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イラン・アーバーダーンで32名死亡のビル倒壊事故現場 市民が現地訪問の聖職者に怒りぶつける

倒壊現場を訪れるイランのモハンマド・モフベル副大統領(中央)。10階建てのビルは、2022年5月27日、同国南西のアーバーダーン市で崩壊した。(イラン大統領府による配付資料・AFP)
倒壊現場を訪れるイランのモハンマド・モフベル副大統領(中央)。10階建てのビルは、2022年5月27日、同国南西のアーバーダーン市で崩壊した。(イラン大統領府による配付資料・AFP)
救援隊がビルの倒壊現場で作業に当たっている。イラン・アーバーダーン市。2022年5月23日。(West Asia News Agency提供・ロイター)
救援隊がビルの倒壊現場で作業に当たっている。イラン・アーバーダーン市。2022年5月23日。(West Asia News Agency提供・ロイター)
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31 May 2022 08:05:27 GMT9
31 May 2022 08:05:27 GMT9
  • シーア派聖職者は「メトロポール」ビル倒壊現場近くで追悼に訪れた興奮状態の人々に話しかける考えであったが、群衆は逆に暴言と怒声を浴びせた
  • 後に動画で判明 催涙ガスのたちこめるなか、警官らがデモ隊を四散させる目的で群衆に立ちはだかり棍棒で殴打

ドバイ:少なくとも32名が死亡したイラン南西部のビル倒壊事故を受け、これに激怒したデモ隊が同国最高指導者アリー・ハメネイ師の送った聖職者に怒声を浴びせ、機動隊による弾圧を招いた。機動隊はデモ隊を棍棒で殴打したり催涙ガスを発射したりしている。30日、ネット上の複数の動画の解析から明らかになった。

主要国との核交渉が立ち消えになるなか、食料品の価格高騰などの経済的な苦境を受けイラン国内では抑圧が強まっている。こうした中で1週間前に起きた惨事に対するイラン政府の対応をめぐり、デモ隊が直接的な行動に出たものだ。

目下のところ、デモ隊には主導する者はまだいないもようだが、この地域に居住するアラブ系の住民も29日には抗議活動に参加したとみられ、混乱がさらに高まるおそれが増している。イランの民兵組織・革命防衛隊が27日にギリシャ船籍のオイルタンカーを海上で拿捕したことを受け、すでにイラン政府と西側諸国の間には緊張がつのっているところだ。

モフセン・ヘイダリー・アール・カシール師は10階建ての「メトロポール」ビル倒壊現場近くで追悼に訪れた興奮状態の人々に話しかける考えであったが、29日夜に同師を迎えたのは数百人からのブーイングと怒声であった。


60代のアール・カシール師は護衛の一団に囲まれながらなおも話しかけようとしたが、かなわなかった。

同師は人々にも聞こえるような声で「何が起きているのか?」と護衛の一人に尋ねた。護衛は身を乗り出して何かを告げた。

その後、同師はふたたび人々へ語りかけることを試みた。「みなさん、どうか静粛に。アーバーダーン、およびその犠牲者にして殉教者に敬意を表し、今夜イラン国民全員が哀悼するのです」

人々から返ってきたのは叫び声だった。「恥知らずめが!」

その後、国営テレビは追悼行事の生中継を中断した。次にデモ隊は声をそろえた。「必ずかたきを取る。兄弟を殺した者の仇を討つ!」

国営テレビがテレビカメラを設営していた演壇にデモ隊の攻撃があり、このため放送は打ち切られた。テヘランに本社を構える日刊紙ハムシャフリーや半官半民のファールス通信は、そのように伝えている。

警察は群衆に対しイスラム聖職者(ムッラー)体制にあらがうスローガンの唱和をやめるよう命じたあと、合法的な集会でないため立ち去るようにと言い渡した。動画ではその後、催涙ガスがもくもくと立ちのぼるなか、警官らがデモ隊に立ちはだかり棍棒で殴打するさまが映されていた。少なくともひとりの警官はショットガンらしきものを発砲しているが、実弾であったのか、強い衝撃を与える目的のいわゆる「ビーンバッグ」弾であったのかはさだかでなかった。

