Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

アラムコの株式公開によりサウジアラビアのIPO市場が活性化し、連鎖反応が起きる

2019年11月13日、サウジアラビアの首都リヤドで開催中のイノベーションとテクノロジーをテーマにした「ミスクグローバルフォーラム」で、アラムコの展示ブースを見学する参加者。(AFP)
2019年11月13日、サウジアラビアの首都リヤドで開催中のイノベーションとテクノロジーをテーマにした「ミスクグローバルフォーラム」で、アラムコの展示ブースを見学する参加者。(AFP)
15 Nov 2019 11:11:21 GMT9

国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)が2019年11月に行われる。このIPOは規模の大きさで注目を集めているが、それだけではない。サウジアラビアで待望久しい民営化計画の幕を切って落とし、IPO市場の再活性化を強力に推進する意味で、絶好の機会となると目されている。

サウジアラビア証券取引所(タダウル)へのアラムコの上場が実現すれば、国内投資家にとっては市場活性化の有益なカンフル剤となる。同時に、さらに多くのサウジアラビア企業が上場に向けて動き出すための、最後の一押しとなる可能性もある。サウジアラビア政府は2022年までにタダウルに上場する企業を現在の193社から250社へと増やす目標を掲げているので、こうした動きも現実味を帯びてくる。

2019年の第2四半期は、タダウルでIPOを達成した企業が2社に留まった。2018年の同時期は4社を数えた。サウジアラビア株式市場の魅力をさらに高め、海外投資家から見て「投資し甲斐のある」市場とするには、さらに多くの産業部門から幅広い上場企業を集める必要がある。2019年の前半には、MSCIやFTSEラッセルがサウジアラビアの格付けを上げ新興国株式指数に含めた。今回の動きは、それでもまだサウジアラビアへの投資を開始していない海外投資家にアピールする狙いがある。

サウジアラビアでアラムコがIPOを行うことの意味を過小評価してはならない。かなりの波及効果が期待できる。アラムコのIPOともなれば海外投資家の目がサウジアラビアに集中するのは確実だが、そうした状況を見て、サウジアラビア国内の他の企業も上場への道を歩み始めるかもしれない。

アラムコのIPOがMENA諸国の資本市場に及ぼす影響は大きい。MENA諸国に限らず、世界的な新興国市場においても同様だ。この点にも注目しておきたい。

2019年10月中旬の時点で、MENA諸国はMSCI新興国株式指数で4.4%を占める。その中で見れば、近ごろ同指数に採用されたサウジアラビアが2.4%となる。2020年にはクウェートが採用されるので、MENA諸国の占める割合は5%まで上昇する(国内市場で1%、海外市場で4%)。アラムコのIPO評価額は最高で2兆ドルになると見積もられており、MSCI新興国株式指数に換算すれば最高で1.8%を占めることになる。つまり、同指数においてMENA諸国が占める割合が7%弱に達することになる。これは欧州新興国、またブラジル、南アフリカ、インドという新興国と肩を並べる数字だ。

サウジアラビアのIPO環境をさらに活性化させるためには国営企業の民営化計画が鍵となる。野心的な構想だが、サウジアラビア政府が掲げている目標のなかには、2020年までに保有企業の民営化により最高で400億リヤル(110億ドル)の収益を上げる計画が含まれている。対象となる企業の産業分野は、医療、水道、交通、教育、地方自治体、エネルギー、スポーツ、通信と多岐に渡る。こうした保有企業でIPOを実施することはさまざまに考えられる民営化の中の一形態にすぎないが、資本市場の改革そして経済全般にとって得るところが多い施策でもある。

株式市場に上場する国内企業が増えれば、企業統治の面でも透明性の確保の面でもサウジアラビアの企業環境が大きく改善する可能性がある。上場企業に対しては市場規制当局や投資家の監視の目が厳しくなるからだ。政府保有の資産を民営化することの利点としてもうひとつ挙げられるのが、IPOを行えば、国際的な視点や戦略に基づいて動く大手投資家を国内に引き込むことができるという点だ。こうした投資家はビジネスや経営に斬新な視点を持ち込み、それがイノベーションにもつながっていく。このほか、機関投資家と並んで一般市民も参加できるIPOは、富の再分配と共有を実現する上で重要な機会であることも覚えておきたい。

全体的な傾向としては、サウジアラビアの民営化計画が軌道に乗るにつれて海外資本の流入が加速化し、株式市場の流動性が向上し、また企業統治や透明性も高いレベルへと進化していくと筆者は見ている。

サウジアラビア国内でIPOを行うにあたり適用される法令や規則も改善されつつある。IPOの実施を検討している企業にとって足かせとなるさまざまな要素を取り除くために、驚異的な速度で現場が動き始めている。タダウルが海外投資家にとって利用しやすく魅力的な証券取引所となるように、資本市場庁(CMA)がここ数年に渡り行ってきた改革は大いに称賛されてしかるべきだ。これが実現したことで、サウジアラビアは世界の機関投資家が参加する流動性の高い株式市場の恩恵に与ることができた。近ごろ制定された法令により他の湾岸諸国の企業も国境をまたいでタダウルに上場することが可能となったが、これもまた規制当局が先進的な思考で株式市場の育成・開発を行っていることの証左といえる。こうした斬新で当を得た試みを続けていけば、時を経るごとに、サウジアラビアの株式市場に上場したいと考える企業が増えてくるだろう。しかし改革の歩みをここで止めてはならない。改善すべき課題はまだまだ残されている。

アラムコの上場成功は、サウジアラビアの株式市場が短期間でいかに大きく成長したかを示すひとつの指針になると筆者は見ている。今回のIPOは、サウジアラビアが「ビジョン2030」戦略に盛り込んでいる他の大型民営化案件を実現に導くために欠かせない、ひとつの触媒として機能すると言えるかもしれない。サウジアラビアの株式市場のさらなる発展という意味で今回のIPOは大変に良い前ぶれとなるし、世界の新興国市場で特に伸長著しいサウジアラビアへの評価がいっそう高まる契機となる。

  • サラー・シャンマはフランクリン・テンプルトン社の新興国株式市場部門、MENA諸国担当の投資部長を務める

国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)が2019年11月に行われる。このIPOは規模の大きさで注目を集めているが、それだけではない。サウジアラビアで待望久しい民営化計画の幕を切って落とし、IPO市場の再活性化を強力に推進する意味で、絶好の機会となると目されている。サラー・シャンマはこのように書く。

特に人気
オススメ

return to top