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フーシ派は新型コロナ感染者数隠蔽の確信犯

新型コロナウイルスに関する記者会見の場で発言するフーシ派政権保健相のターハー・アル=ムタワキル氏。イエメン、サヌア、2020年5月5日。(ロイター通信)
新型コロナウイルスに関する記者会見の場で発言するフーシ派政権保健相のターハー・アル=ムタワキル氏。イエメン、サヌア、2020年5月5日。(ロイター通信)
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04 Jun 2020 08:06:39 GMT9

先週、イランが支援する反政府組織フーシ派が続けざまに声明を出した。それによると、イエメン国内のフーシ派支配地域において新型コロナウイルス感染症に罹患した患者がいないとされたのは、ウイルス禍の発生当初よりフーシ派が、どうやら民衆を鎮めパニックを防ぐ目的で意図的に取ってきた政策だということだ。フーシ派の秘密主義はその指導部一流の思考形式を映したものだ。彼らのこうした姿勢は、われこそ力と統制の象徴、というイメージを保持するために真実を韜晦することで助長されてきたものだ。

イエメン国内の新型コロナ感染症に関わる公的な数字は、イエメンを拘束しているウイルス禍の規模の大きさを反映したものではない。先週のフーシ派による記者会見の結果、フーシ派支配地域における数字は同派指導部から直接下された指示によって隠蔽されてきたことが明らかとなった。が、感染者数を隠したがために、かえってフーシ派としては避けたかった結果を招来することとなっている。すなわち、フーシ派支配地域に住む住民らは、自分たちを取り巻く災禍が何であるのかさっぱりわからないまま、パニックやヒステリーを広範に惹起するにいたっているのだ。透明性が欠如しているものだから、最悪のストーリーを想定する者をわざわざ増やした形だ。感染症を抑える目的でフーシ派は患者を安楽死させている、といった話までささやかれているほどだ。

フーシ派は同派支配地域内で最初の患者が出たことを発表するにあたり、国際社会が承認するイエメン政府(アブド・ラッボ・マンスール・ハーディー政権)が先んじて第一患者を発表するまで確信犯的に公表を遅らせた。これは、イエメンに新型コロナをもたらした責任はハーディー政権とその支援者にのみある、とするフーシ派のストーリーを維持するためだ。同派はまた、感染は「ホテル」にいたソマリア人に生じたものだ、ともしている。これもまた、同派支配地域内の住民はだれも感染していないとする同派の主張に沿ったストーリーだ。フーシ派は第二の感染者はアデンから来た者だと公言、自派の支配圏内での感染者の存在を依然として否定している。

ところが、内外からその透明性の欠如を批判されるにおよび、さすがのフーシ派もみずからの取り組みを正当化する声明をあたふたと用意した。つまり、正確な統計値を示さなかったのは隠蔽ではなく意図的な政策だったのだ、としたのだ。フーシ派の言うところは要するに、数字を明かせば、その情報がかえって人々の士気に影響し、なぜか感染率が上がってしまうのだ、というものだが、そんなバカな話など聞いたことがない。新型コロナ感染症についてわれわれのもつ知識は、米疾病対策センターの説明によれば、このウイルスは感染した人のせきやくしゃみにより人から人へ飛沫感染する、というものだ。また、ウイルス自体も感染者の触れたものの表面上でしばらく感染力を保つ、ということでもある。ウイルスにさらされてもいないのに感染する者などいるわけがない。フーシ派の保健担当者が一貫して説明していないのはこの点だ。

5月30日、フーシ派で公衆衛生を担当する閣僚のターハー・アル=ムタワキル氏の力説した中身は、先に報道官が繰り返した内容の同工異曲だった。会見の場で同氏はフーシ派が感染者数の公表を意図的におこなわなかったことを認め、大局的な視野に立ち非公表を是とした政策だったとも認めた。

ムタワキル氏によると、フーシ派のこの政策は偉大な成果を生んだ。首都および同派支配地域の感染者が実に80%以上の治癒率を示したというのだ。とはいえ、一体何人の感染者がいるのか正確な数字は明かされないままだ。

