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【スクープ】カタール航空、新型コロナ禍の渦中で会社の宣伝にかまけ乗務員の生命を危険にさらす

トゥールーズ近郊のトゥールーズ・ブラニャック空港を飛び立つカタール航空のエアバスA350。2019年9月27日付けの資料写真。(AFP)
トゥールーズ近郊のトゥールーズ・ブラニャック空港を飛び立つカタール航空のエアバスA350。2019年9月27日付けの資料写真。(AFP)
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23 May 2020 01:05:52 GMT9
23 May 2020 01:05:52 GMT9

アラブニュース

【ドバイ】カタール航空といえば、航空会社格付会社のスカイトラックスによる「五つ星」評価を誇る航空会社。ところが、新型コロナウイルスが感染拡大する中で社の宣伝にかまけたあげくきりもみ状態に陥り、世界の航空産業を一驚させる事態となった。

旅行業の失速と莫大な赤字額に世界中の航空会社がほぼよたついているおりもおり、カタール国営フラッグキャリアであるカタール航空の取った進路は最小限の乱気流だった。

そればかりか、カタール航空の本社ドーハに構える経営トップにしかおそらく知る由もない理由で、同航空はある戦略に賭けた。その表の顔は殊勝げだが、裏の顔は企業内いじめにほかならない。

カタールは、裏では外国人労働者を搾取し、表では外国人労働者の権利を改善するとしかつめらしく公約する。そうした表と裏の顔の使い分けについては枚挙にいとまがない。したがって、あのカタールならさもありなん、だ。

同航空が就航する世界のあらゆる国へ向けて、医師や看護師10万人に無料航空券を配るとした発表を例に取ろう。

一見するとこの構想、新型コロナの大流行以来、生命を賭して現場で働く人たちへカタール航空が示す謝意のあらわれと映る。モデルらに、医療プロフェッショナルよろしく颯爽としたポーズを取らせ、いかにも絵になる。

[caption id="attachment_15138" align="alignnone" width="438"] カタール航空、10万人の医師・看護師に世界各地の就航先へ飛べる無料航空券を提供すると発表。(カタール航空ソーシャルメディア提供写真)[/caption]

また、折しも空港はのきなみ閉鎖され旅客の往来も絶えてしまったことから、各国の航空会社は資金繰りに窮している状況だ。古い殻を破る新発想を試してみたとて、CEOなりCFOを責めることはまさかできまいところだ。

しかしカタール航空の無料航空券提供計画については、パンデミックのさなかにコストカットを断行しようとする所行からメディアの目をそらしたいという臭気が芬々と漂う。どうにも計算高さが透けて見えて鼻白まされる、と言うのは何も皮肉屋だけではない。

3月に他社がフライト計画を削減した際には、「取り残されたお客さまをご家族のもとへお戻しする」のが当社の使命です、などと言って自社航路に追加シートを設置したなどというのも、同じ臭気芬々だ。

こうした人目を引くようなことをしつづけるものだから、結果として、同航空は人員削減の扱い方やフライトクルーらの処置に目を光らせられることとなった。カタール企業といえばあまねく労働者の権利は侵害されている、というのが相場だ。

カタール航空乗務員で、南アジアの国出身の女性は、失職を恐れ匿名を希望しつつこう言う。「ほかにどうしようもありませんでした。搭乗しないとクビなのです。マネージャーの脅しはいつもひどい物言いでした。たとえば、『この便に乗らないんなら、チンケな自分の国に帰るんだな』なんて暴言を吐かれます」

「見映えのいい人とか上から気に入られている人、特にヨーロッパ出身の人は、一芝居打ってCNNなんかに『医療関係者を乗せられてうれしい』なんて演技をするんです。そうするとたくさんごほうびをいただけるんですけど、そういう人って別に搭乗したり何のリスクも負ったりしなくていいんです。そういう便に乗らないといけないスタッフにくれるものといえば、脅迫の言葉しかないですよ」

アナリストらはこう見立てる。カタール航空で苦しい思いで働いている人や馘首されたばかりの人にまつわるおどろおどろしい話は、会社の名折れとなってしまう。なにしろカタール航空はドーハが商業拠点・世界の旅行拠点として定着する上でなくてはならぬコアなのだ。

カタール航空も傘下に収めるカタール航空グループは、2019年3月期末の通期決算発表時点で4万6,684人の従業員を擁する。

[caption id="attachment_15139" align="alignnone" width="465"] カタール航空ドーハオフィス前を通る車列。2017年6月6日。(AFP/資料写真)[/caption]

カタール航空はアクバル・アル=バーキルCEOの承認を得て、人員の2割近い削減をおこなう構えだ。

同CEOは最近BBCとのインタビューで、削減される業務についてこう述べている。「私としても手放してしまうのは本当につらい。が、ほかに打てる手がないのです」

バーキル氏の言う「本当につらい」なる言葉、はたして、賃金やスタッフを切られる側の感じる思いにいかばかり寄り添ったものといえようか。

カタール政府は折しも、イデオロギーを同じくする友邦トルコへの100億ドル融資を発表した。トルコの外貨準備高は新型コロナ禍により涸渇状態だ。外国へ融資するカネはあるのに自分たちはレイオフされる人たちにしてみれば、その「つらい」ことといったらひとしおだろう。

