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UAEの火星探査ミッションいよいよカウントダウン アラブ世界の希望(HOPE)の星

UAEの火星探査機HOPEが火星の軌道上を周回するようすを描いたイラスト。(ムハンマド・ビン・ラーシド宇宙センター提供)
UAEの火星探査機HOPEが火星の軌道上を周回するようすを描いたイラスト。(ムハンマド・ビン・ラーシド宇宙センター提供)
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09 Jun 2020 08:06:14 GMT9
09 Jun 2020 08:06:14 GMT9
  • 火星探査機HOPEの打ち上げは2020年7月14日の予定
  • 本ミッションで得られるデータは一切の制限なく常時一般公開される予定

【ロンドン】アラブ首長国連邦(UAE)がアラブ諸国で初めて火星へ探査機を送る国となるまで、あとわずか40日となった。これは、特に若人のための知識形成および機会創出を見据え、これまで同国が中東圏内で幅広く取り組んできた活動の一環となるものだ。

「今回のミッションはひとりUAEだけのものではない。中東圏、アラブ圏にわたるものだ」。そう語るのは、ムハンマド・ビン・ラーシド宇宙センター(MBRSC)プロジェクトマネージャーのウムラーン・シャラフ氏だ。

「目下、中東圏は厳しい情勢にあるため明るい話題が必要なところだ。このため、中東の若い人たちにはそろそろ真剣にものごとの本質を見つめ、みずからの国をそれぞれの手で建ててほしい。そうして、たがいの違いはとりあえず脇に置き、宗教や出自の異なる人々同士が共存しともに働いてほしいと思っている」

火星探査ミッションHOPEは7月14日より打ち上げ予定で、火星には来年2月に到達する見込みだ。これはちょうど、UAE建国50周年の時期と重なる。

本プロジェクトの立案・管理・実施は、UAE宇宙局が出資しその管轄下にあるUAE人によるチームが担っている。

探査機の開発にあたり、MBRSCは、コロラド大学、カリフォルニア大学バークレー校、アリゾナ州立大学などといった国際パートナーと協業した。

[caption id="attachment_16266" align="alignnone" width="450"] UAEの火星探査機HOPE。(UAE宇宙局提供)[/caption]

UAEのサーラ・アル=アミーリー先端科学担当国務相は8日開かれた火星ミッションに関するウェビナーで発言、今回の計画がUAEにとって重要となる理由についてかいつまんで話した。

「いまのUAEは、サービス産業や物流、石油、天然ガスを軸に経済を回している。中東圏では多様化した経済と見られているが、将来を展望した場合、わが国にとって知識集約型の分野の重要性がいっそう際立つ。新たな知識集約型機関の創設もむろん視野に入る」とアミーリー氏は語った。

技術者や科学者、さらに自然科学の諸領域に従事する研究者の能力育成、機会創出もUAEが今後取り組むべき重要な課題だとも同相は述べた。

「火星計画の結果、苦難のすえ工学分野ではまさしく才能育成に結びついた。また、リスクをいとわぬ精神も身に付いたし、その結果リスクを避け計画を先へ進める能力にもつながった。また、わが国の科学者や自然科学の学徒らが新たな機会を集約・創成しはじめる契機ともなっている」

2014年のプロジェクトの立ち上げ以降、チームは探査機の設計・開発・建造に取り組んできた。また、予想される幾多の厳しい条件をくぐり抜けながらテストを繰り返した。

[caption id="attachment_16267" align="alignnone" width="450"] 探査機HOPEは火星の大気を調査、現在の火星がどのような経緯をたどったのかを探る。(UAE宇宙局提供)[/caption]

UAE国内に発射台はないため、探査機は4月に日本に送られた。当初計画より3週間前倒しとなる。新型コロナウイルス感染症の感染拡大対策として移動規制が強まっているためだ。

「本ミッションは難題だらけだった。プロジェクト初日からすでに期限は押していたし、予算そのものも少々苦しかった。予算面では非常に厳しい要求があったうえに天井もあった。そういった苦しい情勢に輪をかけるようにして新型コロナの問題まで持ち上がった」とシャラフ氏は言う。
予算については追って詳細の発表があるだろう、と同氏は付け加えた。

