先週、世界中のトップが第56回ミュンヘン安全保障会議に集まり、イランの核合意離脱や、恐ろしい新型ウイルスの発生、英国離脱後のEUの行き詰まりなど、入り組んだ課題に直面した。会議のテーマ「Westlessness（消える西側）」は、怖れの感覚を反映していた。

欧米諸国の永続的目的の不安定さが増していることに対して広まっている不安と焦燥として定義されたこの感情は、ミュンヘンであまりにも明らかだった。古い外交的会議の場は、現代の国際関係における姿なき敵に対抗するためには絶望的に準備不足のようだった。昨年は、ドナルド・トランプの目まぐるしい独断的な国際政策決定とそれが長年の同盟システムに与える影響に対する世界のトップらの懸念により、会議は乗り越えられたが、今年はまさに戦後の現状の永続性が疑問視された。

欧米諸国が直面している無数の複雑な外交政策の課題は、20世紀後半に世界情勢を支配していた東西核問題とは大きく様相を異にしている。米国主導の単極世界における「歴史の終わり」と「文明の衝突」を理解しようとする冷戦終結時の政治学者による試みは、世界に影響を及ぼすには錯乱しすぎているアメリカ、そして内輪もめや、急速に変化する危機に対処するには時代遅れの仕組みにより弱体化した欧米の同盟システムによって、同じく疑問視されている。簡単に言えば、アメリカの同盟諸国が、世界でより強い団結と力を発揮したかったとしても、現在はそのためのビジョンと合意を欠いているのである。

通常、大西洋圏関係の健全さについての有用なバロメーターと考えられているミュンヘン会議には、驚くほどの多数の参加者が出席した。米国の代表は、ホワイトハウスが欧州の同盟諸国を懐柔しようと必死であるという印象を強く与えた。政府高官2人と元国務長官1人、上級議員ら、そしてその他の有力な代表らが、米国の強い存在感を偽った。北朝鮮が初めて参加したこの会議で、マイク・ポンペオ国務長官は、米国の力は、銃や人の数ではなく、価値観を広めることによって測られるのだと強調した。現在の主要な国際問題に関してますます口を噤む欧米諸国の姿勢に疑問を呈しながら、彼は代表らに「欧米は土地や区画を規定するものではありません。それは個人の自由、自由企業、国家主権を尊重するモデルを採用した全ての国のことです」と思い出させた。

アメリカの同盟諸国が、世界でより強い団結と力を発揮したかったとしても、現在はそのためのビジョンと合意を欠いているのである。

Zaid M. Belbagi

しかし、アメリカの自由について陳腐な演説は、世界における独裁の台頭という非常に深刻な問題を減じることはできなかった。中国とロシアがますます咎めなく国際舞台で行動していること、そしてルールに基づく国際関係に対する両国の明らかな軽視は、欧米同盟システムに大きな影響を与えている。絶えず拡大している脅威と課題の中で、単極的な米国の秩序、パックス・アメリカーナ、または世界のアメリカの時はますます脆く見えつつある。

中東では、アメリカの複数の政権が長期計画の実施を躊躇したため、戦略的に優位な場所を放棄することになった。先月の米国のイラク撤退の発表は、地域全体に警鐘を鳴らし、イランがイラクの伝統的なアラブ同盟諸国を追放し、イラクを再建し政府の顔色を窺うというアメリカの膨大な努力を無にしたことを見せつけた。ますます最前線に立つ優れた若い役人の幹部の一人である、サウジアラビア代表団のサウド・ビン・バドル皇太子にとって、この地域でのアメリカの存在は軍縮問題に欠かせない。「彼らが参加していることで、特に軍縮協定の強制力と核のない中東への動きなど、全てが変わります」と彼は言った。

フランク・ヴァルター・シュタインマイヤー議長は、嘆きの言葉で会議を開き、現在の米国政権が「国際社会の概念そのものを拒否」し、周辺国やパートナーを犠牲にして「再び偉大に」なろうとしていることについて警告したが、欧米は、国際秩序を再構成し、「米国の目を通して」安全保障問題を見ないようになるための真の機会を持っている。 世界の民主主義勢力が平和な世界に住みたいと望むなら、世界の独裁拡大の影響を軽減するため、ハードパワーの実力を維持し、また新自由主義の相互依存の原則を説くことに基づく戦略的自治を行使するために協力しなければいけない。

• Zaid M. Belbagiは、政治評論家で、ロンドンと湾岸協力会議（GCC）の間の個人顧客へのアドバイザーでもあります。 Twitter：@Moulay_Zaid