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イラン、米国の制裁を回避するため暗号通貨で現金化

ロイター通信によると、イランの取引にはビットコイン、イーサ、テザー、XRPといった有名な暗号通貨と、ライトコインという小規模トークンが用いられていた(Shutterstock)。
ロイター通信によると、イランの取引にはビットコイン、イーサ、テザー、XRPといった有名な暗号通貨と、ライトコインという小規模トークンが用いられていた(Shutterstock)。
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15 Nov 2022 12:11:40 GMT9
15 Nov 2022 12:11:40 GMT9

アラブニュース

  • 専門家らは、イランの取引を、政権によるマネーロンダリングや制裁逃れの可能性を示す指標と見ている

クルド人自治区エルビル:先週、デジタル資産取引所「FTX」が壮大に破綻するまでは、ヘッドラインを飾っていたニュースは、世界金融システムからの締め出しという不利な立場を克服するために、イランが暗号通貨を使用しているというものであった。

ロイターは今月初め、米国がイランに対して広範な金融制裁を行っているにもかかわらず、大手暗号取引所バイナンスが2018年以降、イランで78億ドル相当の暗号通貨取引を行ったと報じた。

この報道では、米国の大手ブロックチェーン研究機関チェイナリシスのデータレビューを引用し、ほぼすべての取引がバイナンスとイラン最大の暗号通貨取引所ノビテックスの間で行われたと伝えられている。

ノビテックスは、同社のウェブサイト上で、制裁の回避方法に関する指針を提供している。

ロイターの報道によると、イランの取引はトロントークンのほか、ビットコイン、イーサ、テザー、XRPといった有名な暗号通貨や、ライトコインという小規模トークンでも行われていたという。

リスクインテリジェンス企業RANEのサイバーセキュリティアナリストであるアリ・プルチンスキ氏にとって、この事実は驚くようなものではない。

彼女はアラブニュースに対し「イランは近年、米国が課す経済制裁を回避し、国家歳入を増強するために、暗号通貨やマイニングの活用を増進し、一定の成功を収めています」と語った。

「イランには、かなりの天然資源、とりわけ天然エネルギー資源があります。石油・ガス部門に対する米国の強力な制裁に対抗するため、イランはこれら資源の一部を、暗号通貨のマイニングや暗号通貨増産推進のための電力生産に振り分けているのです」

暗号通貨のマイニングには、複雑な数値パズルを解くことのできる強力なコンピュータが必要である。

マイナー(採掘者)は、パズルを解くことによって一定量の暗号通貨を得ることができる。

ビットコインのマイニングは、大量の電力が必要なことで悪評高い。

イランの国営電力会社によると、2021年の冬にはイラン国内の停電の10%、同年の夏には20%が、違法な暗号通貨マイニングによって引き起こされたという。

イランの未来構想(Future of Iran Initiative)のディレクターであり、アトランティック・カウンシルの非常勤シニアフェローでもあるバーバラ・スレイビン氏は、アラブニュースに対し、「40年におよぶさまざまな制裁の後、イラン政府は制裁逃れのためのさまざまな技術を完成させました。暗号通貨は間違いなくその手段の1つです」と語った。

「この『違法』採掘の背後には、イスラム革命防衛隊がいるに違いありません」と彼女は言う。「インフレヘッジとして一般人はドルや消費財を備蓄する傾向にありますが、これは体制側による現象でしょう」

プルチンスキ氏は、「イランでの暗号通貨の売買や投資は違法であり、同国内での暗号通貨決済も同様に違法です」と指摘する。

彼女が言うには、「市民は、イラン政府が許可する暗号通貨マイニングには従事することができます」 「個人的に利益を得るための暗号通貨マイニングは禁止されており、イラン警察は定期的に国内における違法マイニングを取り締まっています」

専門家によれば、イラン人は暗号通貨でオンラインショッピングの制限を回避できるらしい(Shutterstock)

イラン政権は、2019年に暗号通貨マイニングを公認している。

そしてマイナーには、身元確認と登録、電気料金の支払い、マイニングしたビットコインをイラン中央銀行に売却することが義務づけられた。

「イランの暗号通貨への移行は、米国による制裁を逃れるうえで政権にとってかなり有効であるということが、最近のロイターの記事で裏づけられています」とプルチンスキ氏は言う。

さらに、マイニングはイランにとって利益となることも示されている。

チェイナリシスは同社の2022年サイバー犯罪報告書の中で、2015年から2021年の間にイラン人が1億8600万ドル相当のビットコインをマイニングし、そのほとんどがこの1年間に行われたと推定している。

