Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter
  • Home
  • 中東
  • 死海の消滅を遅らせるためにイスラエル、ヨルダン、パレスチナはいかに協力できるか

死海の消滅を遅らせるためにイスラエル、ヨルダン、パレスチナはいかに協力できるか

ヨルダンとイスラエルに接している死海の水位は年間約1メートル低下している。湖水の塩分濃度が高いため、水位が低下した跡には広大な塩と鉱物の平原が広がっている。(AFP)
ヨルダンとイスラエルに接している死海の水位は年間約1メートル低下している。湖水の塩分濃度が高いため、水位が低下した跡には広大な塩と鉱物の平原が広がっている。(AFP)
Short Url:
06 Dec 2022 12:12:24 GMT9
06 Dec 2022 12:12:24 GMT9
  • 過去半世紀の間に水位が下がり続けており、この塩湖の存在自体が脅かされている
  • ヨルダン川を蘇らせるための共同努力や地中海との間の運河が解決策となる可能性

ダオウド・クタブ

アンマン:古代ギリシャ・ローマの時代から、死海特有の均衡は自然によって精妙にバランスが取られていた。近くの川や泉から流れ込む淡水が豊富な塩と混ざり合い蒸発することで、塩分濃度33%の塩水が保たれていたのだ。

現在、気候的要因と人為的要因が相まって、このバランスが乱れている。その結果、死海は過去半世紀の間に驚異的な速さで縮小しており、その存在自体が脅かされている。

死海は過去半世紀の間に驚異的な速さで縮小している。(AFP)

11月にエジプトのリゾート地シャルム・エル・シェイクで開催された国連気候変動会議(COP27)において、死海の縮小に対処するためのイスラエルとヨルダンの共同協定が締結された。

しかし、この協定にはパレスチナが参加しておらず、署名したのがもうすぐ退任するイスラエルの環境省職員だったこともあり、成功する可能性は低いという声もある。

十分な資金がなく、また三国間協定とならなかったことから、ヨルダンとイスラエルは代わりにヨルダン川を浄化することで死海への水の主な供給源を回復させることに重点を置くことを決定した。

COP27の際にイスラエルとヨルダンの関係者が署名したのはこのような趣旨の協定だった。しかし、死海を差し迫った消滅から救おうというのであれば、損なわれた天然の淡水供給源を元に戻すべく、また共通の環境財のために政治的対立を脇に置くべく、はるかに多くの努力が必要なことは明らかだ。

生物がほとんどおらず、塩分濃度が高く、地球上で最も低い所にある湖である死海がどのように形成されたのかを正確に知る者はいない。聖書やその他の宗教文書の記述では、神が罪深い町ソドムとゴモラに火と硫黄を降らせた時に生まれたとされる。

聖書の記述を裏付ける証拠を見つけようとして死海の湖底を発掘したロシアの専門家らもいた。近くにある聖地「ロトの洞窟」は、アブラハムの甥であるロトとその娘たちが破壊から逃げ込み住んでいた場所とされている。

一方、科学者はより現世的で地理的な起源に注目し、死海は数百万年前にアフロ=アラビア地溝帯を形成したものと同じ地殻変動によって形成されたと主張している。

20世紀中頃、新しく誕生した国家であったイスラエルが最初のいくつかの大きな決定を下した。その一つが、ヨルダン川から同国南部のネゲヴにパイプラインで大量の水を引くというものだ。これは、同国の初代首相ダヴィド・ベン=グリオン氏の「この砂漠に花を咲かせる」という夢を実現するためだった。

死海を差し迫った消滅から救おうというのであれば、損なわれた天然の淡水供給源を元に戻すべく、はるかに多くの努力が必要なことは明らかだ。(AFP)

1964年には、イスラエルの国営水管理会社メコロットが国営用水路プロジェクトを開始し、(1930年代初頭に完成していた)デガニアダムに新たな用途が与えられた。ガリラヤ湖からヨルダン川への水の流れの調節だ。

その結果、隣国のヨルダンに到達する水の量が激減し、淡水の主な供給源であるヨルダン川から死海に流れ込む水量が年間数百万立方メートル減少した。

現時点で死海の縮小の原因となっている可能性のあるもう一つの要因は、アイン・ゲディ・ミネラルウォーターを製造しているイスラエル企業の存在だ。アイン・ゲディの瓶詰め工場は、1948年の同国国境の内側にあり遠く死海に流れ込んでいる泉の淡水を独占的に使用しているのだ。

しかし、死海の縮小の原因が一国にあるという声ばかりではない。水科学を専門とするヨルダン大学のエリアス・サラメ教授は、地域の全ての国にある程度の責任があると言う。

サラメ教授はアラブニュースに対し、「死海に起こったことへの責任は、程度の差はあれ我々全員にある」と語る。イスラエル、ヨルダン、レバノン、シリアはいずれも自国のニーズを満たすために、死海に向かうはずだった水を吸い上げたのだ。

エリック・ジョンストン米大使が仲介した1955年の「ヨルダン渓谷統一水計画」は、ヤルムーク川(ヨルダン川最大の支流)の水をイスラエルが年間2500万立方メートル、シリアが9000万立方メートル、ヨルダンが3億7500万立方メートル使用できるようにするものだった。

