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アルカイダの「事実上の指導者」サイフ・アル・アデル容疑者に関する国連レポートでイランとの戦術的同盟が顕に

1998年のタンザニアとケニアでの米大使館爆破テロに関連して指名手配中のサイフ・アル・アデル容疑者のFBI写真(左上)、2000年のアフガニスタンのアルカイダ訓練キャンプでの同容疑者(右)、2012年にテヘランで撮影された同容疑者(左下)。(提供写真、Getty Images)
1998年のタンザニアとケニアでの米大使館爆破テロに関連して指名手配中のサイフ・アル・アデル容疑者のFBI写真(左上)、2000年のアフガニスタンのアルカイダ訓練キャンプでの同容疑者(右)、2012年にテヘランで撮影された同容疑者(左下)。(提供写真、Getty Images)
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25 Feb 2023 05:02:51 GMT9
25 Feb 2023 05:02:51 GMT9
  • レポートによると、元エジプト特殊部隊大佐である同容疑者は数多くのテロに直接関与した
  • イラン体制は容疑を一蹴し、「偽情報」は「テロ対策の取り組みを妨げかねない」と主張している

ウバイ・シャーバンダル

ワシントン:20年にわたり、全世界はある狡猾な組織の脅威に晒されていた。この組織は最盛期には一連の爆破テロや攻撃によって数千人の命を奪った。今日に到るまで史上最悪のテロ攻撃であり続けている2001年9月11日の事件もその一つだ。

かつては世界最大のテロ脅威の一つだったアルカイダは、近年その重大性を大きく減じている。同組織が犯行声明を出した攻撃は、2019年にフロリダ州の海軍航空基地で発生し死者3人と負傷者8人を出した銃乱射事件が今のところ最後だ。

アルカイダの創設者で指導者だったオサマ・ビンラディン容疑者は2011年にパキスタンで米国による急襲で射殺された。同容疑者の後継者であるアイマン・アル・ザワヒリ容疑者は昨年アフガニスタンで米国のドローン攻撃により殺害された。他にも複数の幹部が追い詰められ逮捕あるいは殺害されており、もはや同組織の隠れ場所はないと思われた。

アルカイダの指導者だったオサマ・ビンラディン容疑者(左)と、同容疑者の後継者アイマン・アル・ザワヒリ容疑者。両者は米国の対テロ作戦によりそれぞれ2011年5月2日と2022年7月31日に殺害された。(AFP)

しかし、そのような仮定を覆したのが今週発表された国連のレポートだ。国連の専門家らが作成したこのレポートは、元エジプト特殊部隊大佐でビンラディン容疑者の副官の最後の生き残りの1人であるサイフ・アル・アデル容疑者が現在アルカイダの「事実上の指導者」になっていると結論している。

ただ、このレポートの意義はアルカイダの新指導者を特定したことに留まらない。アル・アデル容疑者がこれほど長く生き延びることができている理由の一つについても明らかにしているのだ。それは、イラン政府から与えられているテヘランの隠れ場所である。

アル・アデル容疑者はアルカイダの最古参メンバーの一人だ。1988年にエジプトを出国してアフガニスタンに入り、ビンラディン容疑者やアル・ザワヒリ容疑者らが創設したアルカイダの前身マクタブ・アル・ヒダマトに参加した。エジプト軍では爆発物のエキスパートだったアル・アデル容疑者は、ソ連・アフガン戦争終結後にタリバンのメンバーを訓練した。

アフガニスタンで、アル・アデル容疑者はいつもビンラディン容疑者やハリド・シェイク・モハメド容疑者(9.11委員会報告書の中で「9.11テロの首謀者」とされた人物)を相談相手にしていた。

アル・アデル容疑者は最終的に、米国のアフガニスタンへの軍事介入を受けて2001年末に同国から逃れ、隣国イランに拠点を築いた。レポートによると、同容疑者はテヘランで公式には軟禁されていたが、2010年頃からは比較的自由にパキスタンに渡航してアルカイダ高官と会うことができたという。

国連加盟国の情報機関からの情報に基づいたこのレポートは、アル・アデル容疑者の所在にさらなる光を当てる助けとなる。(アルカイダとその分派に断固として反対していると表向きは主張している)イランにおける同容疑者の存在は、アルカイダが完全に根絶されることを回避するのに役立ってきた。

元米国務省高官のガブリエル・ノロンハ氏はアラブニュースに対し次のように語る。「現在アルカイダのトップであるサイフ・アル・アデル容疑者が生き延びてテヘランで活動していることは非常に重大だ。イラン政府は、アルカイダを受け入れ手助けすることで同組織をコントロールするとともに自国の敵への攻撃を強化できるという抜け目のない計算をしている」

アル・アデル容疑者は数多くの爆破テロに直接関与した。1998年にダル・エス・サラームとナイロビの米大使館で発生し200人以上の死者を出した爆破テロも同容疑者が計画したものだ。米国とサウジアラビアの情報機関は、2003年にサウジの首都リヤドで3つの住宅地を別々に標的にして39人の死者を出したテロ攻撃には、テヘランを拠点とする同容疑者からの指示があったと主張している。

少なくとも280人のケニア人と12人の米国人が死亡した自動車自爆テロから数日後の米大使館の様子。1998年8月7日、ケニアのナイロビ。(AFPファイル)

現在アルカイダの最高司令官であるとされるアル・アデル容疑者は、イランにおける活動拠点が比較的安全であることを利用して、同国以外の安全な拠点を失った同組織を存続させている。

