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すでに水が減少する中、ダムの影響を恐れるエジプトの農家たち

55才のエジプトの農家であるマッカルーフ・アブ・カシムが恐れているのは、ナイル川の主要な支流である青ナイルにエチオピアが建設中のダムが、水の継続的な流れを確保する取り決めが結ばれない場合、すでに村を直撃している深刻な水不足に拍車を掛ける可能性があるということだ。(AP通信)
55才のエジプトの農家であるマッカルーフ・アブ・カシムが恐れているのは、ナイル川の主要な支流である青ナイルにエチオピアが建設中のダムが、水の継続的な流れを確保する取り決めが結ばれない場合、すでに村を直撃している深刻な水不足に拍車を掛ける可能性があるということだ。(AP通信)
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20 Aug 2020 09:08:18 GMT9
20 Aug 2020 09:08:18 GMT9
  • エジプトは、飲み水や産業用途、灌漑を含めて給水の90パーセント以上をナイル川に頼っている
  • 下流の国々であるエジプトとスーダンにダムが与える影響は、正確にはまだわかっていない

エジプト第二村:1964年の冬、マッカルーフ・アブ・カシムは、エジプトの都市ファイユームのオアシスの外れに新たにつくられたこの農村で生まれた。両親は、村に住みついた最初の村人の中にいた者たちで、ナイル川流域から農家として新たな人生を切り拓くために3年前に移住してきた。

始まりは、輝かしく豊かだった。この地域は肥沃で、村人たちは40年間、とうもろこしや綿、小麦を育てて生計を立てた。

現在55才になったアブ・カシムは、自身の萎びた農場に残っているものに目をやった。周囲には、かつて隣人たちの農地だった、不毛の荒地が広がっている。近年、灌漑が減少したことから被害を受けた人たちだ。

「かつては、この辺りが緑に覆われるのに十分な水があった…今では見ての通りだ」とアブ・カシムは言った。

アブ・カシムと他の村人たちは以前、古代の昔からエジプトの生命線である、ナイル川に繋がった運河を通して農場を灌漑していた。ナイル川は、砂漠に広がる、細長く非常に肥沃な緑地をエジプトにもたらしている。

しかし、この地域を監督しているガザ・クータ農業協会のアブデル・ファタハ・アル=アウェイディ会長によると、何年も続く杜撰な管理、汚職、人口増加によって、村と周辺の地域にある農地の少なくとも75パーセントが失われた。

今、アブ・カシムが恐れているのは、ナイル川の主要な支流である青ナイルにエチオピアが建設中のダムが、水の継続的な流れを確保する取り決めが結ばれない場合、すでに村を直撃している深刻な水不足に拍車を掛ける可能性があるということだ。

「このダムは、私たちの死を意味している」とアブ・カシムは話す。

下流の国々であるエジプトとスーダンにダムが与える影響は、正確にはまだわかっていない。エジプトの農家にとって、この困難な見通しは、深刻さを増す水不足のその他の原因に加えて、新たな心配の種だ。エジプトはすでに、その水資源を広範囲に広げている。増加を続け今や1億人を超える人口には、一人当たりの水の割当が世界最低レベルの量しかない。世界平均が年間1000立法メートルなのに比べ、およそ550立法メートルだ。

エチオピアは、「大エチオピア・ルネサンスダム」が発電することになる電気が、同国の約1.1億人の市民を貧困から抜け出させるための不可欠なライフラインとなる、と言う。

エジプトは、飲み水や産業用途、灌漑を含めて給水の90パーセント以上をナイル川に頼っており、ダムが同国の需要を考慮せずに運営された場合の壊滅的な影響を恐れている。

灌漑に関わる当局者によると、エジプトは、エチオピアが同ダムの巨大な貯水池を満たしつつも、青ナイルから最低で年間400億立法メートルの水を流すことを保証してほしいとしている。エジプトは、ナイル川から通常550億立法メートルを得ており、そのほとんどが青ナイルからのものだが、エジプトが求めている量はこれよりも少量となる。不足分は、エジプトがナセル湖に持つ「アスワン・ハイ・ダム」に貯蔵された水で賄うことになる。同ダムは、1690億立法メートルの総容量を持つ。

