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ウクライナ戦争終結への道のりは遠い

バフムートで破壊された建物の外観。ウクライナ戦争は2月24日で、開始から1年を迎える(File/AFP)
バフムートで破壊された建物の外観。ウクライナ戦争は2月24日で、開始から1年を迎える(File/AFP)
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17 Feb 2023 06:02:08 GMT9
17 Feb 2023 06:02:08 GMT9

ディアナ・ガリーヴァ博士

ウクライナで戦争が始まって1年が過ぎようとしているが、状況は日々複雑さを増すばかりである。

ウクライナ政府はロシアが国中で電力施設に爆撃を加えていると非難する一方で、2月13日にはウクライナのエネルギー相が供給は人々の「電力必要量を」カバーしていると発言した。

チェチェンのラムザン・カディロフ首長は、ロシアはキーウ、ハルキウ、オデッサを奪取することが可能だと述べたが、傭兵組織「ワグネル・グループ」を率いるエフゲニー・プリゴジン氏は、ロシア軍はウクライナのバフムート攻略にあたって抵抗に直面していると語った。

(新たなミサイル攻撃を含めて)現地で起きていることやそれらをめぐる言説の性質が変化しているわけではないものの、先週にはNATO加盟国や協力国が戦争に巻き込まれるという可能性を含め、紛争激化につながるような難題がいくつか現れた。

先週2月10日、モルドバ外務・欧州統合省はロシア大使を呼び、トランスニストリア地方の村モクラ上空をミサイルが通過して領空が侵犯されたと抗議した。

ミサイルはソロカ地区のコサウティ上空を通り、ウクライナへ向かったという。モルドバは以前からNATO加盟に関して中立的立場を維持してきたため、この一件は法的には二国間の問題であるが、マイア・サンドゥ大統領が今年1月に「より大きな同盟関係」への参加について「真剣な議論」が行われていると発言したように、ウクライナ戦争開始以来、モルドバの立場は変化しつつある。

モルドバはすでに、輸送回廊の遮断による深刻な経済難という形で、ウクライナ戦争の影響を間接的に被っている。

主な理由は、同国経済がロシア産天然ガスに完全に依存していることで、現在モルドバはエネルギー危機に苦しみ、家庭用電気料金は急騰している。

ロシア向け医薬品とリンゴの輸出は中断し、EUの制裁により送金も減少している。また、隣国ウクライナへのロシアのミサイル攻撃で、停電も起きている。

ウクライナ危機勃発当初は、モルドバが紛争に直接巻き込まれるのではないかという懸念があった。

現在のところ、情勢は不透明だが、先週の出来事によってモルドバの立場がさらに複雑なものになったことは確かである。

全体的構図としては、ウクライナに支持が集まっているものの、物質的援助に関してはウクライナが希望するほど素早く事が進んでいない

ディアナ・ガリーヴァ博士

確実に重要なのは、ミサイル事件の翌日、ウクライナ戦争による政治・経済危機を理由に欧米寄りのモルドバ政府が発足から18か月で辞職したことである。

もっとも、後継のドリン・リセアン次期首相は依然西側との強力な関係を支持しており、外交政策に関しては、モルドバの取る方向に変更はなさそうである。

むしろ、NATO加盟へ向けてさらに歩を進める、あるいは少なくとも西側との軍事同盟をさらに強化する兆候が見られる。

だが、モルドバのNATO加盟を阻む問題が1つある。

東部トランスニストリア地域にはロシア軍の大部隊が駐屯しており、少数派のロシア系住民を抱えているのだ。

モルドバが表立って西側諸国に接近することは重大なリスクを伴う。したがって、少なくとも短期的には限定的な協力関係という選択肢がもっとも現実的だろう。以上が紛争の緩和に向けた可能な筋書きの要因の1つである。

モルドバがNATOの正式加盟国ではないことから、一般的にはウクライナ戦争に関連して危機に陥ることはないと考えられている一方で、ルーマニアの状況は異なる。

ルーマニアはNATO加盟国であり、先週ロシアのミサイルが領空を通過した事実はないと否定した。

ルーマニア政府の公式発表では、「黒海のロシア連邦の船舶から発射された空中の標的」を探知したが、「どの時点においてもこの物体が我が国の領空を横断した事実はない」。これは、ロシアのロケット2発がモルドバとルーマニアの領空を通過したというウクライナ政府の主張と対立する。

ルーマニアはまた、この戦争で予期せぬ人道上の、あるいは経済・政治的影響を被りつつ、北の隣国ウクライナを様々な点で支援しているが、その立場は複雑かつ決定的重要性を持つ。

NATO加盟国であると同時に、ウクライナ戦争の進行とともに生じうる様々な問題に何とか対処しようと努めているルーマニアにとって、紛争の様々なシナリオは国の未来を左右する大きな意味を持つ。

紛争緩和を阻害する可能性のある第2の要素は、戦争開始以来初となるウォロディミル・ゼレンスキー大統領によるイギリス・フランス訪問である。

ゼレンスキー氏は西側諸国に対し、さらなる兵器と戦闘機の供与を求めた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ウクライナの闘いを支えると誓い、「ウクライナの勝利と正当な権利の回復を助ける」決意を表明した。同様に、ドイツのオラフ・ショルツ首相はウクライナを「資金と人道援助、兵器供与の面で」後押しすると述べて強力な支援を示した。

イギリスでは、リシ・スナク首相が対ウクライナ軍事支援に関して「あらゆる可能性を検討する」と約束した。スナク首相はまた、ゼレンスキー大統領との会談の中で、イギリスの戦闘機配置における「サプライチェーン」を検討していると述べて、イギリスからウクライナへの戦闘機供与の決定に第3国が同意する必要性を示唆した。

全体的構図としては、ウクライナに支持が集まっているものの、物質的援助に関してはウクライナが希望するほど素早く事が進んでいない。つまり、おそらく紛争は長引く可能性が高いだろう。

昨年12月、ゼレンスキー氏のワシントン訪問に際してアメリカのジョー・バイデン大統領がウクライナ支援をあらためて表明したことを受けて、ロシア政府は戦争が「長くなる」と警告した。

ウクライナの近隣諸国が抱えるジレンマや、欧米主要国が提示する条件付きの支援といった、先週起きた一連の出来事によって明らかになったのは、この紛争をめぐる見通しがはっきりするまでにはまだしばらく時間を要するだろうこと、まして戦争終結までには長い道のりが待っているということである。

  • ディアナ・ガリーヴァ博士はオックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジの元アカデミック・ビジター(2019-2022)。『カタール:レンテッド・パワーの実践者』(ラウトレッジ,2022)、『ロシアとGCC :タタールスタンのパラディプロマシーの事例』(B.タウリス/ブルームズベリー,2022)の2冊の著書がある。また、『ブレグジット後の欧州と英国:イランとGCC諸国に対する政策課題(パルグレイブマクミラン,2021)』の共同編集者でもある。
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