ノロンハ氏は語る。「米国務省は2021年1月、イランがアル・アデル容疑者およびアルカイダに活動拠点と後方支援(パスポート提供など)を与えることでアルカイダのテロ計画を助長していることを明らかにした。彼らを放置すれば、世界中でさらなるテロ攻撃を開始することは間違いない。今のところ、彼らは組織を再編成し、リソース蓄積、人員補充、能力向上を進めている」

2020年、アル・アデル容疑者の側近であるアブ・ムハンマド・アル・マスリ容疑者がテヘランでイスラエルの工作員によって殺害されたと報じられた。しかしアル・アデル容疑者は未だ逃亡中である。

アル・アデル容疑者の戦術的能力と専門知識は、アルカイダが世界で最も危険なテロ組織の一つとして国際的なスポットライトを浴びることに貢献した。イランにおける同容疑者の存在は、最高レベルでの承認がなければ不可能だろう。

イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)は、地域におけるアルカイダ(およびそのイラク・シリア支部からの分派であるダーイシュ)の存在を口実に、イラクやシリアなど中東各地において自国が支援する勢力の拡大を正当化してきた。

しかし、これはイランによる明らかな偽善行為だと専門家は言う。イラン当局はしばしば、アルカイダやダーイシュとの戦いという名目で、イラクやシリアにおいて支配を確立するための準軍事作戦や活動を実施してきた。

軍事演習中に旗を掲げるイランのイスラム革命防衛隊のメンバーたち。(AFP)

「アメリカン・エンタープライズ研究所」の学者であるフレッド・ケイガン氏はアラブニュースに対し、「イランは馬鹿げたことに、米国が自分たちを攻撃するためにダーイシュを作り出し同組織への支援を続けていると絶えず非難している」と語る。「イラン自体が米国による大規模な対テロ作戦から恩恵を得ているにもかかわらずだ。それがなければ、ダーイシュは今でも大規模で強力なカリフ国領土を持っていただろう」

「イランが長年にわたりアルカイダの最高指導者を匿っていることが明らかになるにつれ、その偽善が非常に際立ってきた」

欧米の情報機関関係者によると、IRGCとその代理勢力はテロと戦っているのだと見せかける一方で現実にはアルカイダの拡大と活動を可能にしているというように、イランが二股をかけることを可能にしたもう一つの方法は、アルカイダの重要な工作員を多数、南アジアからシリアへと運ぶことを支援することだった。

行進するシリアのアルカイダ関連組織アル・ヌスラ戦線の戦闘員たち。2014年7月28日、ダマスカス南部のヤルムーク・パレスチナ難民キャンプ。(AFP)

米財務省が2012年に出したプレスリリースによると、当時アルカイダのイランネットワークの指導者だったムフシン・アル・ファドルヒ容疑者は、シリアに送られる資金や戦闘員の「中核的なパイプライン」を担っていたという。当時米財務次官(テロ・金融犯罪担当)だったデヴィッド・S・コーエン氏は、「このネットワークの運営にイランが現在も加担していること」を認めた。

アル・ファドルヒ容疑者自身は2015年にシリアのイドリブ県で米国の空爆により殺害された。今回の国連レポートは、イランが長年にわたりいかに深くアルカイダと関係してきたかに関する公共の議論を再燃させた。

非営利組織「反核イラン連合」によるレポートは次のように述べている。「アルカイダの現指導者アイマン・アル・ザワヒリ容疑者が2008年にIRGCに送ったとされる書簡を傍受した内容からは、イランとアルカイダの関係がこれまで考えられていたよりもずっと深かったことが分かる」

 

イランの動機はより幅広い範囲に及んでいるようだ。アルカイダは一時期、アラビア湾岸諸国やレバント・北アフリカに深刻な脅威をもたらし、サハラ以南アフリカに様々な「フランチャイズ」を確立することに成功した。

ノロンハ氏は語る。「イラン・イスラム共和国はスンニ派諸国の政府を弱体化・分断化させたいのだ。そのためには、最も過激なスンニ派派閥に力を与えることでそれらの政府を内部から弱らせるのが最も良いやり方だ」

元国連テロ対策担当高官で現在は非営利組織「反過激派プロジェクト」の顧問を務めるエドモンド・フィットン・ブラウン氏は、ボイス・オブ・アメリカのニュースウェブサイトへのコメントの中で次のように述べている。「イランにおけるアルカイダの存在は、イランが持っているある種のチップだ。それをいつどのように使うかについて彼らは完全に分かっているわけではないが(…)潜在的な価値があると考えているのだ」

驚くべきことではないが、イランはアルカイダとの関係を否定し続けている。ニューヨークのイラン国連常駐代表部は2月13日、今回の国連レポートについて、「いわゆるアルカイダの新指導者の住所が間違っていることは注目に値する」と一蹴した。また、レポートの内容は「偽情報」であると断じ、「テロ対策の取り組みを妨げかねない」ものだと非難した。

もちろん、イランの国外不正規戦争・軍事情報部門であるコッズ部隊が、世界中で何千人ものスンニ派およびシーア派イスラム教徒を殺害してきた組織に提供している支援の程度を公に明らかにすることは、政治的に厄介なことであり、体制を駆動するイデオロギーの皮肉な性質を晒すことになる。

今回の国連レポートは、アルカイダが最高指導部の衰えとともにその重大性を減じている中、テヘランの安全な拠点が彼らにとって快適なライフラインとなっていることを思い出させるものとなった。

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