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経済の低迷が続くレバノン、国家の威厳が失われ、犯罪が増加

治安部隊による犯罪者逮捕の努力にもかかわらず、レバノンでは国有財産の盗難が増加し、不安が高まっている。(AFP ファイル写真)
治安部隊による犯罪者逮捕の努力にもかかわらず、レバノンでは国有財産の盗難が増加し、不安が高まっている。(AFP ファイル写真)
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05 Mar 2022 10:03:26 GMT9
05 Mar 2022 10:03:26 GMT9
  • 「国民が国歌と共に起立することを拒むのは国家への敬意の欠如」と、文化大臣
  • 経済危機が深刻化する中、マンホールの蓋や電線、橋の鉄柵までが盗まれスクラップとして売られている

ナジア・フサーリ

ベイルート:レバノンが世界でも最悪の経済危機に陥り、犯罪が増加する中、モハメッド・アル・ムルタダ文化大臣は、国民の国家に対する姿勢を象徴する光景を目の当たりにした。それは、国歌に敬意を表して起立することを拒む人々の姿だった。

レバノン南部のシドンで開催された文化行事に出席したアル・ムルタダ文化大臣は、国歌が演奏されなかったことに驚愕した。激怒した彼は国家の演奏を求めたが、参加していた人々は起立を拒否した。

元裁判官のアル・ムルタダ文化大臣は、声明にこう書いた。「私は、国家を演奏するよう繰り返し要請した。聴衆に私の声が聞こえれば、敬意を表して立ち上がるだろうと思ったのだ」

「国歌を演奏しない者、故意にそれを無視する者は、意識的にであれ無意識であれ、拘束力のある国家への義務の放棄に加担することになる。これは決して許されることではない」

だが、レバノン国民を国家に結びつけるものはもはや何もない。国歌の演奏を忘れること自体がその証拠だ。レバノン国家はその威厳を失いつつあるのだ。

治安部隊の検挙の努力にもかかわらず、国有財産の盗難は増加している。マンホールの蓋は絶えず盗まれ、スクラップとして売られている。値段は重さによって変わるが、1つ10ドルから20ドルほどだ。

零時以降に電力配給が滞ることを利用し、電気設備を解体して銅を溶かし、スクラップとして売る者もいる。

経済危機の結果として、貧困率と失業率が増加し、インフレがかつてないほど進行している現状で、このような窃盗事件が起こることは予想されていた。だが、盗まれているのは非常に奇妙な物ばかりだ。これは、レバノンの人々が体験している悲惨な現実を反映している。

最新の、最も大胆なケースは、ベイルートの橋から鉄柵が盗まれた事件だ。

交通事故防止のための治安の確保と発展に取り組む市民団体「YASA」は、最近、ベイルートで最も交通量の多いバルビール交差点の橋の手すりがなくなっている写真をSNSに投稿し、「我々はこの事件を有能な司法と国内治安部隊に委ねる」とキャプションを添えた。

木曜日、レバノン陸軍は「南部の国境付近の地雷原を囲む金属製のポールと有刺鉄線が何者かによって盗まれ、売りに出されている。結果として、現在、地雷原の境界は定められていない状態だ」と発表した。

陸軍司令部は「市民に直接の危険を及ぼす可能性があるため、このような行為を行わないように」と警告し、「犯人を追い詰め、逮捕する」と強調した。

レバノンの人々は壊滅的な経済危機の中で生活しており、2019年以来、人口の3分の2が貧困状態に陥っている。世界銀行は、100万人以上のパレスチナ難民とシリア難民を受け入れているレバノンの現状を「近代世界が目撃した最悪の危機の一つ」と表現している。

国家と国民の間のつながりの欠如は公共機関における欠勤の多さからも明らかだ。職員たちは、週のうち数日は家に留まっている。

多くの人が通勤のための燃料代を払えなくなっている。政府が徐々に補助金を引き上げ、数ヶ月でガソリンの価格が2倍に跳ね上がったためだ。そのうえ、いうまでもなく、ロシアとウクライナの紛争によって世界的に燃料価格が高騰している。

行政職員協会は、「政府は職員の要求に対して有効な解決策を講じていないことと、給与を上げず、社会的援助の提供のみを行うという決断」について抗議した。

協会はこの援助を拒否し、ストライキの続行を決定。週1日だけの出勤を呼びかけている。

一般労働組合代表のベチャラ・アル・アスマル博士は、この社会的援助を「ピーナッツ」と呼ぶ。博士は政府とナジーブ・ミカティ首相を「以前は職場の輪番制に同意していたはずだ」と批判し、市場価格を統制できていないとして政府を非難した。

アル・アスマル博士はまた、「この国では公務員と民間企業の従業員が最も弱い立場にある」と付け足し、近いうちに全機関でのゼネストが起こる可能性もあると語った。

開発学教授で、以前には社会問題大臣アドバイザーを務めたバシール・イスマット博士は、「レバノン政府が採用した政策と、代替案を見つけ腐敗を根絶する能力の欠如が、深刻な国家の存亡の危機を招いている。結果として、国家機関は完全に崩壊することになる(かもしれない)」と話す。

イスマット博士は、犯罪は増加の一途をたどり、国民に多大なる不安感を与えていると語った。「何もかもが悪い方に向かっている。鬱や絶望、自殺が増え、学業を諦める者、物乞い、物乞いを装う者もいる。児童労働と失業率は増加し、結婚を望む人は減り、離婚が増えている。売春、麻薬やアルコールの乱用もだ…。製造・サービス部門はどちらも崩壊し、不動産部門も瀕死の状態だ。閉店する店が相次ぎ、工業や工芸の施設も閉鎖している」

「与党とそれを支持する人々は、必死に体制を守り、手を結んで権力を保持しつづけようとしている。キャッシュカード、社会的援助、口先だけの甘い約束など、やり方は様々だ。だが、現在の政権は沈没しつつあり、レバノン国民をも道連れにしているのだ」と、イスマット博士は指摘した。

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