Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

テックエコシステム:サウジアラビアをこの地のシリコンバレーに変える挑戦

Short Url:
29 Jan 2022 12:01:12 GMT9
29 Jan 2022 12:01:12 GMT9

サウジアラビアは本当に中東のシリコンバレーになるのだろうか? サウジ王国のデジタル経済の発展が「国家改造プログラム」の中心であることは明白であり、同国を多様化させ、原油依存から脱却することを狙いとしている。

プラス面について言えば、サウジアラビアにはテクノロジーに精通した若年層がいる。国民の約70%が35歳以下なのである。

また「マグニット(MAGNiTT)」によると、去年サウジアラビアでは1億5,200万ドルという記録的な額が国内のテック系スタートアップに投資されたという事実もある。前年比55%の増加であり、中東・北アフリカ地域(MENA)の幅広い傾向に抵抗している。

現金投資は88件という記録的な数の案件で行われており、前年比35%の増加となっている。これもまた取引が減少しているMENAの全体的な状況とは全く対照的である。

そして忘れてはならないのは、2015年の国内のテック系の投資はわずか700万ドルだったということである。

「ローンチ(Launch)」のようなプログラムや、政府の中小企業庁(Monshaat)の活動がテック系スタートアップに人気のあるコワーキングスペースやハブなどの開発を支援しており、サウジ王国の急成長中のテック文化の育成を促進している。

いわゆるフラット・ホワイト・エコノミーに参加したいと望むサウジアラビアの若者の人的資本や大望を活用しようとする政府の熱意や資金提供には事欠かない。

また、今後サウジ王国が相当数のベンチャーキャピタル投資を呼び込むのも疑問の余地がないことである。

データ提供団体のピッチブック(PitchBook)と全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)による最新のベンチャー・モニターのレポートで、今年の世界中の投資可能額は2,200億ドルを超えると示唆された。ヨーロッパへの投資はその半分以下に過ぎないが、ヨーロッパの査定額は急上昇中である。そうした状況を背景として、サウジ王国はマネーに見合う価値を提供している。

査定額が高くなっているのは、部分的にはそのような大量の資金が突然投資に向かっているという事実が理由であり、市場は1999年のようなITバブルになる寸前なのではないかという懸念の声が上がっている。他方、査定額の上昇はコロナウイルスのパンデミックの中でデジタルサービスの利用が大幅に拡大したことが理由だとする人もいる。これによって食べ物の注文方法から医療の提供方法に至るまで何もかもが変化した。

いずれにしても、サウジアラビアのテック部門における投資の上昇曲線は続いていくことだろう。しかし同じことはアラブ首長国連邦(UAE)でも続くだろう。UAEでは音楽ストリーミングプラットフォーム兼デジタル配信企業「アンガミ(Anghami)」や、ハイヤー会社「カリーム(Careem)」の成功に続くよう、地域のスタートアップの開業が奨励されている。

とは言え、サウジアラビアはシリコンバレーとのつながりや、そのスキルセットへのアクセスを活用するのに適した立地だとも言える。近年サウジ王国がそこに莫大な投資をしているおかげである。

しかし中東のシリコンバレーへと変わろうとしているサウジアラビアにとっての最大の障壁はおそらく、そうした類の自立したテック系エコシステムを確立できるかどうかだ。そうしたエコシステムは温暖なカリフォルニアにしか存在しないわけではなく、雨の多いロンドン、ニューヨーク、ムンバイ、バンガロールにも存在する。

ロンドンのテック部門には去年、米国外の世界中に存在するどのテック中心地よりも多くのベンチャーキャピタル資金が集まった。ロンドンはもちろん資本への比較的簡便なアクセスを提供しているが、テックビジネスも多様性で成功している。

ダグラス・マクウィリアムス氏によれば、ロンドンのテック部門に従事する人々の約30%が非英国人であるという。同氏は「経済ビジネスリサーチセンター(CEBR)」の創設者であり、「The Flat White Economy(ザ・フラット・ホワイト・エコノミー)」の著者である。同書はロンドンのデジタル部門の拡大と経済的影響を年代順に記録した革新的な本である。

マクウィリアムス氏は、様々な出自を持った多くの人々と共に仕事をすることがスタートアップにとっての重要な要素だと考えている。それによって創造性のある思考が促進されるからだ。

才能ある若い技術者を育成することも1つの方法だが、才能ある人物を引き止めておけるかどうかは幅広い要因にかかっている。国際色豊かで活気のあるエッジの効いた都会的で魅力ある職場環境が飛行機に乗ってすぐのところにあるという時代だからだ。

そのため、サウジ王国をこの地のシリコンバレーに変えられるかどうかも、現在外国で働いている才能あるサウジ人技術者を惹きつけて帰国させられるかどうにかかってくる。アラブニュースが毎日報じているように、サウジアラビアは経済的にも社会的にも変化しているところである。

近年サウジ王国で始められているあらゆる改革が成功を続けることが、サウジアラビアが中東のシリコンバレーになれるかどうかを決定づける最も重要な要因となるだろう。

  • マイケル・グラッキン氏は英国を拠点とする受賞歴のあるジャーナリストであり、英国、ヨーロッパ、米国の財政と経済、中東の政治と経済を専門としている。
特に人気
オススメ

return to top