「こうしたプロジェクトがわが国にとっていかに重要かは、国民はわかってくれている。つまり、国家的な問題の対応といろいろなことができるようになる能力の構築ということにつながる。わが国は、たとえば水や食料やクリーンエネルギーといった観点に照らしても、地理的にはそう恵まれた場所ではない。今回のミッションのもたらす価値もみなが理解しているからこそ、喜び勇んでいるわけだ」とシャラフ氏は語る。

探査機は来年8~9月中に火星の軌道上に乗る予定だ。それから2か月経過してからはデータを一般公開することになる予定だとアミーリー氏は言う。
どの国の科学者でも情報の利用や数値の解析ができることになる、と同氏。

「われわれが着目し調査対象とする惑星には次のような特徴がある。かつては地球ときわめて似た組成でありながら、何らかの変化をへて、われわれが知るような生命、われわれが規定するような生命の片鱗ですら一切根付けない環境となった」

「火星については、その大気の分析により、水の構成分子である水素と酸素がない理由、またそこに火星がどういった役割を果たしているのかについて理解したいと考えている」

[caption id="attachment_16268" align="alignnone" width="450"] 探査機HOPEは、2020年7月14日に打ち上げられる予定だ。火星到着は2021年2月までの達成が見込まれる。これはUAEが連邦国家となった50年目を祝するものでもある。[/caption]

チームは火星の気候についても年間を通じて調査することになる。

「火星の気候を探査する人工衛星はわれわれが初めてとなる。これ以前にもわれわれは火星の気候については研究してきている。そうして、火星のさまざまなエリアを分散的にサンプリング調査することで火星気候についての知見も改善してきた。だがまだ、一日を通しての気候変化についての知見は得ていない」とアミーリー氏は言う。

シャラフ氏は言う。「それでもわが国にはつねに将来計画があるし、引き続き間違いなく火星とは関わっていくつもりだ」

「わが国の宇宙計画はどちらかといえば知識経済の構築の手段という側面のほうが大きい。したがって、火星到達自体が目的というわけではない。次の段階としては、いずれにしても、国内のさまざまな分野へ知見を移していくということにより主眼が置かれることになるはずだ」

この60年間で火星へ探査機を飛ばした国は6か国しかない。

「宇宙探査はおおむね、限られた数の大国の内輪でおこなわれてきた。このため、今回UAEがその一線を越え、いままでと違う領域に入るのは重要な契機だ」と語るのは、ロンドンからウェビナーを主催した、アラブ首長国協会会長のアリステア・バート氏だ。

UAEはこれまでに2機の人工衛星を打ち上げ、国際宇宙ステーションにも1人の宇宙飛行士を送り出している。また、2117年までに火星上に人類の居住区域を建設することを明らかにしている。

[caption id="attachment_16269" align="alignnone" width="450"] UAE宇宙飛行士プログラムは2019年9月、国際宇宙ステーション(ISS)で活動する同国初・アラブ人初の宇宙飛行士を送り出した。(MBRSC提供)[/caption]

「火星探査ミッションはその半分が失敗に終わっている。わが国が火星を探査対象に選んだ理由のひとつはこれだ。つまり、そこに困難があるから挑む、ということでもあるし、さらに言えば、いまわが国が中東圏で直面している困難もこれに負けないほどたやすくない、ということを伝えたいがためでもある。ともかくすこしでも成功の見込みを増やそうと思えば、一にも二にもテストだ。バグがあれば修正に修正を重ねる。打ち上げのその日までテストにテストを加えつづけることこそがミッションの根幹に据わる思想だ。だからわれわれは不断にテストを止めないのだ」シャラフ氏はそう語る。

英国サイエンス・ミュージアム・グループを管掌するイアン・ブラッチフォード卿は、UAEのプロジェクトはたいへんすばらしいと言う。

「まだ基幹部分を開発中の国がここまで到達しようとは壮観だ。私としては、半分の時間で仕上がるというならもっと自慢してもいいのにと思うぐらいだ」

火星探査ミッションは、今後1年でほかに3つの計画がある。NASAの火星探査車「Perseverance」、来月打ち上げ予定の中国の「天問1号」、欧州宇宙機関とロシア連邦宇宙局(Roscosmos)が共同開発する「エクソマーズ」だ。

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