裏の取れた話ではないが、カタール航空の乗務員のうち一時解雇を予定されるのは5,000人になんなんとするともいう。

[caption id="attachment_15140" align="alignnone" width="484"] 記者会見の場で発言するカタール航空最高経営責任者(CEO)のアクバル・アル=バーキル氏。ドーハ、2019年10月22日。(AFP/資料写真)[/caption]

ネット上の風説から推すと、社を去る人の基準として15年以上勤務というのがひとつのめどとなるようだ。

真偽は不明だがカタール航空の雇用と解雇にまつわる施策には年齢差別が蟠踞するともいい、この説を裏づける。

これについては、奇矯な物言いで鳴るバーキル氏も恬淡と言ってのけている。2017年7月に、カタール航空の乗務員の平均年齢は「たったの26歳」だが、これとは対照的に米国の航空会社にいるのは「おばあちゃんばかり」と得意げに語ったのだ。

カタール航空側の言い分も聞いておこうと本紙も努力したものの、記事発表段階で回答は引き出せなかった。

とはいえ、説明責任はカタール政府当局にあるということで、カタール航空側に懸念材料はないということになる。

[caption id="attachment_15141" align="alignnone" width="444"] カタール首都ドーハで列を作って診察を待つマスク着用の人々。2020年5月17日。(AFP)[/caption]

今年2月だからごく最近の話だが、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)がカタール政府当局を非難している。管理職に5か月間、一般労働者には2か月間給与を支払わなかった経営者に対し、労働側から声が上がるまで経営側に与した、というかどだ。

「今回の事例が明らかにしているのは、カタールで企業活動中の経営側すべてにまつわるカタール全体の欠陥だ」とHRWはしている。

HRW中東担当副部長のマイケル・ページ氏はにべもない。「カタールでは外国人労働者保護に関しいくつか法も成立した。が、カタール政府はこうした法に実効性をもたせるよりメディアにおける小規模な改革を進めることのほうに執心しているようだね」

昨年末にはアムネスティ・インターナショナルがカタールの3企業(建築業・清掃業)へ調査をおこなった。結果は52ページの報告書にまとめられた。タイトルは、『いくら働いても賃金ゼロ――正義のため闘うカタールの外国人労働者たち』だ。

問題の根深さは実際にはおそらく想像を超える、とアムネスティ・インターナショナルはみていると、英紙ガーディアンが伝えている。同紙はアムネスティの国際問題副部長の発言を引いている。「カタールは口先では労働改革をすると言う。が、現場の実態はどうだ。空言を吐いているにすぎない」。

多くの航空会社では、6月半ばまでに予防的な保健対策に万全を期した上で一部業務再開に踏み切る構えである一方で、カタール航空では新型コロナの時代に合ったビジネスモデル構築で話題を呼ぶことに注力している。まあ驚くには当たらないだろう。

同航空では、5月25日の便から乗務員らがまとう予定の、頭のてっぺんから足のつま先までの個人防護装具(PPE)の着用写真をメディア各社に公開している。

乗客と乗員の接触を最少化する目的と同航空が言う、新たな安全対策の一環となるものだ。

バーキルCEOはカタール航空の新たな布石を発表するとして、次のように語っている。「わが社は航空会社として可能なかぎり最高の衛生基準を堅持する。このことにより、こうした時期でもお客さまを安全に故国へ送り届け、安全が何よりも優先するというわが社の姿勢にさらなる安心感をおもちいただくことを図りたい」。

[caption id="attachment_15143" align="alignnone" width="437"] カタール航空はメディア各社へ乗務員の写真を公開。5月25日の便から、全身フル装備の個人防護装具(PPE)を装着させるとしている。(カタール航空ソーシャルメディア提供写真)[/caption]

この高空の実験業務に就くか忌避するかの選択権が乗務員にあるのかどうかについては、触れられずじまいだった。

カタールが新型コロナの管理失敗のケーススタディとなった場合、そのフラッグキャリアでもあるカタール航空にばかり責めを負わせるのは、とはいえ公平ではあるまい。

小国カタール(人口270万人)は感染者数が3万4,000人台を突破、累計で湾岸協力会議加盟国中第2位の感染者を出している。

今週に入ってカタール政府は刑務所内で12人の新型コロナウイルス感染者が出ていたことを認めた。カタールは所内での感染リスクについて警告を受けていた。

[caption id="attachment_15144" align="alignnone" width="476"] カタール・アビエーション・サービス(QAS)のスタッフが航空機の消毒を終えて駐機場を歩いている。新型コロナ感染症拡大を受けた安全対策として防護服を着用している。カタール首都ドーハのハマド国際空港。2020年4月1日。(AFP)[/caption]

HRWは、カタール国籍ではない6人の収監者の話として、ドーハ中央拘置所の「状況は悪化していると語っている」と伝えた。

3月31日には16のNGOと労働組合が合同でカタール首相にあてて書簡を送り、ドーハでは活気の消えた商業エリアで感染が拡大しているという複数の報告があることから、外国人労働者に対する十分な保護策を講じるよう求めた。

「(カタール政府が)約束を果たすのは今を措いてない。さらには、カタール経済を築き上げる助力となり、みずからの家族の面倒も見てきた外国人労働者らの権利も守られてしかるべきときだ」。HRWはそうしたためている。

カタール政府およびカタール航空は、果たすべき約束の長大なリストをこうしてはっきり突き付けられた形だ。あとはそれを守るか、それとも破るか、だ。

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