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深刻化するレバノンの危機が、地方分権型国家への期待をわずかに高める

3月25日、IMFは、レバノンが金融危機から脱却するためには、新しいレバノン政府は広範囲にわたる経済改革を実施しなければならないと述べた。 (AFP)
3月25日、IMFは、レバノンが金融危機から脱却するためには、新しいレバノン政府は広範囲にわたる経済改革を実施しなければならないと述べた。 (AFP)
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26 May 2021 03:05:59 GMT9
26 May 2021 03:05:59 GMT9
  • トルコの発電船『カルパワーシップ』への依存解消を明るい兆しと見る専門家もいる
  • 電力危機により、政府は電力補助金の段階的廃止と改革を迫られるかもしれない

レベッカ・アン・プロクター

ドバイ:2019年10月にレバノンの通貨が暴落し、最近の記憶に残る中でも最も深刻な経済危機に陥って以来、家庭の電力を自家発電機に頼らざるを得ない市民が増えている。 自家発電に頼らないのであれば、他に毎日数時間の停電を我慢するしかない。

今月初め、レバノンの電力供給の約4分の1を担うトルコのエネルギー会社カルパワーシップ社は、負債を抱えるレバノン政府が発電代金数百万ドルを未払いの状況にあると主張して、発電機を停止している。

レバノンの国会議員、ファイサル・アル・サイ氏は、3月に、「エネルギー省が発電のために契約したトルコの蒸気船2隻が、約1億6,000万ドルの発電代金を受け取っていないため、レバノンから撤退することになる」と警告していた。

現在、財政難のレバノン政府は、5月末から燃料や電気に対する国の補助金を停止しようとしているが、これにより数百万人の人々が暗闇に取り残されることになる。

歴代のレバノン政府、世界銀行、国際通貨基金(IMF)は、「GDPの約150%に相当する債務を削減するためには、電力改革が重要な課題である」と、みなしている。

国営電力会社、レバノン電力への年間の純移転額は10億ドルから15億ドルで、そのほとんどが燃料の購入に充てられている。これは、2020年の財政赤字の約4分の1に相当する。

水曜日、S&Pグローバル社は、レバノンの銀行が債務を再構築するために必要なコストは、2021年のGDPの30%から134%にのぼる可能性があると公表した。S&Pグローバル社のレポートでは、「再編の主な障害となっているのは、レバノンが現在、債権者と条件交渉を行い合意する権限を持たない暫定政府が運営していることにある」と指摘されている。

レバノンの金融危機は、1975年から1990年の内戦以来最悪の事態にあり、何ヶ月にも及ぶ社会的混乱を引き起こしている。世界銀行によると、2020年の実質国内総生産(GDP)の伸びは約20.3%縮小し、インフレ率は3桁に達している。

レバノンの通貨価値は新たな深みにはまりつつあり、一方で、コロナウイルスのパンデミックや2020年8月のベイルート港の爆発事故による経済的ショックで、極度の貧困層が急激に増加し続けている。

悲惨さと苦難から逃れるために、若いレバノン人世代は前の世代にならって、仕事とより良い機会を求めて国を離れ、賃金の一部を送還して、家族の生活を助けることを望んでいる。

しかし、経済危機の暗雲は、地方分権の流れを活性化させ、無力な国家の穴を民間セクターが埋め、政府に財政的余裕を与えるという、潜在的な明るい兆しを秘めているとの見方をする者もいる。

レバノンの独立系エコノミストで、政府支出から補助金を段階的に減らしていく方法についての提案を起草したメンバーであるロイ・バダロ氏は、トルコのカルパワーシップが停止したことで、「自家発電機や民間企業が発電所を運営する形で、より分散化された電力供給がされるようになる」と考えている。

「その結果、より分散化された経済と、より分散化された政治行政につながる可能性がある」とバダロ氏は述べている。「今、補助金を廃止しないと、12〜18ヶ月後には我々はさらに貧しくなってしまう」

しかし、バダロ氏によると、補助金の廃止は段階的に行うべきであり、少なくとも当面は、医薬品や小麦などの他の重要な商品にまで拡大すべきではないとのことであった。どちらにせよ、長期的に見れば、現在のシステムは持続不可能だからである。

ここ数カ月、レバノン政府は国民の民間銀行預金から補助金を捻出しているが、その資金は決して無限ではない。

急騰する食料価格や不安定な電力に対する分散型の解決策は、レバノンの政治的閉塞感を打破する可能性があると専門家は述べている。(AFP)

