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コロナウイルスによる隔離措置は新たなシェイクスピアを生み出すか?

2014年4月26日、ストラトフォード・アポン・エイボンのホーリー・トリニティ教会内で、生誕450周年を記念し、象徴的な羽ペンがウィリアム・シェイクスピアの銅像の手の部分に置かれた。(ロイター)
2014年4月26日、ストラトフォード・アポン・エイボンのホーリー・トリニティ教会内で、生誕450周年を記念し、象徴的な羽ペンがウィリアム・シェイクスピアの銅像の手の部分に置かれた。(ロイター)
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02 Apr 2020 04:04:59 GMT9
02 Apr 2020 04:04:59 GMT9

ウイルスのせいで私たちに課された制約の面白くより肯定的な側面は、内省への回帰だろう。人々は、以前であればいつも”忙しすぎて”することができなかったことをする時間と機会を手に入れた。17世紀初め、黒死病の大流行によりロンドンのシアターは閉鎖された。これにより、英語による最も偉大な劇作家であるウィリアム・シェイクスピアは執筆に集中できるようになり、”リア王”、”マクベス”、”アントニーとクレオパトラ”などの最も有名な作品のいくつかを生み出すこととなった。また、シェイクスピアは”ハムレット”を、彼の一人息子であるハムネットが11歳で黒死病により亡くなった後に執筆したと考えられている。

14世紀、アラブ世界でもっとも偉大な作家のひとりであるイブン・ハルドゥーンは、17歳までの間に彼の両親と教師たちの命を奪った黒死病の壊滅的な衝撃に多大なる影響を受けた。”黒死病は、文明のよいところを飲み込み、一掃してしまった”と彼は書いた。”それはまるで、世界に存在する声が忘却と制限を呼びかけ、世界がそれに答えたかのようだった。”世界に解き放たれた絶対的な惨状に関する、これ以上に焼けつくような表現はあるだろうか?

1348年、シリアの歴史家イブン・アルワルディーは、黒死病がいかに中国、インド、ペルシャ、クリミア半島、ガザ、ベイルートを一掃し、ダマスカスに到着するまでに”カイロの人々を滅ぼした”か、刺激的な記事を書き残している。”そこでは黒死病はライオンのように王座に居座り、力により支配し、一日に1000人かそれ以上を殺して人々を滅ぼした”と彼は書いた。”ああ、もしアレッポの貴族たちが医学書を勉強しているのが見えたら。彼らは乾燥して酸っぱい食べ物を食べるという治療法に従っている…。一人一人がより快適に生きれるように健康に気を付けていた。人々はクスノキ、花、サンダルで家に香りを付けた。ルビーの指輪を身に着け、玉ねぎ、お酢、イワシを毎日の食事に取り入れた。私たちは神に、悪い魂への赦しを請いた。黒死病は確かに神の裁きの一部なのだ。ある人はこういった、空気の堕落が人々を殺すと。私はこういった、堕落への愛が人々を殺すと。”アルワルディー自身も1349年、黒死病に倒れた。

ロックダウンが発令されて以降、出版社と著作権エージェントのもとにはすでに原稿が殺到しているという。

Rym Tina Ghazal

また、メアリー・シェリーが1816年に”フランケンシュタイン”を書き始めたとき、悪天候が彼女を数日間屋内に閉じ込めたことを思い出さなければならない。今日の強制的な隔離措置が新たな素晴らしい作家を生み出すことはあるだろうか?Amazonは自費出版の本であふれているし、ロックダウンが発令されて以降、出版社と著作権エージェントのもとにはすでに原稿が殺到しているという。おそらく、その中に新たな傑作があるだろう。もしかしたら、今現在誰かが素晴らしい文学作品を作っている最中なのかもしれない。

普段は本を読まない人々が読書の習慣を手に入れはじめている。時間も趣味もなかった人々が工作に挑戦しはじめた。コロナ危機は私たちの多くに、幾分だしぬけに、日常生活を一時停止させることを余儀なくさせた。この状況から良いことも生まれている。しかし、これはマインドセットの永続的な変化につながるのだろうか?家族と再度つながり、本当に大切なものを再評価する、この機会を人々は歓迎するかもしれないが、これは続くのだろうか?

 “医療・介護従事者に拍手を”というキャンペーンが現れ、人々は定められた時間に庭やバルコニーに集まり、防衛最前線にいる献身的な医療従事者に拍手を送っている。若者が、年配の隣人に食料品の買い出しの援助を申し出ている。友人達や親族がついに受話器をとり、長い間かけるつもりだった電話をかけている。人間が与えたダメージから、自然が回復し始めている。悲劇の真っただ中においても、愛と希望のかすかな光がある。大きな変化をもたらすために、ほんの小さなジェスチャーですむこともあるのだ。

もちろん、未来がすべてバラ色なわけではない。現状を否定し、ソーシャルディスタンシング(社会距離戦略)を無視し、自己隔離をせず、必要な時に検査を受けず、責任を持って行動しない人々がいる。しかし、おそらくコロナウイルスは、私たちがより優しく、より思いやりをもつよう悟らせる、私たちみなに必要な教訓となるだろう。そして、もしかしたら新たなシェイクスピアを私たちの中に見出すかもしれない。

Rym Tina Ghazalは受賞歴のあるジャーナリストです。2003年、彼女は中東の紛争地帯をカバーする最初のアラブ系女性の一人となりました。著作権:Syndication Bureau

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