逃げることもできるし、隠れることもできるだろう。だが、永久に裁きを逃れることはできない。これこそ、IS（イスラミックステート）の創設者にして指導者のアブ・バクル・アル・バグダディの殺害が、あいつの犯罪は罰せられずに済む、と暫時考えたかもしれない世界各地のテロリストに送り届けるべきメッセージだ。

アル・バグダディの邪悪でラジカルなイデオロギーに賛同するもの者でなければ、誰にとっても彼の殺害はおそらく今年世界で最も歓迎され、祝われるニュースになるだろう。もしも、イスラム世界は例外なのでは、と訝しむ人がいるなら、それに対する回答は「絶対に違う」だ。真実は、ISはイスラム教とは何の関係もなく、完全に別物だ。ISとイスラム教とはまったく正反対の信仰だ。アル・バグダディとその信奉者の残忍な悪漢たちがイスラム教の名を引き合いに出したことはあったが、虚偽に基づくものだった。奴らはそうすることで、イスラム教と平和的なイスラム教徒の評判を傷つけた。この数年間においては、私たちの信仰を最も傷つけたのは奴らだ。

「テロと戦う最良の方法は、軍事的なのものを別にすれば、イデオロギーの前線で戦うことだ。オンラインと地上の両方での過激主義イデオロギーとの闘いに専念するセンターを通じた、サウジアラビアやUAEなどの諸国家の取り組みが最重要なのはそのためだ」

檻の中に閉じ込められ焼き殺されたヨルダン人パイロットのムアズ・アル・カサースベ。人道支援活動家の恐るべき処刑。多くの犠牲者のなかの1人であるノーベル平和賞受賞者ナディア・ムラドが痛々しい文章で記録し、その語り口には心を締め付けられざるを得ない、ヤジディ教徒女性の奴隷化。私たちのクリスチャンの兄弟姉妹に自分の町や村、そして国からの避難を強いることになった、故郷からの暴力的な追い立て。ISとその邪悪な指導者によって苦難を被ったこれらすべての人が今、奴の死によって安堵を感じているのかもしれない。

そう、アル・バグダディがいなくなって世界はより良くなった。だが、今こそ私たちは立ち止まって、過激主義イデオロギーとの戦いが終焉とはほど遠い事実を思い出さなければならない。オサマ・ビン・ラディンを殺害しても、すぐにこのアル・バクダディが取って代わっただけだった。だから、思い違いをしてはならない。満足しきってはならない。ガードを下ろしてはならない。テロとの闘いに完全に勝利できるのは、あのような極悪人が繁栄する状況を生み出し得るやっかいな沼地を干上がらせてしまった時だけだ。

テロと戦う最良の方法は、軍事的なのものを別にすれば、イデオロギーの前線で戦うことだ。オンラインと地上の両方での過激主義イデオロギーとの闘いに専念するセンターを通じた、サウジアラビアやUAEなどの諸国家の取り組みが最重要なのはそのためだ。サウジアラビアによるイスラム軍事同盟の結成は重要なステップだったし、過激主義イデオロギーと闘うグローバルセンター（Etidal）のような機関をリヤドに設立したことも同様に重要だ。いずれも対テロ戦の闘士に大きな前進をもたらしている。

だが、ISの思考法への最高の解毒剤は、また、過激主義イデオロギーへの最強かつ最も効果的な反撃となるのは、サウジアラビアで実行中の社会改革プログラムだ。このプログラムは、私たちが生命に信頼を寄せ、共存に信頼を寄せ、寛容に信頼を寄せている事実を示している。それこそまさにサウジアラビアが国境を開いて、そのほとんどが非イスラム国の49カ国の住民に、従来型ビザを取得する骨の折れるプロセスなしに入国できるようにしている理由だ。女性が自動車を運転できるという事実。女性が男性と一緒に仕事をしているという事実。女性に男性の後見を義務付ける時代遅れの厳格な措置をもはや課していないという事実。このような改革は、テロ唱道者が広めようと試みる邪悪なイデオロギーへの最良の回答だ。

なかんずく、これらの改革がイスラム教の中心である二聖モスクの地で実施されていることは重要だ。サウジアラビアがくしゃみをするとイスラム世界全体が風邪をひく。同様に、これらの啓蒙的な改革のすべてがサウジアラビアで効果を生み出すようになったら、より広範なイスラム世界でも中庸が実践されていくに違いない。過激主義の沼地を干上がらせてしまう方法はこれだ。

他方で、テロリストには圧力をかけ続けなければならない。奴らがどこにいても、どの岩の下に隠れていようともだ。とはいえ、今しばらくは、全世界、とりわけイスラム世界は悲惨なカリフによる統治の終焉を祝うべきだと思う。

• ファイサル・J・アッバスはArab Newsの編集長。Twitter：@FaisalJAbbas