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限りある水資源の保全のために最新技術を活用するアラブ諸国の政府

人口増加と気候変動の2つに取り組む中東・北アフリカ地域では、水資源の需要がテクノロジーや他のセクターの革新の原動力となっている。 (AFP)
人口増加と気候変動の2つに取り組む中東・北アフリカ地域では、水資源の需要がテクノロジーや他のセクターの革新の原動力となっている。 (AFP)
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02 Feb 2023 03:02:23 GMT9
02 Feb 2023 03:02:23 GMT9
  • 気候変動の影響の緩和、また、そうした影響への適応のための方策を探し出すことが、MENA諸国にとっての急務となっている
  • 技術革新は、淡水の保全、廃水の再利用、海水脱塩の害の低減に役立つ

ジュマナ・ハミス

ドバイ: 中東・北アフリカ地域は、数十年間、その増大する水需要をまかなうのに苦闘している。人口の急増や天然の淡水資源の急速な枯渇を背景に、この地域の不安定な水安全保障に対応し得る持続可能なソリューションを探し出すことが喫緊の課題となっている。

水安全保障の悪化は、数多くのアラブ諸国で紛争や政治的緊張を引き起こし、人々の健康や生活状態に重大な悪影響を与えている。イラク、ヨルダン、レバノン、シリア、イエメンなどの国々、さらには湾岸諸国のいくつかの国々においてすら、多くの地域社会において清潔な水を豊富に利用することは困難なのである。

世界人口の約40%が水不足を経験しているが、MENA地域は世界で水安全保障の悪化が最も深刻な地域とされる。MENA地域の90%の子供たちが重度ないしは過度の水不足の環境で生活している。UNICEFによれば、世界で最も水不足の17ヶ国の内11ヶ国がMENA地域にある。

聖書の「エデンの園」が存在したとされるイラク南部のチバイッシュ湿原、干ばつや隣国トルコ、イランからの河川流量の減少により悲惨な状態に。 (AFP)

「急激に人口が増加し、気候が乾燥していて、水を大量消費する農業活動を行っている国々は、2050年よりも前に深刻な水不足に陥るリスクが非常に高くなります。こうした国々は、差し迫った悪影響を打ち消すようなより大規模な対策を講じる必要があります」と、ワールド・オブ・ファーミングのCEOで共同設立者のワリード・サッド氏はアラブニュースに語った。

「これは、官民の組織の協力的な取り組みが必要となる課題です。また、水資源の利用の効率化と未来の世代のための水安全保障の確保のために、科学技術と革新的なソリューションの導入と実装が必要とされています。」

オリエント・プラネット・リサーチの2020年度の報告書によると、湾岸協力会議の地域の水需要は、2050年には33,733立法メートルにも達するという。しかし、この地域の将来の貯水量は25,855立法メートルに過ぎないと予測されている。

これは、湾岸協力会議の地域が、その人口をまかなうためには、今後30年以内に同地域内の水資源を77%増加させる必要があることを意味している。

気候変動の影響の緩和、また、そうした影響への適応のための方策を明らかにすることが、湾岸協力会議参加諸国にとって急務となっている。来年は記録的な暑さになると予想されている。異常気象の規模と頻度の増大に伴い、この地域の水不足の問題がさらに悪化する可能性が高まる。

世界で最も水不足の17ヶ国の内11ヶ国がMENA地域内に存在する。

MENA地域の90%の子供たちが重度ないしは過度の水不足の環境で生活している。

湾岸協力会議の地域がその人口をまかなうためには今後30年以内に同地域内の水資源を77%増加させる必要がある。

今世紀の終わりには中東の平均気温が5℃上昇し、人間活動による気候変動の原因に対して早急な対策が講じられなければ中東の一部では人間が居住できなくなると、科学者たちは予想している。

異常気象に加えて、気候関連の水不足によって、中東のGDPは今後30年以内に最大14%減少し得ると、世界銀行は予想している。

中東地域の淡水の約60%は外部の地域からのものであるため、水安全保障においては国際関係も重要な役割を担う。

イラク南部の都市バスラのシャットゥルアラブ川の眺め。いずれもトルコに水源があるユーフラテス川とティグリス川がここで合流する。 (AFP)

例えば、ナイル川は、エジプトに到達する前に他の10ヶ国の国境を越えるか国境に沿って流れている。エチオピアのGERDダム計画をめぐる論争が発生するのはそのためである。イラクとシリアの水需要はティグリス川とユーフラテス川によってまかなわれているが、これらの川の水源があるトルコでも大型ダムの計画が進行中だ。

また、ヨルダンとヨルダン川西岸地区は、イスラエル領内に水源を持つヨルダン川に依存している。紛争や対立、共有する水利権についての協力の不在は、汚染物質、水産資源の枯渇、さらに下流における水不足へと繋がり得る。

こうした課題に対峙して、複数のアラブ政府が、淡水源の保全、廃水の再利用、海水脱塩の害の低減に役立つ新たなイノベーションと科学技術への投資を優先するようになっている。