ブロックチェーン分析企業エリプティックの2021年の報告書によると、全世界のビットコインマイニングのうち、推定4.5%がイランで行われている。

その報告書では、イランの年間ビットコインマイニング収入を、当時の同国のマイニング水準で約10億ドルと評価している。

プルチンスキ氏は、「これらの報告書が示すように、強力な国際的制裁にもかかわらず、イランは暗号通貨の生産を通じて自国の経済を強化するという代替手段の開発にかなり成功しているのです」と述べている。

「イラン政府は、2022年8月に輸入品の支払いにおける暗号通貨ファンドの使用を承認し、それによってイランの金融・銀行部門に課された米国による大規模な制裁が回避可能になりました」

同月、イランは1,000万ドル相当の暗号通貨を使用して初の国際発注を行っている。

しかし、その注文を公表した政府関係者は、イランがどの暗号通貨を使って商品の代金を支払ったかを明言していない。

「イラン政府は、暗号通貨とスマートコントラクトの活用により、特定国との対外貿易を強化する意向を表明しています」とプルチンスキ氏は述べる。

「今後、イランは対外貿易の取り組みを強化するため、暗号通貨の活用と暗号通貨マイニング活動への投資を継続すると思われます」

しかし、イランは大きな制約にも直面している。

マイニングには大量の電力が必要であり、暗号通貨のボラリティは高い。

そのため、デジタル通貨の信頼性には問題が生じかねないからである。

「しかし全体としては、暗号通貨の生成は、イランが豊富な天然資源を活用して政府資産を増強し、欧米による制裁を回避しながら対外貿易を可能にするうえで、有利な選択肢であり続けるでしょう」とプルチンスキ氏は言う。

『影の司令官 — ソレイマニ、アメリカ、そしてイランの世界的野心(The Shadow Commander: Soleimani, the US, and Iran’s Global Ambitions)』の著者であり、ニューヨーク大学で歴史学の博士号を取得したアラシュ・アジジ氏によれば、暗号通貨は「あらゆる方面の制裁回避に役立つ方法」であるため、イランでは「国や多数の準政府機関だけではなく、民間人や企業においても」さまざまな形で利用されている。

彼は、「たとえば、イランに住所を持つイラン人は、多くの金融取引(オンラインショップで製品を購入するような単純なもの)を禁じられていますが、暗号通貨でその禁止を回避できるのです」とアラブニュースに語っている。

「リアルの脆弱性や伝統的に投資機会が乏しいことを考えると、これは良い投資機会でもあるのです」

さらに彼は、「暗号通貨の利用可能性に明らかな有益性が見られることから、イラン政権は資源を投入し、その実現可能性を研究しようとしています。ただし、まだ第一の、あるいは主要な転送手段にはなっていません」という。

イランはまた、「地域の民兵との関係やロシアとの特定の関係において」暗号通貨を使用することも検討しているという。

しかし、そこには問題もあった。

「たとえば、暗号通貨の取引は、一部の人が想像しているほど無法地帯ではなく、そこには大きなハードルがあることを政権は了解しています」とアジジ氏は言う。

「イランは核関連の制裁だけでなく、FATF(金融活動作業部会)のブラックリストにも入っており、イランが絡む活動には各国は敏感になっています」

「その結果、地域の民兵に資金を提供する場合、『スーツケースに現金』のような方法が、依然として政権にとっての主要な資金移動手段となっているようです」

さらに彼は、「ロシアには技術分野で優れた才能を持つことから、ロシアとの関係が深まれば、政権はより巧妙な不正資金移動の手段を使おうとするでしょう」と述べている。

プルチンスキ氏は、暗号通貨が従来の法定通貨よりも追跡困難であることを説明している。

「その匿名性のために、不正取引の検出や追跡のための国際法の執行を複雑にしています」という。

「ミキサーなどの分散型プラットフォーム(De-Fi)は、暗号通貨の出所をさらに特定困難にでき、サイバー犯罪者や北朝鮮、ロシア、イランといった独裁政権が盗んだ資金を洗浄する際に多用されています」と彼女はアラブニュースに語った。

その結果、米国政府はミキサー(複数ユーザーの暗号通貨を混合し、その出所や所有者を撹乱するサービス)に対する規制を強化する方向に動いている。

「米国財務省は今年、サイバー犯罪者や敵性国家が盗んだ暗号資金を洗浄するためにミキサープラットフォームを使用したという疑惑のもと、ミキサープラットフォームに対していくつかの大きな措置を講じ、知名度の高い2つの暗号通貨ミキサープラットフォームを制裁しました」と、プルチンスキ氏は述べている。

「財務省は5月、Blender.ioというプラットフォームを制裁し、8月にはトルネードキャッシュを制裁しました」

総じて、「これらの取り組みは、一部のDe-Fi(分散型金融)プラットフォームの悪用を是正するのに役立つかもしれませんが、イランが米国による制裁を逃れるために暗号通貨を使用して対外貿易を行っていることにはほとんど影響しないでしょう」と彼女は言う。

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