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シリアで協調相手を失ったイスラエル、危うい立場に

 シリアの町タル・アブヤドから上がる煙。トルコ側の国境地帯であるアクチャカレより撮影。(Getty Images)
シリアの町タル・アブヤドから上がる煙。トルコ側の国境地帯であるアクチャカレより撮影。(Getty Images)
16 Nov 2019 07:11:54 GMT9

イスラエルは過去8年に渡り、シリア情勢に深い関心を抱いてきた国の一つである。すぐ近くで行われている内戦に対し、イスラエル政府がこれまでに示してきた存在感は比較的小さいものだった。しかし直近の、特にシリア北東部の情勢の結果イスラエルが被った影響は、深刻なものだったのかもしれない。

先頃イスラエル軍がダマスカスとガザ地区に対して攻撃を行ったのは、シリア内戦によって生じたイスラエルの懸念が深く関係している。

11月12日、イスラエルが空爆を行い、抵抗組織「イスラム聖戦」のバハ・アブアタ司令官を妻であるアスマと共に殺害したことをきっかけに、ガザの状況はより緊迫したものとなった。イスラエルの戦闘機はシリアの首都であるダマスカスでも、同グループのメンバー、アクラム・アジューリーをターゲットに空爆を行い、アジューリーの息子を含めた2人が殺害され、10人が負傷した。

11月13日、トルコは封鎖されているガザ地区へのイスラエル軍の空爆を非難し、攻撃を中止することと、国策となっている占領政策を撤回することをイスラエルに要求した。

先週、トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外務大臣は、イスラエル率いる複数国によるグループがシリア北部にテロ国家を打ち立てようとしていると主張した。クルド労働者党(PKK)のシリア支部であるクルド人民防衛隊(YPG)を標的とするトルコの対テロ作戦「平和の泉」に対し、イスラエルは強く批判的な姿勢をとってきた。しかしより重要なのは、シリアから撤退したアメリカの決定に対し、様々な国や組織が野心を抱いて参加している戦争の真っ只中に取り残されたイスラエルが苛立っているということである。イスラエルはこのアメリカの撤退を、その地域秩序の崩壊の一因となり得る裏切りであると見なした。

伝えられるところによれば、多くのイスラエルの予備兵たちが同政府に対し、トルコと戦うクルド軍へ食料、衣服や薬だけでなく、軍事上、そして諜報活動における助力を与えるように請願したという。

イランとの国境に近いシリア北東部におけるトルコの影響力が拡大すれば、イスラエルにとっても重要な戦略地である同地での活動は制限され、かつてクルド人の勢力下にあったころのようには自由に動けなくなる。シリア内戦を通して、イスラエル空軍はシリア軍の護送団やレバノンのヒズボラを繰り返し攻撃してきた。作戦実行の地ならしをしてくれていた現地での協力を失えば、今後このような攻撃を行うのは難しくなるだろう。

国家の公的な声明として「シリアの未来はシリア人に委ねられている」と口先では語っているが、現実的にはシリアの現政体がそのまま権力を維持することがイスラエルにとって最も安全な選択肢なのである。イスラエルは、急進的なイスラム主義者あるいはイラン軍がゴラン高原に足場を築くこと、もしくはシリアを統治することを特に懸念していた。しかしシリアの現政権は、ロシア軍とイラン軍のサポートを得、同エリアとイスラエル北部との国境地帯を奪還し、その懸念を払拭した。

パレスチナの権利を堅く擁護するトルコがシリアで影響力を伸ばすことは、イスラエルにとって悩みのタネだ。

シネム・センギス

しかし、この展開にイスラエルが完全に安心したというわけではない。パレスチナの権利を堅く擁護するトルコがシリアでの影響力を伸ばすことは、イスラエルにとっては悩みのタネである。

もしトルコとの関係が過去10年でこれほど悪化しなければ、イスラエルはこんなに心配しないで済んだだろう。政治的リアリズムに則るのであれば、シリア内戦を前に、両国は関係を修復するための努力を行うべきである。しかし、物事を決定する要素となるのは、リアリズム一つとは限らない。

そこには他の要素も絡んでくる。トルコとイスラエルの関係について見てみよう。

20年前、トルコとイスラエルはシリアに対抗するために協力し、そのおかげで二国はダマスカスに発する脅威から救われたのだった。1990年代後半の両国の関係を決定づけた防衛と諜報における協力は、ある戦略的な条件によって成立したものだった。当時のトルコがイスラエルに接近したのは、シリアに対する防壁という地理的な必要によるものだった。これら1990年代の防衛上の結束は、トルコとイスラエルの内政的条件によって生じたのである。

この内政的条件が双方の中で変わった。過去10年にわたって互いの間に積もった不信感が、両国が歩み寄ることを阻む障壁となったことに加えて、かつてトルコとイスラエルを結びつけた地政学的な状況もまた大きく変わってしまったのだ。

トルコは北東部でクルド人勢力を一掃、難民のために同地域を制御下に置き、ロシアとイランはその勢力圏を拡大。アメリカとクルド人の連合は、その影響力を徐々に失った。そんな現状のシリアでは、将来生じ得る脅威に対抗するためのどんな協調相手も残されてない。つまりイスラエルは、この内戦においてとても危うい状況に陥ってしまったのである。

  • シネム・センギスはトルコと中東の関係を専門とするトルコ出身の政治アナリスト。 Twitter:@SinemCngz
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