Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter
  • Home
  • 中東
  • 国内の薬局から姿を消した薬を必死に探し求めるレバノン人

国内の薬局から姿を消した薬を必死に探し求めるレバノン人

国が外貨危機に対処するなか、レバノンの人道主義団体「アメル協会」は、医薬品の予期せぬ不足に直面している人々のために支援を提供している(AP通信)
国が外貨危機に対処するなか、レバノンの人道主義団体「アメル協会」は、医薬品の予期せぬ不足に直面している人々のために支援を提供している(AP通信)
Short Url:
11 Nov 2020 10:11:17 GMT9
11 Nov 2020 10:11:17 GMT9
  • 糖尿病や高血圧、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に使用される抗うつ剤や解熱剤など、あらゆる薬がレバノンの薬局から姿を消した

ベイルート:ベイルートの病院で看護師をしているにも関わらず、リタ・ハーブは祖父の心臓病のための薬を見つけることができない。

彼女はレバノン中の薬局を探し、海外の友人に電話をかけた。医師に相談しても薬を確保できなかった。レバノンの金融危機のなか、多くの人とは違い、彼女には薬を買う余裕がある。薬が出回っていないのだ。

そのため彼女の85歳の祖父は、自分の投薬量に達するために、より少ない濃度の錠剤で服用薬を代用している。それもすぐになくなるかもしれない。

「しかし、もし彼が死ねば、彼は死にます」とハーブは小さく諦めの苦笑いを浮かべながら言った。このような諦めはレバノン人の間で同国の複数の危機に対する一般的な反応になっている。

糖尿病や高血圧、COVID-19の治療に使用される抗うつ剤や解熱剤まで、あらゆる薬がレバノンの薬局から姿を消している。

外貨準備が少なくなっているため、政府は薬を含めた補助金を維持できないだろうと中央銀行総裁が発言したことで、パニック状態の買いだめが起き、不足を悪化させたと役人や薬剤師は言う。

その発表は「嵐、そして地震を引き起こしました」と、薬剤師団体の責任者を務めるガーサン・アル・アミンは語る。

レバノン人は今、不可欠な薬を求めて国内外を探し回っている。 高齢者は宗教的な慈善団体や援助団体に相談して回っている。

家族はソーシャルメディアで嘆願したり、隣国シリアに渡航したりしている。国外居住者は寄付金を送金している。

かつては銀行、不動産、医療の地域拠点だった人口500万人のこの国の経済破綻は新しい段階を迎えた。

人口の半分以上が貧困に追いやられ、人々の貯蓄は価値を失った。公的債務は深刻であり、現地通貨は急落し、価値の80%近くを失った。医療セクターは、財政的な負担と新型コロナウイルスのパンデミックに屈している。

レバノン人は、15年に及ぶ内戦の時のように、水や燃料などの日用品を買いだめしている。財政破綻、パンデミック、そして8月4日にベイルート港で起き施設と街の広大な地域を破壊した爆発事故の影響で、支配階級(1990年に戦争が終結して以来、概ね政権を握っている)への信頼は失われた。

レバノンは、医薬品の85%を含むほぼすべてのものを輸入している。

補助金の停止は、多額の負債を抱える政府にとって避けて通れない一歩だ。これにより、物価上昇とインフレが悪化し、レバノン・ポンドはさらに暴落すると予想されている。何十年もの間、1ドル1500ポンドで固定されていたレバノン・ポンドは、現在、闇市場では1ドル7000ポンド前後で取引されている。

人々は、買うことができなくなることを恐れて、薬をため込んでいる。サプライヤーは、追加で購入するのにドルが不足することを心配して、薬を在庫に溜め込んでいるか、あるいは補助金が解除されたときに高価格で販売することを期待している。サプライヤーは今、現金での支払いを要求しているため、困窮した薬局は在庫を持つことができないでいる。

