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中東の一部地域では、24時間365日、発電機が有毒ガスをまき散らしている

2022年2月21日、レバノンのベイルートで、古い発電機と交換するために屋根に上げられる新しい発電機。(AP)
2022年2月21日、レバノンのベイルートで、古い発電機と交換するために屋根に上げられる新しい発電機。(AP)
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13 Sep 2022 06:09:10 GMT9
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発電機は、文字通り国を動かしている。

駐車場、トラックの上、病院の庭や屋上など、中東の一部地域ではいたるところに自家発電機が設置され、家や職場に一日中有害な煙を吐き出している。

気候変動に対処するため世界中が再生可能エネルギーを求める中、この地域周辺では、戦争や政策の誤りによって電力インフラが破壊されたために、何百万人もの人々が明かりを灯すための電力をほぼ完全にディーゼル駆動の自家発電機に依存している。

専門家はこれを、環境や健康の観点からは国家の自殺行為であると呼ぶ。

2022年3月4日、レバノン・ベイルートで、家や職場に電力を供給する個人所有のディーゼル発電機の列。(AP)

レバノンにあるベイルート・アメリカン大学の環境アカデミーのマネージングディレクターで共同設立者のサミー・カイード氏は、「ディーゼル発電機による大気汚染には、発がん性物質であることが知られていたり疑われていたりする多数の物質を含む40種類以上の有毒な大気汚染物質が含まれています」と話す。

彼は、これらの汚染物質に長くさらされると、呼吸器系や循環器系の疾患が増加する可能性が高いという。さらに、植物の成長に害を与え、富栄養化(水中の栄養素が過剰に蓄積し、最終的に水生植物を枯らすもの)を促進させる酸性雨の原因ともなる。

発電機は、ディーゼルを通常使用するため、例えば天然ガス発電所よりも気候変動の要因となる物質をはるかに多く排出すると彼は語った。

中東は気候変動による影響に対して最も脆弱な地域の一つだが、大規模な発電機による汚染物質は、中東での多くの環境問題に拍車を掛けている。地球温暖化の影響がなくても、既にこの地域は気温が高く、水資源が限られている。

発電機への依存は国家の失敗に起因している。レバノン、イラク、イエメンなどの国では、戦争、紛争、政策の誤りや腐敗などにより、政府が中央電力網の機能を維持することはできない。

例えばレバノンでは、数十年間も新しい発電所を建設していない。新しい発電所の建設計画は複数あったが、いずれも政治家の派閥闘争や後援者の利害対立により頓挫している。レバノンにある数少ない老朽化した重油発電所では、ずいぶん昔に電力需要を満たせなくなっている。

一方イラクは世界有数の石油埋蔵量を有する。それでも灼熱の夏の暑さのもとでは、住民が一日中エアコンをかけて涼しさを保とうとするため、近隣の発電機のうなり声が常に鳴り響いている。

イラクの電力網は、数十年にわたり繰り返された戦争によって壊滅的被害を受けた。これを修復・改善するための何十億ドルもの費用は、汚職が吸い上げてしまった。ガスを電力に変換してイラクの家庭に供給するインフラがないため、毎年、イラクの井戸から産出される170億立方メートルのガスが廃棄物として燃やされている。

軽質スイート原油で有名なリビアでは、長年の内戦と中央政府の欠如によって電力網が寸断されている。

リビア東部のベンガジで肉屋を営むムアタズ・ショバイク氏は、「停電は、電気が最も必要な時間を含む一日の大半に及びます」と語る。彼は冷蔵設備を稼働させるためにうるさい発電機を使っている。

彼は「あらゆるビジネスで、送電線網に接続されていない予備電源が必要です」と語る。厳しい暑さの中、彼や近隣の店舗の機械から排出されるディーゼルガスが空中を漂っている。

ガザ地区に住む230万の人々は、自宅への電力供給を同地区の約700台の自家発電機に頼っている。数千台の自家発電機が、ビジネス、政府機関、大学や医療機関を動かしている。ディーゼル燃料で稼働するこれらの発電機は、黒煙を吐き出し周囲の壁をタールで汚している。

2014年にハマスが支配する領域内唯一の発電所をイスラエルが爆撃して以来、同発電所が最大能力で稼働したことはない。同発電所とイスラエルから直接得られる電力は、ガザ地区の電力需要の約半分しか賄えない。停電は一日16時間に及ぶ。

