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トルコはシリアで身動きが取れなくなるリスクにさらされている

2019年10月28日、シリア北東部のラス・アルアインの東にある村を急襲中に歩くトルコの兵隊たちとトルコが支援するシリア人兵士。(AFP)
2019年10月28日、シリア北東部のラス・アルアインの東にある村を急襲中に歩くトルコの兵隊たちとトルコが支援するシリア人兵士。(AFP)
04 Nov 2019 04:11:11 GMT9

クルド人が起こす可能性のある嫌がらせから南部の国境を守るためにトルコが開始した軍事作戦「ピーススプリング(平和の春)」は、いくつかの小競り合いはあったものの、大きな衝突が起こることなく3週目を終えた。

トルコはシリアとの国境に沿って長さ440キロ・幅30キロの安全地帯を設け、トルコ軍が独占的に管理するという当初の非現実的な要求にこだわらないことで、適切な行動を取った。現在はもっと短くて狭い、長さ120キロ・幅10キロの回廊地帯とすることに同意している。さらに、この帯状地帯のパトロールはトルコの兵隊だけで行われることなく、ロシアの部隊と共同で実施される。

米国のドナルド・トランプ大統領は、アメリカは「石油を確保した」と述べた。そしてクルド人民防衛隊(YPG)の兵士たちをより南方のシリア領土へと引き下がらせることで、一石三鳥を得たかもしれない。1つは、レジェップ・タイイップ・エルドアンに対する約束を果たし、トルコがシリア北東部に安全地帯を設けるのを許可することだ。

2つ目は、トルコ軍とYPGの兵士たちの間の軍事衝突を防ぎ、両陣営に犠牲者が出るのを避けることである。3つ目は、油田を確保することだ。もし米国が石油による収益をクルド人に配分することにこだわれば、トルコはそうならないように闘う必要が出てくる。そうすればトルコは、2つの悪い選択肢のまだましな方として、アンカラ最大の敵バッシャール・アル=アサドを頼ることになるだろう。

結局のところトルコはクルド人兵士たちを、米国とロシアによる共同の保護とオイルマネーによってもっと勢力を伸ばすことのできるエリアへと追いやったのかもしれない。

シリア政府と主軸がYPGのクルド人兵士から成るシリア民主軍(SDF)との間の交渉の結果が出るまで、米国が武器や装備、弾薬の供給を停止したかどうかは、はっきりしない。もしシリア政府とSDFの交渉の結果がワシントンの満足するものになれば、クルド人への武器や弾薬の供給はこれまで通り続けられる可能性が高い。

しかし、もしダマスカスとSDFが米国の好まない和解に至った場合、ワシントンが何をするか予測するのは難しい。クルド人は、憲法の実現過程で米国がシリア政府に対して使うことを計画していた最強のレバレッジ(交渉を有利に進める材料)だったが、このレバレッジは失われてしまったかもしれない。

トルコによる軍事作戦の意図していなかった結果として、シリア政府はその統制範囲をトルコ国境近くの地域まで広げることができた。このより強くなった立場とクルド人に対する米国の裏切りを土台にして、ダマスカスはYPGの兵士たちをシリア軍へ、そしてクルド人国内治安組織「アサイシュ」のメンバーを現地の警察隊に組み入れることを提案した。

おそらく継続的な米国の支援を当てにしているSDFは、この提案を拒絶した。彼らはすでに享受している事実上の州自治権の主要部分の維持を望んでいる。その地方自治による分散型モデルは、米国とロシアの両国から支持されている。

トルコは地方自治権の移譲を含むいかなる形態によっても、クルド人のアイデンティティを促進することに反対している。もう一度言うが、アンカラの利益は、シリアの単一性維持を好むダマスカスの利益に収斂する。しかしトルコは、全面的な協力に対して熱意を示すのを避けている。

クルド人の忠誠心は、ワシントンとモスクワの間をしばらくさまよう可能性がある。シリアにおけるロシアの強い存在感と、イスラエルの安全のためこの地域に友好的なクルド人の国を持つ米国のニーズの間の、どこかに落ち着くかもしれない。あるいは、クルド人は秋波を送るそれら2つの国のどちらかを選択する難しい仕事を抱えることになるかもしれない。しかしそれには、少なくとも両国のうちどちらかを敵に回すリスクが内在している。

クルド人は、憲法の実現過程で米国がシリア政府に対して使うことを計画していた最強のレバレッジ(交渉を有利に進める材料)だったが、このレバレッジは失われてしまったかもしれない。

ヤサル・ヤキス

最終的にはワシントンとモスクワが、クルド人の目的に対して両国で支援を提供する暫定協定を結ぶ可能性もある。トルコのジャーナリスト、フェヒム・タステキンが最近書いたように、ワシントンとモスクワは彼らが協力できるかどうかテストするためにシリアを選んだのだ。

これはトルコが直面する可能性のある最悪のシナリオの1つとなるかもしれない。そのようなリスクの最初の兆候は、米国がその兵隊をマンビジとコバネから引き上げた際に、長年にわたるアンカラからの強い要求にも関わらず、それら2つの町の統制権をトルコではなくロシアに渡したことだ。

この難しい問題において考慮に入れられていない他のプレイヤーが1つ存在する。イランである。この地帯について持つイランのより正確な知識は、ロシアの強い軍事的存在感やシリア政府が自らの領土に対して持つ正統な主権者の権利と相まって、長期的にはワシントンのシリアに対する断片的な政策に勝る可能性がある。

この複雑なシナリオを考慮すれば、トルコは包括的かつ現実的なシリア政策を立てる必要がある。もしそれができなければ、トルコはシリアの難しい局面において、さらに身動きが取れなくなっている自分の姿に気づくことになるかもしれない。

ヤサル・ヤキスはトルコの元外務大臣で、与党・公正発展党の創設メンバーである。Twitter: @yakis_yasar

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