一方、公定レートと闇市場のドルレートの差が密輸を活発化させ、助成金を受けたレバノンの薬が近隣諸国に流出するようになった。

こうした混乱の中で、10種類のブランドの薬のうち6種類が売り切れになったと、プライマリ・ヘルス・ケアを提供する人道団体「アメル協会」の薬剤師、マラク・キアミは語る。

3400の組合に加盟する薬局のうち、約300店舗が閉店しているとアル・アミンは言う。

問題は悪化しており、買い物客である1人の非番の兵士が激怒し、基本的な鎮痛剤であるパナドールを持っていないと彼に言った薬剤師に銃を向けて脅したほどだ。

ベイルート郊外のブチャムーンにある彼の薬局で、ジアド・ジョマアは、自分と銃で脅した客は、共に腐敗し失敗した政治化による犠牲者であると述べた。

監視カメラの映像に映ったこの事件で鎮痛剤のサプライヤーなどがジョマアへの同情を感じ、すぐに50個の箱を彼に送った。

しかし、彼は新たな警備対策を講じなければならなかった。夜間は薬局のドアを閉め、窓から注文を取るだけにし、警備員を雇った。

「大衆との対決に追い込まれました」とジョマアは語る。

この隙間を埋めるために市民団体が踏み込んだ。

ベイルートのバジュール地区にあるアメルのセンターでは、10月には800人の人々がわずかな医療費を払って薬や健康管理を求めたが、これは8月の約2倍の人数であった。アメルは、イスラエルとの戦争でベイルートの大部分が破壊され、1000人以上が死亡した2006年以来、最長の緊急援助プログラムを続けている。

「人々はとても苦しんでいます」と理事会メンバーのゼイナ・モハンナは語る。彼らは「生き残れるかの恐怖の中に置かれています」

インティッサー・ハトゥーム(63)は、センターの調剤所に並んでいた。彼女は薬の空き箱が入ったビニール袋を手に、吸入薬、高血圧薬、心臓の薬、抗凝固剤など、手に入るものなら何でも取りに来た。彼女の失業中の夫は腎臓病を患っている。コレステロールの薬はそれほど緊急性が高くない。

主婦であるハトゥームは、医療費の支払いをタクシー運転手の息子に頼っており、そのために暖かい食事を抜くことも多い。彼はレバノン南部やシリアの各地で処方箋を求めてきた。

「彼は必ず探し尽くしてからその場を離れます」とのことだ。

レバノン人は医薬品に大きく依存している。ブロムインベスト銀行の調査によると、同国では医療費の44%近くが医薬品であるのに対し、欧米諸国では約17%となっている。

何十年もの間、市場は二十数社の輸入業者によってコントロールされてきた。法律は、各分野における独占的な権利を輸入業者に与え、競合他社を排除し、改革に抵抗するための巨大な力を与えている。

独占輸入権はレバノンの経済秩序の大きな特徴であり、内戦終結後は民兵の長や富裕層の商人、不動産所有者が支配するようになった。サービス業を中心に、彼らは輸入と外国人労働力に依存していた。

そのモデルが崩れれば、外国産医薬品の市場は縮小するだろうと、医薬品を取材する経済記者のビビアン・アキキは言う。「ドル不足は新たな解決策を迫るでしょう」

しかし、レバノンの小規模な国内医薬品生産がそのギャップを埋めることができるかどうかは明らかではない。

ベイルートのズーク・アル・ブラット地区にあるマフムード・マフムードの薬局は静かだった。わずかな鎮痛剤やサプリメント、シャンプーのボトルが他に何もない棚に散乱していた。

マフムードは、サプライヤーが薬の値上がりを待って、薬を保留している、あるいは密輸しているのではないかと考えている。彼によると、ある痛風薬はイラクで発見され、レバノンでの価格の5倍以上の7ドルで販売されていたという。

「彼らは職業を破壊しています」とマフムードは述べる。「この国のやり方では職業は崩壊します」

AP通信

topics
特に人気
オススメ

return to top