イスラエルのハデラ海水脱塩プラントでは、余剰生産された淡水をガリラヤ湖に送り込むことを計画している。ガリラヤ湖の水は過剰な使用と気候変動によって枯渇している。

「膜分離活性汚泥法、逆浸透膜、紫外線消毒といったテクノロジーが廃水を高水準で処理するために現在使用されています。廃水をこうした技術で処理し、灌漑用水や工業用水、さらには飲料水として再利用するのに適した水資源にしています」と、WPSミドルイーストの持続可能性・気候変動担当マネージャーのフォージ・アルディビスはアラブニュースに語った。

もう一つのソリューションは中水処理の地域分散化である。これにより、現地での水の利用と再利用が可能になり、そのおかげで、追加的な揚水コストが不必要になる。国連によれば、現況、世界の廃水の80%が未処理のまま環境に排出されているという。

大気中から結露、露採取、霧採取といったいくつかの手法で水を集め収穫する大気集水も水不足克服のための有望な方策である。

ジャーマン・ウォーター・ファウンデーションが開発したテクロノジーを用いた霧雲からの水の収穫、モロッコ。 (提供写真)

農業が、MENA地域内の水利用の80%近くを占めている。世界平均は70%である。世界銀行によれば、MENA地域の地下の天然帯水層では、補充されるよりも早く水が引き出されているという。

この減少しつつある資源をモニターし管理するために、新しいい水管理システムの開発が進められていると、アルディビス氏がアラブニュースに語った。

「これらの技術により、天気予報やセンサーネットワークといった多様なソースからのデータの分析が可能となり、利用可能な水資源についての一層精確な予想が実現し、水資源の分配や利用を最適化できます」と、アルディビス氏は述べた。

世界銀行によれば、農業だけでMENA地域内の水利用の80%近くを占めているという。 (提供写真)

農業と灌漑をより持続可能に出来れば、MENA地域は国内向け作物の栽培を増やして二酸化炭素排出量を削減し、それによって輸入品への依存を減少させられると、サッド氏は言う。

「農業でスマート灌漑と自動化を利用することで、管理時間内では、必要な水量が最適化され、水の消費を抑えることが可能になります」と、サッド氏は述べた。この過程は、灌漑のスケジュールや場所、必要性に関する精確な予測を行うためのライブデータを収集する遠隔ワイヤレスセンサーを用いて自動化可能である。

「閉じたループシステム」を農業経営に導入するより包括的な取り組みで、MENA地域の水供給の全要素の負担を軽減し、また、輸送や外注、現地のエコシステムを超えたインフラへの現在の依存を弱めることが可能となる。

海水脱塩の過程で排出される温室効果ガスや他の有害な副産物を減少させるために、クリーン技術や他のイノベーションも活用されている。「幸いなことに、現行の海水脱塩プラントに対して新材料関連の科学が新たなソリューションを提供してくれています」と、アルディビス氏は語った。

サッド氏は、中東地域の海水脱塩化への依存を減じるには新しい科学技術の活用が決定的に重要であるという見方に賛同している。「中東は、乾燥した気候と輸入への過度の依存に駆り立てられ、こうした開発の多くを主導しています」と、サッド氏は述べた。

アラブ首長国連邦はネットゼロ2050戦略を2021年に開始した。その目的は、世界的な気候変動への対応の取り組みに沿った温室効果ガスの減少と、同国の環境関連の課題への対応である。

オマーンの首都マスカットの南に位置する港湾都市スールの海水脱塩プラントでコントロールパネルを監視するエンジニアたち。 (AFP)

アラブ首長国連邦の地下水位は、過去30年間、毎年約1メートル下がり続けている。同国の天然の水資源が枯渇するまでの時間は50年よりも短い。

サウジアラビアも同様にビジョン2030の取り組みを開始した。その狙いには、水源の最適な使用、水資源の消費の低減と、再利用可能な水資源の利用促進が含まれ、「サウジグリーン」と「ミドルイーストグリーン」の取り組みと呼応している。

サウジアラビアのNEOMスマート・シティ・ギガプロジェクトは紅海沿岸で形になりつつあるが、その目的には同国の出資子会社であるENOWA を通じて、インフラの構築と革新的な技術の導入を行い、平均的な水の損失を30%から3%に低減することも含まれている。

NEOMによれば、ネットワーク全体に貯水池を戦略的に配置し、最大10ヶ所のパイプラインとポンプを備えた基地を設置し、豊富な飲料水の供給を確保する。 (提供写真)

「この取り組みで、持続可能な水利用と資源管理を広範囲で達成する詳細な計画を建てられるようになります。そして、一度成功すれば、世界の他の地域が導入したり適応したりする成功モデルが出来るわけです」と、サッド氏は述べた。

水資源の浪費を減少させるには科学技術とリアルタイムでの新しい工夫が必要不可欠であることを認識しながらも、政府と民間企業、そして消費者の協力によってのみ天然資源の保全は達成され得るとサッド氏は確信している。

「食料を調達し消費する過程で我々が下すいくつもの決断や我々の日々の生活の仕方すべてが影響を持ち得ます」と、サッド氏は言った。

「誰しもが、日々の習慣や意思決定に努力や注意を向けることで、持続可能性の全体的な目標に貢献可能なのです」。

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