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ロシアのウクライナ侵攻が、NATOに新しい息吹を吹き込む

2018年10月、ウクライナの空軍基地で行われた空軍演習に参加した約700人の部隊。半数はNATO諸国から参加。(AFP/ファイル・写真)
2018年10月、ウクライナの空軍基地で行われた空軍演習に参加した約700人の部隊。半数はNATO諸国から参加。(AFP/ファイル・写真)
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15 Mar 2022 12:03:04 GMT9
15 Mar 2022 12:03:04 GMT9
  • 冷戦の遺物と思われていたNATOは、ウクライナで新たな目的意識を獲得
  • NATOがロシアに真剣に対応できなければ、その将来は疑問だと専門家は警告

ウバイ・シャーバンダル

ワシントンDC:冷戦の幕開けから72年が経つ。北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアのウクライナ侵攻によって加盟国がモスクワとの直接対決に巻き込まれる危機に直面し、再び目覚めようと奮闘している。

この8年間、NATOはウクライナに巻き込まれることをほとんど避けてきた。ロシアに対しては、2014年のクリミア併合、ドンバスおよびルガンスクの親ロシア派分離主義者への支援について、形ばかりの非難は行ってきた。一方、東欧の同盟国の立場を強化するために重要なことは、ほとんどしてこなかった。

ウクライナにおけるロシアの意図が明らかになった今、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は世界の指導者との会談のため、各国に足を運ぶスケジュールを組んでいる。この軍事同盟が一致してキエフを支持しているというメッセージを伝えるためだ。

ロシアの戦闘機、ロケット弾、大砲がウクライナの都市を攻撃し、200万人以上が避難を余儀なくされている。ストルテンベルグ氏は、この行為をロシアのプーチン大統領によるヨーロッパの主権国家に対する侵略と非難し、一致団結して対応することを約束した。

「プーチン大統領のウクライナに対する戦争は、ヨーロッパの平和を破壊した」と、ストルテンベルグ氏はNATO加盟国の東部、ラトビアの軍事基地を訪問した際に述べた。「侵攻は国際秩序を揺るがし、ウクライナ国民に壊滅的な打撃を与え続けている」

モスクワは、今回の「特別軍事作戦」は、ロシアの安全とウクライナ東部のドンバス地域のロシア語を話す人々の安全を守ることを目的としているという。

1991年、ワルシャワ条約機構が解体されて冷戦が終結した。それ以来、NATO加盟国は、主に戦後ヨーロッパにおけるソ連の拡張を抑止するために構築されたこの同盟の正確な役割、さらには必要性について頻繁に言い争うようになった。

その中で、NATOやEUへの加盟を目指すウクライナに対するロシアの侵攻が起こった。これは、同盟とその加盟国を結びつける価値観に新たな息吹を吹き込み、新たな目的意識と決意を与えているように見える。

ドナルド・トランプ前大統領の国家安全保障副顧問を務めたヴィクトリア・コーツ氏は、ウクライナ戦争の結果が、NATOの長期的な将来と関連性を決定するかもしれないと考えている。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は世界の指導者との会談のため、各国に足を運ぶスケジュールを組んでいる。この軍事同盟が一致してキエフを支持しているというメッセージを伝えるためだ。(AFP)

「NATOの将来における有用性は、今後半年の出来事によって決定されるだろう」と、彼女はアラブニュースに語った。「同盟は、米国がアフガニスタンを、同地で任務にあたっていたNATOパートナーに相談することなくタリバンに明け渡したことで深刻なストレスを受けた。そして今、プーチン大統領のウクライナ侵攻によって再び結束が試されている」

「この危機に対し、NATOが協調して民間人の安全を確保し、多国間の経済制裁を行うことができれば、米国が世界中で主導する他の協調的安全保障ネットワークのモデルとなり得る。そして、スウェーデンやフィンランドなどの新メンバーは歓迎されるべきだろう」

「しかし、もしNATOがプーチン氏に対して真剣な対応を取ることができなければ、同盟の将来に深刻な疑問を投げかけることになる」

プーチン氏はNATOを過小評価していたのではないか、おそらく、危うい協力体制と過去の失敗の重圧で崩壊すると思っていたのではないか、と分析する人もいる。しかし、実際には全く逆のことが起こっている。NATOは加盟国を共通の目的のために結集させ、1999年のコソボ紛争介入以来最大のNATO軍の動員を開始したのだ。

ロシアの攻撃が始まる1週間前にヨーロッパを訪問したロイド・オースティン米国防長官は、ウクライナ国境沿いの軍備増強はNATO同盟を強化することになるとプーチン氏に警告を発した。

「プーチン氏は、西側に強いNATOがあるのは嫌だと言っている」とオースティン氏は同盟本部で語った。「彼はまさに、その状態を招いているのだ」

2022年3月4日、ブリュッセルのNATO本部で、ロシアのウクライナ侵攻を受けて会合に集まる同盟国の外相たち。(AFP)