負傷者の有無や警察による逮捕者が出たのかどうかについては、ただちには明らかでない。

いくつかの動画で示されている光景は、これまでに知られているアーバーダーンの様相とつじつまが合う。同市はイラン首都テヘランの南西約660キロ(410マイル)の位置にある。イラン国外のテレビ局によるペルシャ語放送では、催涙ガスや銃弾の発射についてふれている。

イラン国内での独立した取材はきわめて困難なままだ。騒動の間イランは、影響を受けている地域一帯でネットや電話の回線を遮断、また国内のジャーナリストらにも移動規制をかけた。

国境なき記者団は、イランはジャーナリストにとっての最悪の国第3位としている。1位と2位は北朝鮮、エリトリアだ。

23日のアーバーダーンでのビル倒壊事故を受け、イラン当局は、ビルの所有者および悪徳官僚らが手抜き工事の懸念がありながら「メトロポール」ビル建築工事を続行させたのは事実とした。今回の惨事の広範な調査活動の一環として、当局ではアーバーダーン市長をふくむ13人を拘束している。

30日には救援隊がさらに3人の遺体をがれきから運び出し、事故による死者は32人となったと国営イラン通信(IRNA)が伝えた。がれきの内部にはまだ被害者がいるものと当局では危惧している。

今回のおそるべき倒壊事故を受け、イラン国内では類似のビルに対する安全性に疑念が投げかけられるとともに、国内の建設プロジェクトでも危機が継続中であることを浮き彫りにした。今回の倒壊事故では多くの人が、2017年にテヘランを象徴する商業ビル「プラスコ」で起きた火災倒壊事故を思い起こした。当時26人が犠牲になっている。

テヘラン市の非常事態局では、市内の高層ビル129棟が2017年の検査に照らして「安全でない」状態を維持していると警告した。イランのモハンマド・ジャヴァード・モンタゼリー検事総長は、ただちに問題への対処をおこなうと約束した。

アーバーダーンでは過去にも惨劇が起きた。1978年、映画館シネマ・レックスに故意に火が放たれ、数百人が死亡した。今回倒壊したビルとは数ブロックしか離れていない。この大火への怒りは国内の石油産出量の多い地域に騒乱を巻き起こし、やがてモハマド・レザー・パフラヴィー国王のシャー体制を転覆するイスラム革命へとつながった。

石油が豊富に産出するフーゼスタン州にあるアーバーダーン市は、イラン国内の少数派アラブ系住民の故地でもある。彼らは、ペルシャ語を話すイラン人主体の国家では二級市民あつかいを受けてきたと長く不平をもらしてきた。過去には、アラブ系分離主義者らによるパイプラインや治安部隊への攻撃もこの地域ではあった。複数の動画とハムシャフリー紙によると、抗議活動の支援のため2つの部族が市内に入っていたとしている。

他方で、27日にイランが拿捕したギリシャ船籍の2隻のタンカーのうち1隻が、事件後初めて追跡装置を稼働させた。オイルタンカー  Prudent Warrior の位置は、30日、衛星によりイランの主要港のひとつバンダレ・アッパース港沖にあると確認された。AP通信が解析した MarineTraffic.com のデータによる。

23日、Prudent Warrior には武装した警備担当者が5名乗船していた。しかし、イラン当局は乗員の携帯電話の使用を許可していた。そう語るのは、船主のポレンブロス・シッピングで最高財務責任者(CFO)を務めるヨルゴス・ヴァキルツィース氏だ。

「何もかもが政治的であり、一切の責任はギリシャ外務省とイラン政府にある」。ヴァキルツィース氏はAP通信にそう語る。

30日夜にはイラン国営テレビが Prudent Warrior への襲撃のもようを放映した。映像では、覆面をした革命防衛隊の一団がタンカーへヘリをおろし民間船の船橋へとアサルトライフルを手に突撃するようすが映された。
もう1隻の Delta Poseidon の行方はいまだ杳として知れない。

AP

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