「エジプトとエチオピアの間の調整がないままダムに水が貯められ運営されれば、その影響はエジプト社会全体にとって破壊的なものとなり、国はその影響に対応することができないだろう」と、エジプト灌漑省の元大臣であるモハメド・ナスル・アラムは語った。

ナイル川からエジプトにもたらされる水量が今後50億立法メートル減少すると、全国の農地総面積の12パーセントに当たる100万エーカーの農地が失われることになる、とアラムは話した。

スーダンは、安価な電気や洪水の減少など、このエチオピアのダムからの恩恵も理解しつつ、このプロジェクトが同国のダムを危機にさらす可能性がある、と話す。

アブ・カシムの村は、第二村という味気のないお役所的な名前だが、エジプトで1960年代に社会主義政府のガマール・アブドゥル=ナーセル大統領がつくった農村のひとつだった。砂漠を埋め立てて建設され、灌漑をユースフ運河に頼っている。同運河は、ナイル川からファイユームを流れ、一連の運河へと扇型に広がっている。

村人たちは、綿や野菜から小麦や穀類まで、かつて栽培してきた作物の種類を増やした。

現在、村のほとんどが不毛の土地となっている。村に流れ着いていたナイル川の水はほとんどすべて、第二村に達する前に、その他の農業プロジェクトに転用されて増加する人口のために使用されている、と農家たちは言う。同様の水不足は、ナイル川流域やデルタ地帯の農村においてですら、より一般的になった。そこでは、農家たちは塩分の増加にも直面している。

灌漑のために、村の農家たちは現在、近くの複数の町から流れる下水に頼っている。下水には、農業排水と汚水が混ざっている。

アブ・カシムの16エーカーの農地は、そのうち1エーカーしか耕されていない。家族でとうもろこしを栽培しようとしたが、枯れてしまった。この辺りのほとんどの人たちと同様、水が少なくてすむオリーブの木を育てることに切り替えた。しかし、オリーブの木ですらも苦しんでいる。

「この木々には、40日以上水がない」と、萎びた実を見せながらアブ・カシムは言った。

水が減り、アブ・カシムの3人の兄弟と4人の息子を含め、12000人いた村人の多くが去った。

アブ・カシムが持つ兄弟のひとりの妻、イーサン・アブデル=アジム(53才)は、2001年にカイロでドアマンとして働くために家族と引っ越した。

「当時は他に選択肢がなかった」と、5人の子供の母であるアブデル=アジムは今月、村を尋ねた際に孫たちの間に座って話した。「農地を耕すのでは、子供たちを養うには不十分になった。そうなるしか道はなかった」

エジプト、スーダン、エチオピアの間で何年も行われてきた交渉は失敗に終わり、ダムについて取り決めに達することはできなかった。今週、エチオピアが740億立法メートルのダムの貯水池を満たす第一段階が完了したと発表し、論争は転換点に達した。

このニュースは、スーダンとエジプトに恐怖と混乱を引き起こした。両国はこれまで、エチオピアに対し、取り決めに達することなく水の充填を開始してはならないと繰り返し主張してきた。

エチオピアのアビー・アハメド首相は、集中豪雨によって青ナイルが氾濫したことから、「他の人を悩ませることも傷つけることもなく」自然に充填が発生した、と述べた。

交渉の中で行き詰まりとなっている点は、複数年にわたる干ばつが発生した場合にエチオピアが充填中にどれだけの水量を下流に放水するか、そして、3国が将来の紛争をどのように解決するか、ということについてだ。エチオピアが拘束力のない指針を主張しているのに対し、エジプトとスーダンは拘束力のある合意を強く要求してきた。

エジプト政府は近年、使用する水が少ない点滴灌漑の農家への推奨や舗装水路を含め、同国の灌漑システムを近代化する取り組みを加速した。

政府はまた、米などの水を消費する作物の栽培を削減し、そのような作物を指定栽培地域以外の場所で育てている農家に罰金を科して脅した。

エジプトのアブデル・ファタハ・アル・シーシ大統領は、7月下旬にテレビ放送された発言の中で、政府は2037年まで水保全のために625億ドル以上を投資に割り当てた、と述べた。

大統領は、エジプトにとってナイル川は「命の問題」であるとの警句を繰り返し、同国を掴んで離さない不安を認めた。「私も心配している」と、大統領は言明した。

AP通信

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