なぜかくもフーシ派が正確な感染者数を隠したがるのか、理由についてはごまんとある。中でも大きな理由とみられるのは、みずからが絶対的な統制・規律をになっているとする印象を維持したいという思いだ。また、フーシ派が隠す数字の実態は、フーシ派の支配のおよんでいない地域で報告されている感染者数をはるかに上回っている可能性もある。これが事実ならフーシ派の沽券にかかわるし、フーシ派に立ち向かう人たちにしてみれば憤懣やるかたなしともなるはずだ。

フーシ派は、みずからの感染者数隠しを正当化するにあたって、あっと驚くような手法に思い及んだ。すなわち、感染者数を開示している国々が死者数を公表しているのは「メディアのテロ」にほかならぬ、とやったのだ。その理由は、フーシ派の考えでは、メディアのテロにより人々の心の奥底に恐怖が拡散するからだそうだ。フーシ派はメディアを名指しで批判してもいる。世界中で多数の人々が亡くなっているのはメディアのせいであり、なんとなれば、メディアがパニックを「作り上げ」、それが患者の心の健康には逆効果をおよぼすとともに感染症自体に忌避すべきものという「烙印」を押したから、ということらしい。烙印といえばイエメンでは、すでに新型コロナ感染症に対してはっきりと刻印されている。これはフーシ派の秘密主義のおかげなのだが、はたして彼らは吐いたつばを呑めるのか。

もうひとつ憂慮されるのは、フーシ派指導部が熱心にその支配下住民に伝播させているエセ科学やら根拠のはっきりしない与太話のことだ。5月30日の会見でムタワキル氏は、新型コロナウイルスのプラセボ効果の話をした。ある男性は、自分が感染したと思い込んで心身に変調を来したが、テスト結果が陰性とわかるとすぐに平静を取り戻したのだという。フーシ派の支配下にいる何百万もの人々には残念な話だが、フーシ派が公にしているこうした話は深刻な危険をいたずらに軽んじる結果と結びつく。こんなことでは地域社会は脇に置かれ、感染症の適切な管理に当たるべきフーシ派も対応に本腰を入れなくてよくなり、何もよいことがない。

とはいえ、なかなか一筋縄で行くような文化でもなく、先行きが思いやられる。たとえば、イッブ市に住むディヤー・アッ=ディーン・アル=キブスィー師なる説教師はこんな話をするそうだ。いわく、新型コロナなどというものは実在しない。感染拡大などというが、「ムスリムをモスク礼拝から退かせ」「一族の紐帯を断つ」ことを目的とした「国際謀略」にすぎぬ、のだそうだ。ネット動画に登場した別のフーシ派活動家などは、家の中に「家畜」のようにとどまって座してウイルスに斃れるよりは、戦場に出て名誉の戦死を遂げてはどうか、とイエメンの若者たちに問いかけている始末なのだ。

要するにフーシ派が言いたいのはこうだ。感染者数を明らかにすればなぜか感染率が上がる、のだそうだ。

ファーティマ・アブー・アラスラール

フーシ派には現に統治している人民に対する責務がある。人々に何も知らせないままでは、そんな責務など果たせるわけもない。最終的には、フーシ派指導部の力だけでウイルス拡散を封じ込められるはずもなく、そこには必ず、人々が断乎としてこの脅威に立ち向かい認識を新たにする姿勢が必要だ。いかばかりの問題かを人々が理解したときには、たとえばモスクや市場に押し寄せるようなことはしない、といったように、社会的・文化的に自分たちで容認できるギリギリの線を自分たちで決めていけるはずだ。情報を社会に開示しなくてどうしてイエメンの人たちのためになろうか。フーシ派はおのれがイエメン人のためになっている、と世界に思わせたいであろうが、正反対だ。情報を隠せば隠すほど、人々を無知蒙昧なままにしておくことで生き残るフーシ派指導部のためにしかならない。

ファーティマ・アブー・アラスラール氏は、中東研究所客員研究員。ツイッターアカウントは、@YemeniFatima

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