生活様式

おそらく、発電機が人々の生活を最も支配しているのはレバノンだろう。ここでは、自家発電機の所有者が独自の事業協会を持つほどに発電機システムが定着し、制度化されている。

発電機は、狭い道や駐車場、屋上、バルコニー、車庫の中に所狭しと詰め込まれている。倉庫のように巨大なものもあれば、小型で騒音を響かせるものもある。

レバノンの500万の人々は長年発電機に依存してきた。フランス語で発電機を意味する「moteur」という言葉は、レバノン人が最もよく使う言葉の一つだ。

2019年後半にレバノン経済が崩壊し、中央による停電が長引くようになって以来、発電機への依存は増すばかりである。同時に、ディーゼル価格高騰と高温のために、発電機の所有者は使用を制限しなければならず、一日に数回は電源を切っている。

そのため住民は、給電の隙間時間を利用して生活の計画を立てている。

一日の始まりにコーヒーが必要な者は、コーヒーを飲むために、発電機が止まる前に目覚ましを掛ける。タワーマンションに住む身体の弱い者や老人は、階段を上らずに済むように発電機の電源が付くのを待ってから家を出る。病院は、救命装置が中断しないように発電機を作動させ続けなければならない。

ベイルート北部の発電所を運営するエジプト人のイハブ氏は、「人々のいらだちは理解していますが、我々がいなければ、人々は暗闇の中で生活しなければならなくなります」と語る。

当局とのトラブルを避けるためにファーストネームだけを明らかにした彼は、「我々は国家よりも強い力を持っていると言われますが、我々が存在するのは国家がないからなのです」と言う。

ベイルートの通訳者である58歳のシハム・ハンナ氏は、高齢の父親の肺の状態が、発電機の煙によって悪化すると言う。彼女は一日に何度もベランダなどの煤を拭いている。

ハンナ氏は「21世紀なのに石器時代のような暮らしをしています。こんな生活、誰がしたいでしょう?」と言う。彼女の人生において、自分の国で安定的に電気が供給されていた記憶は無い。

レバノンなどでは、太陽光システムを自宅に取り付ける人も出てきている。しかし、発電機の停止中の穴埋めとしてしか使っていない人がほとんどだ。費用や都市部でのスペースの問題もあり、太陽光発電の使用は限定的である。

国際エネルギー機関の報告書によると、イラクの典型的な中所得者層は、一日に平均10時間発電機を使用し、1メガワット/時あたり240ドルを支払っている。これは、この地域で最も高い価格帯である。

首都で行われた最近のコンサートにおいて、有名な歌手ウム・アリ・アルマラ氏は、観客が踊っている間、観客に感謝しただけでなく、会場の技術責任者にも「発電機を動かし続けてくれてありがとう」と感謝の言葉を述べている。

有毒な汚染物質

発電所が都市部の外に位置するのとは対照的に、発電機は中心部にあり、住民に対して直接、有害物質を送り込んでいる。

ベイルート・アメリカン大学(AUB)の化学者であり、最近国会議員になったナジャト・サリバ氏は、これは破滅的であると言う。

彼女は「これは環境に極めて大きな負荷をかけるものです。特に、排出するブラックカーボンや粒子の量が多いのです」と語り、規制はほとんど存在せず、粒子のフィルターも存在しないと述べた。

AUBの研究者は、レバノンの金融危機が始まって以来、発電機への依存度が高まったため、有害物質の排出レベルが4倍になった可能性があることを発見した。

イラク北部の都市モスルでは、何千台もの自家用発電機をつなぐ電線が何マイルにも亘って道路を縦横無尽に走っている。環境活動家のモハンマド・アル・ハザム氏によると、各発電機は8時間の稼働で600kgの二酸化炭素その他の温室効果ガスを発生させるという。

同様に、バグダッド工科大学が2020年に行った大型発電機の使用による環境への影響調査では、米国環境保護庁と世界保健機関が定めた制限値を超える非常に高い濃度の汚染物質が検出された。

同研究によれば、これは特にイラクのディーゼル燃料に硫黄分が多いせいであり、「世界でも最悪の部類に入る」と述べている。同研究は、排出物には「硫酸塩、硝酸塩物質、煤炭素の原子、灰」および発ガン性物質とされる汚染物質が含まれていると警告している。

「発電機から排出される汚染物質は、学生や大学職員の健康全般に対して著しい影響を及ぼしている」と同研究は述べる。

AP

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