「ただ、米国のジョンストン大使との約束を守らない国もあった」とサラメ教授は言う。「これは締結されなかった。アラブ諸国はイスラエルを承認しておらず、同国とのいかなる協定への署名も拒否したからだ。シリアが年間2億6000万~8000万立方メートルという最大の取り分をまんまと得ることになった」

1970年代には、ヨルダンとシリアもそれぞれヤルムーク川から水を引き始めたことでさらに流量が減少した。1986年にも協定が結ばれ、ヨルダンは2億立方メートルの権利を得たが、実際には2000万立方メートルを取水するのがやっとだった。

国連によると、ヨルダンは世界で2番目に水資源が少ない国だ。1948年と1967年のアラブとイスラエルの戦争によってパレスチナ人が大量に国外脱出したため、ヨルダンの人口は2倍以上に増加し、水需要がさらに逼迫した。

こうした協定や引水の結果、死海の水位は1976年の海抜マイナス398メートルほどから、2015年には同430メートルほどにまで低下した。恐らくさらに憂慮すべきなのは、その低下が加速していることだ。

ヨルダン大学のモタセム・サイダン教授は、「過去2年間で気候変動はヨルダンに大打撃を与えた」と言う。(提供写真)

1976年からの20年間は、平均して10年間で6メートル水位が低下した。1990年代中頃から2000年代中頃までの10年間は9メートル、2015年までの10年間は11メートルの水位低下が見られた。

この加速度的な水位低下は人為的な気候変動によるものだという主張もある。気候科学者によると、地球温暖化は既に人間と自然のシステムに大きな変化をもたらしており、水域からの蒸発速度の上昇もその一つだという。

同時に、死海への水の供給速度も十分ではない。

死海はヨルダン、イスラエル、パレスチナに接している。それら3つのコミュニティ全てから活動家が参加している「アース・ピース」のような国境を越えたNGOによる果敢な努力がなされている一方で、環境災害に対処するための真剣な集団的行動が取られていない。

しかし、より広範な環境問題を回避するには協力が不可欠だ。あらゆる問題の中で最も懸念されるのは、死海沿岸に沿って陥没穴が急増していることだ。

科学者によると、新たに露出した沿岸の表面下に淡水が侵入すると、地下にある大量の塩が徐々に溶解し、やがてその上の地面が前触れもなく崩壊するのだという。

過去15年間だけでも1000個を超える陥没穴が出現しており、主に北西岸で建物、道路の一部、ナツメヤシ農園が飲み込まれている。環境専門家は、死海沿岸沿いのイスラエルのホテルが危機に晒されていると見ている。

ヨルダン側でも、死海東岸沿いの高級観光リゾートの運命が危機に瀕している。

科学者によると、死海は数百万年前にアフロ=アラビア地溝帯を形成したものと同じ地殻変動によって形成された。(AFP)

サラメ教授は、「状況が改善されなければ、ヨルダンの大きなホテルが建ち並ぶあたりにつながる主要高速道路は崩壊の危機に直面する」と指摘する。

イスラエルは、陥没穴が次に出現する場所を予測できるシステムを開発した。これはイタリア宇宙機関が運用する人工衛星が16日ごとに死海上空を通過して生成するその地域のレーダー画像を利用するものだ。

一群の画像を比較することで、大規模な崩壊が起こる前に地形の微小な変化を検知することができる。

イスラエル当局は、死海の水位のさらなる低下を防ぎ、陥没穴の拡大を回避する方法を模索している。その一つとして、紅海と死海の間の運河建設が提案されている。

紅海の水を海抜の低い死海に引いた場合に生じうる影響を評価するために作成されたレポートによると、適度な流れを作り出せば、死海の水位低下を止められないにしても減速させ、年間新たに出現する陥没穴の数を減少させることができる可能性がある。

皮肉なことに、紅海から水を引きすぎると逆効果であることがレポートでは示されている。死海の水位を上げられるほどの多くの水を流すと陥没穴の問題が悪化すると予測されているのだ。

紅海の塩分濃度は死海より低いため、地下の塩の溶解を促進することで陥没穴の出現を加速させてしまう可能性が高いのだという。

死海の水位低下に対処するために多くの解決策が提案されているが、いずれも実行には移されていない。主に資金不足が原因だ。

死海の水位は1976年の海抜マイナス398メートルほどから、2015年には同430メートルほどにまで低下した。恐らくさらに憂慮すべきなのは、その低下が加速していることだ。(AFP)

サラメ教授によると、これまでに提案された中で最も合理的な解決策は、地中海から死海に流れる運河を建設する「メッド・デッド・プロジェクト」だ。

この運河のための候補地として、ガザ地区に近いカティフと、ヨルダンのヨルダン川の北にあるビサンの2ヶ所などが提案されている。しかし、そのような計画にはまずヨルダンとパレスチナの承認が必要となる。

ヨルダンも紅海から運河を引くという同様のプロジェクトを提案しているが、サラメ教授はこれについては実行不可能だと考える。

「距離が長すぎる。現実的なプロジェクトではない」

特に人気
オススメ

return to top