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COVID-19に派生する外国人嫌悪ウイルスを克服する

スコットランドのエジンバラ城を訪れるマスク姿の観光客。(ゲッティ・イメージズ)
スコットランドのエジンバラ城を訪れるマスク姿の観光客。(ゲッティ・イメージズ)
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30 May 2020 08:05:06 GMT9
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ランヴィール・ナヤール

スペインのペドロ・サンチェス首相は、日曜、世界中を旅する人々が太陽あふれるスペインでバケーションを過ごせるよう、7月に外国人観光客受け入れを再開すると発表した。やや驚きを持ったこの発表だが、つい1週間前に中国人観光客も早期に受け入れるとしたトルコの発表に続くものだ。過去2週間、セーシェル、タイ、ギリシャなどの数カ国が、外国人観光客を受け入れる準備ができていると発表している。

実質的にすべての主要国が外国人観光客に対して国を閉ざし、コロナウイルスのパンデミック対策として厳しいロックダウンを課したため、国際的な旅行・観光業は崩壊寸前だ。エキゾチックな熱帯の島々だけでなく、多くの国にとって観光は経済活動に不可欠であり、国内総生産の大きな割合を占め、多くの、そして様々な雇用を生み出している。

このため、我先にと封鎖を解こうとしているように見える。

経済的に見れば国としての切迫感は明らかだろう。パンデミックにより数億の雇用が犠牲になっており、なかでも観光業界の比重は大きい。このような状況で、政治家たちは、経済の復活と雇用回復に対する積極的な姿勢をみせることで、有権者に対して点数稼ぎが出来ると考えている。

しかし、多くの新しい規範、規則、規制がありつつも、旅行や観光業界を再開する必要があるのは、なにも経済だけが理由ではない。この重要な活動の速やかな再開が求められているのには、差し迫った社会的・人道的な理由がある。世界中どこででも観光が一般的な娯楽として楽しまれているためというだけではない。

コロナウイルスが世界中を駆け巡り始めた時、病気、死、困窮だけではなく、外国人嫌悪が急速に膨らんできた。国、地域、社会、コミュニティ、さらには村々は閉ざされ、「他人」や「よそ者」を好ましくないと感じるだけでなく、積極的に排除しようとした。そして、人々は自分の殻の中に閉じこもり、他人を閉め出すようになり、自分と異なる人々へのヘイト攻撃事件が多数発生した。当初は、主に中国人や中国系の人々がターゲットにされていたが、程なく「自分と同類ではない」と見なした人やコミュニティに対してのものへと広がった。

驚くべきことでもないが、多くの過激な右翼政党や団体が、この悲劇的な状況を積極的に利用し政治資本を作ろうとした。市民の不合理で根拠のない恐怖を利用したのだ。米国およびイギリス、ドイツ、フランス、ギリシャ、イタリア、スペインなど多くのヨーロッパ諸国では、このような団体によって、反移民、白人至上主義、超国家主義、共同体的外国人嫌悪を推進しようとする動きが急増している。

しかし、事は欧米だけにとどまるものではない。アジアでも、感染拡大の原因だとして、少数民に対して言葉だけにとどまらず、身体的にも暴力をはたらく事件が発生している。例えば、インドでは過激な右翼団体や与党バラーティヤ・ジャナタ党に近い著名な報道機関などが、イスラム教徒に対して、コロナウイルスをインド国内に拡散したとしてヘイトスピーチを行い非難している。与党の党員でさえ頻繁に反ムスリム感情を煽るようになっている。

このような背景から、世界中からの外国人観光客を再び歓迎しようとする国の施策は支持される必要がある。観光が外国人嫌悪つまり「他」への恐怖心に対する特効薬になる。旅行は、単に風景や自然の驚異を愛でるだけのものでもないし、楽しい時を過ごすだけのものでもないのだ。

数カ国による外国人観光客受け入れ再開の動きを歓迎するだけではなく、他の国々もできる限り早い時期に同様な動きを取るべきである。

ランヴィール・S・ナヤール

飛行機、電車、船、車などに乗り込んだその時から心を解き放つ時間が始まる。異文化の習慣や伝統に親しむことで、人や社会のギャップを埋めることが出来る。

過去40年間に経験してきた世界の融和は、産業やビジネスの世界でのグローバリゼーションによるだけではなく、料理、音楽、文学、映画を通じた多様な文化や伝統の交流によるところもある。これらのすべてのことにおいて、観光は、牽引してきたとは言わないまでも、重要な役割を担ってきた。

世界の融和を取り戻すために、過去6か月間で出来てしまった人々や文化の間のギャップを埋める時がきた。数カ国による外国人観光客受け入れ再開の動きを歓迎するだけではなく、他の国々もできる限り早い時期に同様な動きを取るべきである。もちろん、コロナウイルスが再燃しないよう、これまでの習慣を変え、適切な予防措置と保護措置を講じる必要はある。しかし、「他」への恐怖と憎悪というウイルスの駆除は、同様に重要なことだ。長期的に見ると、このウイルスのほうがより危険であり、抜本的に征服する必要がある。

ランヴィール・S・ナヤールはヨーロッパとインドに拠点を置くグローバル企業Media India Groupの編集者で、出版、コミュニケーション、コンサルティングサービスに従事する。

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