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レバノンの正念場がやってきた

抗議者たちがレバノンの首都ベイルートで治安部隊と衝突する様子。(AFP)
抗議者たちがレバノンの首都ベイルートで治安部隊と衝突する様子。(AFP)
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22 Jan 2020 10:01:01 GMT9

ダニア・コレイラト・ハティブ博士

レバノンのミシェル・アウン大統領は先週末、ベイルート市内の治安を回復するよう軍と治安部隊に命じた。それにより、抗議者と治安部隊との間で流血の衝突が起こり、土曜の夜に377人が負傷したと報告された。

内務大臣は、抗議者たちが治安部隊を攻撃したと非難する一方、暴力を非難した。しかし、抗議者たちが「激怒の週」と呼ぶ間に私たちがベイルート市内で目にした光景は、民衆は宗派の権力分担に基づく現在の政治体制をもはや望んでいないということをはっきりと説明している。彼らは、既存の政治構造には改善の余地がなく、新政府はいかなる改革も行うことができないことを認識しており、新政府が守旧派の操り人形になるであろうことを知っている。実際、政治エリートたちは、誰が何を得るべきかについて、今もあからさまに議論している。彼らが政権に就かせよううとしているいわゆる「テクノクラート」は彼らと同様の人たちであるため、近く発表されるといわれている新政権は旧体制から脱却するものではないだろう。

「現政権を倒したい人々」のスローガンが溢れ、通りは煮え立っている。国民は現在の政治エリートに対する信頼をすっかり失ってしまった。しかし、憲法によると、いかなる政府も議会の「信任」を得る必要があり、その議会は現在の政治制度が作り上げたものである。基本的に、レバノン国民は既存の体制に囚われている。なぜなら、権力者は、自分たちが一掃されることになる真の改革を行う政府を支援しないからだ。

レバノン人は、多くの独裁政権の中で民主主義国家であることを誇りに思っているが、今日、民主主義(もしくはさらに正確に言うと、現在の民主主義体制)はレバノンを行き詰まらせている。この民主主義体制は、国民が排除を求めている腐敗した政治エリートに力を与えている。この危機が始まって以来、権力者は何ら責任ある行動を示していない。それどころか、彼らは傲慢と利己心だけを見せつけてきた。権力者たちは自分たちのお金を海外に送金している一方で、まともなレバノン人たちは苦労して稼いだ貯金を銀行から引き出すのに苦労している。一般人が週300ドルを引き出すために窓口の前で何時間も待たなければならない一方、政治家たちの数十億ドルが国外に流出した。

それと同時に、レバノンは闇に包まれている。一部の地域では、6時間ごとに2時間分の電気しか供給されていない。政府は国に電気を供給していないのだ。燃料を輸入するために信用状が開かれた。レバノンの活動家によると、同政府は国内の年間燃料消費量の378%を輸入しているが、燃料がシリアに密輸されているため市民は電力不足に苦しんでいる。

平均的な市民はどうしてこのような政治体制を信じることができるのだろうか。泥棒集団は、この国が置かれている暗い時代にでさえ、平均的なレバノン人を犠牲にして私腹を肥やすためのあらゆる機会を逃さないでいる。これを終わらせる時がきた。この国はこのままではいけない。銀行は通貨を使い果たしており、閉鎖する可能性がある。

ベイルート・アメリカン大学のイッサム・ファレス公共政策・国際情勢研究所の暫定所長、ナセル・ヤシン博士によると、この国が再び立ち直るには200億~250億ドルが必要だという。しかし、国際社会は、レバノンが本格的な改革を行わない限り、同国を支援することはできないことを明確にしている。しかし、腐敗を求める政治体制では改革を実施できない。これゆえに、私たちは行き詰まっている。

現在の体制は、何が何でもなくなる必要がある。ここで、国際社会は彼らに立ち去るよう圧力をかけることによって、こう着状態を打開するための一歩を踏み出すべきだ。そうしなければ、この国は大混乱に陥る危険があり、それは国際社会の利益にならないのは明らかである。混乱は過激派やいかがわしい人々の利益になるだろうし、また、国を新たな内戦へと駆り立てる危険もはらんでいる。

権力者たちは、民主主義と憲法という薄いベールの陰に隠れながら、その両方に違反するためにできるあらゆることを行ってきた。

ダニア・コレイラト・ハティブ博士

皆が様子見をしているが、行動を起こして圧力をかける時が来た。この政治体制は彼らには追放することができず、強制的に追放する必要がある。彼らは内部の治安部隊を使って抗議者たちを残酷に弾圧した。だれかが止めない限り、彼らはそうし続けるだろう。

現在の政治構造は正当性を失った。権力者たちは、民主主義と憲法という薄いベールの陰に隠れながら、その両方に違反するためにできるあらゆることを行ってきた。彼らは今立ち去らなければならない。レバノンには、改革を断行し、国民と国際社会の信頼を回復し、真の無宗派民主主義のためのレバノンを準備する暫定政府が必要だ。

レバノンは今まさに正念場に直面しており、国際社会の支援がなければ同国は苦しむことになる。様子見はもう十分で、今こそ国際社会が行動を起こす時だ。

  • ダニア・コレイラト・ハティブ博士はロビー活動を中心としたアメリカ-アラブ関係の専門家である。エクセター大学で政治学博士号を取得。ベイルート・アメリカン大学のイッサム・ファレス公共政策・国際情勢研究所と提携して研究を行う研究者である。
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