひとくれのレンガであろうと防壁から落としてはならんのです」とチャアプタイ氏。

ジャヒット・トゥルハン運輸相は先に、新型コロナ感染症がはびこるさなかに巨大プロジェクトのイスタンブール運河の入札に着手したことをとがめられて職を追われている。

「トルコ与党内部ではかねて、内閣の二枚看板であるアルバイラク氏とソイル氏の両派閥が党内紛争を繰り広げていた」

「トルコ国内で新型コロナのパンデミックが悪化するなか、もはやこうした不和は抑えきれなくなっていることの証左が今回のソイル氏の辞任劇だ。10日夜の外出禁止令をめぐる論争はその最たるもの」。本紙にこう語るのは、アンカラのベルケント大学に籍を置く政治アナリストのベルク・エセン氏だ。

「ソイル氏としては敵方からの強い批判を予期して先手を打った形だろう。エルドアン氏としても政局を招く危険は冒せないからソイル氏の内相留任を支持する声明を出さざるをえないことを踏んだうえで辞任表明を出したということ」と同氏は言う。

さらに同氏は、ソイル氏にはトルコの安全保障当局に強い支持基盤があると言う。また、クルド系政党の人民民主主義党(HDP)へ果敢に打って出る姿勢から、AKPとも同盟を組む右派政党・民族主義者行動党(MHP)などの民族主義団体の間でも高い人気を誇るという。
「12日夜にエルドアン氏が公然とソイル氏を支持したことで、ソイル氏の右に出る閣僚はいなくなり、その地位はとてつもなく強大になった。もはやソイル氏にはうっかり手を出せなくなっているし、MHPの支持すら隠していない」

「新型コロナの蔓延でトルコ政治はすでにズタボロの状態だ。この先数週間のうちには与党AKPも劣勢になるかもしれない。この危機をソイル氏がやりすごせるかどうかは、今後の見物だ」とエセン氏は語る。

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