「預金者の資金を他の政府手段や補助金に充てるという現在の政策は明らかに悲惨で、何ヶ月も前から続いているが、限界は近づいており、いつかは準備金が尽きるだろう」と、元投資銀行家で国際資本市場と新興国経済の専門家であるアデル・アフィオニ氏はアラブニュースに語った。

「レバノンの通貨価値は下がり続け、私たちは非常に高価な価格で外貨を手に入れなければならなくなるであろう。そうなると、さらに自国通貨が暴落し、ハイパーインフレが起こり、さらに貧困が進むことになる。援助や海外での仕事で資金を調達できる者を除いて、国民の90%が強い通貨へのアクセスが困難になるのは間違いない。今や、この状況から救われる道はほとんどない」

中央銀行は、減少する外貨準備を倹約するために、補助金制度を徐々に廃止するよう暫定政権に求めている。バダロ氏のチームは、給与補助の最低額を月125ドルとすることで、「為替レートの変動が大きいため、毎月調整可能」とすることを提案している。

しかし、この計画が実行に移されるには、国会での承認が必要とされる。

専門家によれば、外部からレバノンの銀行セクターに流動性を緊急確保することが、切実に必要とされるという。

「IMFからの緊急出資が必要だが、それは実現しておらず、この1年半の間に頓挫してしまった」とアフィオニ氏は述べている。

レバノンの現在の苦境は、IMFとの合意が得られていれば、ほぼ回避できたはずである。しかし、話し合いは長い間停滞している。

3月25日、IMFは、レバノンの新政府が財政危機から脱却するためには、広範囲にわたる経済改革を行う必要があると公表した。

IMFのゲリー・ライス報道官は当時、「必要な改革を実施する強い権限を持った新政府を速やかに樹立することが重要だ」と述べていた。「レバノンとレバノン国民が直面している課題は非常に大きく、改革プログラムは是非に必要とされる」

外国からの介入や、実行可能な解決策に関する政治的コンセンサスが得られない中、レバノンは奈落の底に落ち続けている。専門家は、状況が幾ばくか改善を見せる前に、さらに悪化する可能性があると見ている。

「これらもレバノン経済は落ち込み続け、底なし状態にある。ベネズエラやアルゼンチンなど、危機的状況に陥った国の経過を見てみると、意思決定者が適切な判断を下さないまま、日を追うごとに事態は悪化していった」と、あるレバノンの政治アナリストが、匿名を条件にアラブニュースに語った。

「状況を打開するための合意されたマスタープランがなく、新たなドルが国内に入ってこず、補助金が徐々に廃止されていく中で、社会不安はさらに高まり、アルゼンチンモデルからベネズエラモデル、そしてソマリアモデルへと移行していくだろう」

「今日、レバノンでは誰も説明責任を果たしていない。腐敗に対抗する唯一の方法は、公共の場を一掃することだ。政治が中央集権のままであれば、レバノンは腐敗したままだ」

歴代のレバノン政府、世界銀行、国際通貨基金(IMF)は、「GDPの約150%に相当する債務を削減するためには、電力改革が重要な課題である」とみなしている。

どのような形で崩壊がやってくるかは、専門家の間でも憶測の域を出ない。多くの人は、政治的恩顧主義のモデルをますます踏襲するばかりの現行システムは、一度崩壊させなければ、新たに建て直すのは難しいと考えている。

「まだ底辺への競争が終わったわけではない」とバダロ氏は述べる。「大きな出来事がすぐにやってくるだろう。レバノンの状況を一変させるような出来事が必要で、それが年内にやってくると期待している。そうなれば、生まれ変わることができる。新しいシステムを見つけなければならないだろう」

絶望と不確実性の中で、ひとつだけ確かなことがある:危機に瀕したレバノンは、好転を期待する前に、比喩的にも文字通りにも、さらに何ヶ月もの暗闇に直面している。

「確かに、もっと暗闇があるかもしれない」とバダロ氏は述べる。「しかし、レバノンの闇は、トルコ企業の閉鎖によるものではなく、我々の心の闇によるものだ」

「国家を建設するには、道徳的な価値観が必要だが、今の私たちのリーダーにはそれが欠けている。政治的にも社会的にも、これまでとは違ったやり方で物事を進められるよう、人々の心を啓発する必要がある」

バダロ氏の意見は、アフィオニ氏によって支持されているが、彼はこの障害は本質的には政治的なものであり、政府の無策はレバノンとその経済的軌道を麻痺状態にすると考えている。

「悲しい現実は、この危機に対処する能力と専門知識を持った政府が存在しない限り、我々はどんどん沈んでいくということだ」とアフィオニ氏はアラブニュースに語った。

「有能な政府を樹立させなければ、レバノンの崩壊は止められない」

ツイッター: @rebeccaaproctor

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