意図的なのか誤算なのか、プーチン氏はNATOの警告をはったりだと決め込んだ。そして、ヨーロッパ大陸で第二次世界大戦後最大規模の軍事作戦を開始した。

侵攻の初期には、NATOの主要メンバーが東欧の同盟国への脅威に対して、どの程度強く反応するかは不明だった。ストルテンベルグ氏自身は、NATOはロシアとの直接対決を求めてはいないと何度も強調していた。フランスとドイツは当初、バルト諸国、ポーランド、ルーマニアと感情の波長が合っていないように見えた。

しかし日が経つにつれ、各国がウクライナとの連帯を宣言しはじめた。ロシアに制裁を加え、軍事装備や資金援助をウクライナに送ることを約束した。プーチン氏の、欧州諸国が静かに黙認してくれるという期待はすぐに打ち砕かれた。

ウクライナに次いで欧州で2番目に長い国境をロシアと接し、歴史上モスクワとは緊張を伴う関係を持つフィンランドでさえ、慎重にその中立性を見直している。フィンランドのサンナ・マリン首相は、NATO加盟が国益に適うかどうかを徹底的に議論することを約束した。世論調査では、ロシアのウクライナ侵攻を受け、フィンランド人の過半数がNATOへの加盟を支持する結果となっている。

米国の保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のルーク・コフィー上級研究員はアラブニュースに対し、「ウクライナでの戦争はNATOを再活性化させた」と述べた。

「アフガニスタンやリビアなどでの20年にわたる域外作戦を経て、同盟は基本に立ち返るように見える。主にその力を、北大西洋地域の領土防衛に注ぐだろう」

「NATOはどこにでもいて何でもする必要はないが、ロシアの侵略からヨーロッパを守ることはできなければならない、という認識が広まってきている。NATOは、今後数年間における、同盟の戦略的アプローチの指針となる文書である次期「戦略概念」を起草している。その中で、このような事態が起こったことを忘れてはいけない」

第3師団維持旅団第87支援大隊B中隊の隊員たち。NATOの同盟国をサポートし、ロシアの侵略を抑止し、地域において他の様々な面から支援を提供するためにヨーロッパに向けて出発する。(AFP)

実際、つい最近までNATOの将来は危ういように見えた。歴代の米国政権、特にトランプ政権は西ヨーロッパの加盟国に同盟への財政拠出を増やすよう迫っていたからだ。

NATO加盟国は、それぞれの国内総生産(GDP)の最低2%を防衛費として支出することが義務づけられている。実際には、この義務は東欧やバルト諸国の加盟国だけが果たすことが多く、経済規模の大きな加盟国は足を引っ張る傾向があった。

しかし、ウクライナ侵攻の結果、NATOの加盟国や資源は一気に拡大する可能性がある。これは、おそらくクレムリンが望んでいたこととはまったく逆のことだろう。

「2016年、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は同盟を「脳死状態」とし、当然フランスが主導権を握るであろう、EUの能力を高めることを優先すると明言した」と、ワシントンの国防大学教授、デビッド・デロッシュ氏はアラブニュースに語っている。

「プーチン氏はたった一人で、同盟を活性化させ、団結させた。ドイツは何世代にもわたる国防費への嫌悪感を払拭し、フィンランドとスウェーデンはNATO加盟に対する国内の反対を打ち砕いた」

プーチン氏は長い間、東欧におけるNATOの拡張を、ロシアの安全保障とその影響圏に対する直接的な脅威とみなしてきた。一方、NATOは欧州大陸において大規模な戦争を引き起こさないよう極めて慎重な姿勢を持ち、自身は防衛同盟であることを何度も主張してきた。

ウクライナはNATO加盟国ではない。しかし、同国におけるこれまでのロシアの軍事活動に対して加盟国が統一的なアプローチをとらなかったことが、同盟の弱点を露呈した、というのが軍事アナリストたちの大方の意見であった。ロシアの軍事活動は、2014年のクリミア併合や、ドンバス、ルガンスクに対する武器、戦闘員の密かな移動などがある。

NATO加盟国は、ロシアが実際にどれほど悲惨な脅威をもたらすのかをめぐって意見が分かれていた。これらの分断は、侵攻が始まったときにようやく解消された。

「NATOは、ロシア軍の領空侵犯に対応する意思を見出すのにも苦労していた。プーチン氏は、この同盟を、ロシアの侵略を抑止することに焦点を当てた活発な軍事同盟に作り上げたのだ。」とデロッシュ氏は言う。

欧州の経済大国であるドイツは、3万人以上の米軍を自国内に受け入れながら、防衛に十分な支出をしていないとトランプ氏から散々批判されていた。今、同国は軍事予算を拡大し、ウクライナ政府を支援するために兵器を送っている。

ロシアの欧州におけるエネルギー支配力を高めることになる、ベルリンとモスクワのガスパイプライン「ノルドストリーム2」の契約も、NATOの同盟国の間で争点となった。

「ドイツはノルドストリーム・パイプラインを停止させることで、長年のアナリストを驚かせた。また、ロシアに対する非常に厳しい制裁体制には、驚くほどに全世界が賛同している」とデロッシュ氏は語る。

「プーチン氏は過去120年の中で最悪の戦略家であることが明らかになった。彼は、自己満足と自己陶酔に浸る西側諸国を、純粋に彼自身の攻撃性によって、彼が最も恐れていると主張してきた軍事同盟に作り変えたのだ」

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