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残念ながら、コロナウィルスの時代に、アラブ諸国には結束が欠けている

市民防衛組織の作業員がヨルダン川西岸のアイダ難民キャンプで消毒作業中、パレスチナ人女性がスカーフで顔を覆う。(AFP通信)
市民防衛組織の作業員がヨルダン川西岸のアイダ難民キャンプで消毒作業中、パレスチナ人女性がスカーフで顔を覆う。(AFP通信)
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07 Apr 2020 12:04:17 GMT9
07 Apr 2020 12:04:17 GMT9

コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界のほとんど全ての国に被害を与え続けている中、アラブ諸国は、非常に貧しく被害を受けやすい国民たちが、この命を奪いかねないウィルスと、それが引き起こす経済的低迷を生き延びるための共有の戦略を、依然策定することができていない。さらに悪いことに、国際的な結束が高まる中、もっとも激しく感染症による被害を受けている国や地域に物質的な援助を行うための汎アラブ的な取り組みはまだ見られない。

共同して対応できていないことは、アラブ諸国に特有のものではない。財政的に都合が良い時や、時には自分たちの同胞を見放す時に、「結束」を示すようなヨーロッパ自身の組織的な失敗に酷似しているからだ。例えば、2015年にギリシャが国際的援助国に対して債務不履行に陥った時、ドイツなどのEU諸国は、ギリシャの主要金融機関を解体し、ギリシャ政府の増大する窮状を食い物にする好機に飛びついた。貪欲と妨げのない利益のために、ヨーロッパの結束、友愛、共通世に関する議論は低迷した。

日和見主義的なEUが本性を見せたのは、これが最初の機会ではなかった。実のところ、ヨーロッパをまとめているのは、共通の歴史や切っても切れない社会的な絆ではなく、むしろヨーロッパはまとまった方がより強い経済体になるという共有の信念だ。

同様の卑しむべきシナリオが最近繰り返された。イタリアはコロナウィルスの重荷に崩れ始めた時、すぐに、そして当然のことながら、ヨーロッパの同胞国に援助を求めたが無駄だった。イタリアは、かなりの債務があるにもかかわらず、ヨーロッパの経済圏で、そして世界経済においてでさえ、主役である。イタリアは世界で8番目の経済大国だ。しかし、今この国の経済は、稀有な急速な暴落を経験していて、特に南部の貧困地域では、文字通り人々は飢えている。

最初にイタリアを支援した国は、フランスではなく、驚くにはあたらないが、ドイツでもなく、中国で、それに続いてロシア、キューバなどだった。このようなヨーロッパ諸国の間の明白な結束の欠如は、すでにヨーロッパで一般的な、マッテオ・サルヴィーニ率いるイタリアの同盟などの極右運動組織が支持する民族中心的な考え方を、さらに強化してきた。彼は、長年ヨーロッパの統合への反対論を主張してきた。

コロナウィルスの政治的な影響を十分に評価するには、何年もとは言わないまでも、何か月もかかるだろう。だが、すでに明らかなことに、コロナウィルス後の世界での地政学的な地位を確保するために、国際的および地域的経済拠点は積極的に分散作戦を行っている。

アメリカははにかみながら政略的な国際的結束に加わろうとしているが、ドナルド・トランプ大統領の謙虚な戦略は遅きに失した。実際、現在新型コロナウィルス感染者の数が世界で最も多いアメリカへの支援として、中国やロシアから援助が注ぎ込まれていることが、時代を物語っている。

しかし、切実な疑問は、アラブ諸国はこういった全ての構図の中でどんな位置を占めているのか、ということだ。特にイタリアとスペインは、多くのアラブ諸国と歴史的、文化的な結びつきや、コロナウィルスの根絶後もずっと残るような広範囲の政治的利害を共有している。イタリアやスペインとの国際的な結束のレーダーに映りそこねたことは、戦略的な誤算になるだろう。

その一方、イスラエルは、以前20162019に、イタリアで大地震で300人近くの死者が出て、莫大なインフラ被害が出た後に活動した援助機関のイスラエイドを活動させている。イスラエルはこういった「人道的支援」を政治的また宣伝的な道具に使っている。イスラエルが行う活動は資金不足で長続きしない場合が多いが、その活動の反響は、イスラエルを戦争挑発国というよりも和平支援国として伝えようとする強力な公式メディア機関によって、大増幅される。

実のところ、一部のアラブ国政府は、戦争や自然災害で荒廃した国に大いに求められている資金や支援を実際に提供している。だが、こういった努力は組織的でなく、自己中心的なものである場合が多く、率直に言って、必ずしも真の結束を動機にしたものではない。とは言え、国際的な人道支援における結束の面でのアラブ諸国の主導権の欠如は、アラブ世界自体の中で結束が欠如していることに比べれば、小さなものに見えてしまう。

空虚な美辞麗句や役に立たない報道発表以外に、アラブ諸国共同の大きな取り組みはいまだに見られない

ラムジー・バロウド

国連によると、「その地域には、公式な基準による貧困な生活をする人がすでに1140万人、栄養不良の人が約5200万人」いる。国連の西アジア経済社会委員会が先週発行した新たな政策概要は、コロナウィルスの結果、アラブ世界全体で、さらに830万人が貧困で栄養不良の集団に加わることになる、と見積もっている。中身のない美辞麗句や役に立たない報道発表以外には、例えばアラブ連盟が提唱して、世界中の他の多くの国や地域で発動されている多くの経済刺激策のアラブ版を行うといった、アラブ諸国共同の大きな取り組みはまだ行われていない。

3月に、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は世界規模の停戦要請を行い、世界に、それも特に交戦中の中東諸国に、全ての紛争を中止して、全ての努力をコロナウィルスとの戦いただ一つに結束させるように訴えた。残念ながら、その呼びかけはこれまでのところ聞き入れられていない。リビアの戦争は収まるどころかエスカレートし、ヨルダン川西岸占領地でのパレスチナ人の殺害は弱まることなく続いているし、シリアやトルコなどの中東諸国からの難民の波の勢いはいまだに衰えていない。

危機の時代、それも特に人種、宗教や地理にかかわらず我々全てを対象にするような危機の時代は、しばしば警鐘となり、私たちが共同の痛みの廃墟から、よりよい世界を築くための、新たな始まり、新たな社会契約の機会を与えてくれる。新型コロナウィルス感染症を、その機会にしようではないか。全ての国が、それも特に中東諸国が、戦争や飢えそして病気と戦い、アフリカや世界中の私たちの歴史的な同盟国に結束の手を差し伸べることができる機会に。

ラムジー・バロウドは、ジャーナリスト、作家、そしてパレスチナ・クロニクル紙の編集者。最新の著作は「最後の地球:あるパレスチナの物語」(ロンドン、Pluto Press)。エクセター大学で学び、パレスチナ学の博士号を取得。ツイッター: @RamzyBaroud 

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