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パレスチナ人とアフリカ系アメリカ人、正義のための抗議で団結

ヨルダン川西岸のヘブロン市でイヤド・ハラクさんとジョージ・フロイドさんの殺害に抗議するパレスチナ人たち。(AFP通信)
ヨルダン川西岸のヘブロン市でイヤド・ハラクさんとジョージ・フロイドさんの殺害に抗議するパレスチナ人たち。(AFP通信)
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09 Jun 2020 11:06:21 GMT9
09 Jun 2020 11:06:21 GMT9

5月30日、8歳児相当の精神年齢の32歳男性がイスラエル軍に殺害された。男性はエルサレム旧市街の特別養護学校付近で介護士の背後にうずくまっていたところを何度も撃たれた。イヤド・ハラクさんが冷酷に殺害されたこの事件は、5日後に46歳のジョージ・フロイドさんが警察に殺害された悲しい事件がなければ、それほど注目されなかったかもしれない。

2つの犯罪が一緒に注目されたのは、彼らの不快な性質と加害者のモラルの退廃だけでなく、無数のアメリカの警察官がイスラエルでハラクさんを殺した治安警察から訓練を受けていたからだ。効率的かつ冷淡に一般市民を殺害する行為は、今成長著しい市場だ。

パレスチナでは数千人が通りに殺到した。中にはエルサレムのイスラエル系ユダヤ人活動家数百人も含まれ、「イヤドのための正義、ジョージのための正義」と叫んだ。あまりにも露骨な不正に対する自然な心からの反応だった。

ゴミを捨てに行く途中、キング・ファイサル通りを歩いていて「テロリストの容疑者」とされ殺害されたハラクさんの話は独特なものに思えるかもしれない。ハラクさんは兵士を恐れ、血を怖がっていた。イスラエルのメディア『ハアレツ』によると「ハラクさんは職業訓練プログラムに参加していた特別支援センターへの道沿いに立つ武装警官のことも怖がっていた」という。ハラクさんの多くの恐怖は最終的に現実のものとなった。パレスチナの自閉症を持つ人さえ、イスラエル兵の前では誰も安全ではない。

ハラクさんの姉妹はイスラエルの左派系メディア『+972マガジン』のインタビューで「彼は母親にとって大切な人であり、人生のすべてでした」と述べた。「母は赤ちゃんのように彼の手を引いて市場やモスク、衣料品店に連れて行っていました。彼は母の影のようにくっついていました。母は、他の子たちから嫌がらせを受けたり傷つけられたりしないか心配していました」

殺人者のおぞましい性質と被害者の精神状態に意表を突かれ、イスラエルのスピンドクターらはすぐにダメージを抑えようと動き、当初、撃たれた際にハラクさんがおもちゃの銃を持っていたという嘘を広めたが、のちに撤回し、捜査を約束した。しかし、何を捜査するというのか?

近年、イスラエル軍は行動規範を変更し、イスラエル占領軍の兵士に危害を加えようとしている疑いのあるパレスチナ人に関しては、攻撃者とされる者がもはや脅威を及ぼさなかったとしても、射殺することを許可する政策を採用した。有刺鉄線と1マイルほどの空き地によって抗議者とイスラエルのスナイパーが遠く隔てられているガザ地区の事例では、昨年6月、イスラエル軍が大規模抗議の「主要な先導者ら」を休憩中であっても射殺するよう命じた。ガザの『帰還の大行進』の最中に数百人が殺害され、『主要な先導者』の中には医師、ジャーナリスト、子どももいた。

実際、パレスチナ市民の殺害は定期的に起きている。それは、パレスチナ人が長年にわたり共に暮らすことを強いられた壊滅的な日常であり、そのためにイスラエルが責任を追求されることは決してなかった。  

ハラクさんが殺害される前日、ラマラ西部のナビ・サレ村付近で、37歳のファディ・サマラ・カードさんが車を運転中にイスラエルの占領軍に殺害された。イスラエル軍はただちに、カードさんが「兵士のグループに車で突っ込もうとした」ため、その場で射殺したと主張。これは、パレスチナ人のドライバーがイスラエル兵士に射殺されたときに彼らがよく用いる言い訳だ。それ以外の場合は、パレスチナ人の犠牲者が男性でも女性でも、子どもであっても「鋭利な物」を所持していたと主張する。

一部の人は、ハラクさんの精神障害によって典型的な「テロリスト」には見えなかったはずだと見ているが、イスラエル軍はいまだに強制的な家宅捜索を行い、邪悪なプロパガンダに有効なハラクさんが関与している「証拠」を見つけようとしている。

イード祝祭日を祝うため、近隣の町に住む妻に会う途中に殺害されたパレスチナ人の労働者カードさんの事件では、イスラエル軍は十分な説明をしており、質問はしないようにと声明を出した。これは何年も前からパレスチナに蔓延する抑圧的な理屈と同じだ。子どもたちは家や村に侵入してきた武装した男たちに石を投げられて殺害された。体の一部を切断した車椅子の人たちは、抗議中や自由を訴えている最中にスナイパーに射殺されている。

ハラクさんの多くの恐怖は最終的に現実のものとなった。パレスチナの自閉症の人さえ、イスラエル兵の前では誰も安全ではない。

ラムジ・バラウド

こうしたことはすべて、期待できるような政治的進展が何もない中で起きている。長引き、最終的には役に立たない「和平プロセス」さえ、大国アメリカの支援を受けたイスラエルと、テルアビブ政権のユダヤ人入植地不法拡大によって中断している。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、土地の強奪など植民地政策の成果を確実にするため、さらに多くのパレスチナ人の土地を併合することでイスラエルの国境を拡大する準備を進めている。

仲間のアフリカ系アメリカ人の共通の闘いに触発されたパレスチナ人たちは今、正義を求める声を上げ続けている。「パレスチナ人の命は大切」(Palestinian Lives Matter)だと。そして今度ばかりは、世界が自分たちの叫びを聞き、同調し、何か行動してくれるかもしれないと願い続けている。

  • ラムジ・バラウドはジャーナリスト、作家、『The Palestine Chronicle』の編集者。最新の著書は『The Last Earth: A Palestinian Story』(ロンドンPluto Press社)。バラウドはエクセター大学パレスチナ学で博士号を取得している。ツイッターアカウント:@RamzyBaroud
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