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イスラエルと武装勢力は和平の可能性を全て消し去っている

19 Nov 2019 09:11:48 GMT9

これまで何回、イスラエルによる司法管轄外の暗殺でガザ地区をめぐる衝突が発生しただろうか。今回暗殺されたのは、パレスチナ・イスラミック・ジハード(PIJ)の指導者だったアブー・アル=アッタだ。またダマスカスでも、イスラミック・ジハードのナンバー2であるアクラム・アル=アジューリを標的とした攻撃が発生し、多くはこれもイスラエルの仕業だと考えている。イスラエルは国内外で敵の暗殺を続けており、司法手続きを踏んだり、司法による監督を行ったり、もしくは司法による説明責任を果たそうとする動きは一切ない。これでイスラエル人は少しでも安全に暮らすことができるようになっているのだろうか。ほぼ確実に、そうではない。

しかし近年状況が変わっている。イスラエル以外の世界の軍隊の多くも、アメリカ主導のもと、同様にしばしば無人機を用いて司法管轄外の攻撃を加えるようになっているのだ。アブー・バクル・アル=バグダーディー容疑者は直接的には自爆で死亡しているにせよ、オサマ・ビン・ラディン容疑者の殺害に関わった部隊と同じく、今回も米海兵隊には殺害命令が出されていたと考えるのが自然だろう。

これは機能しているのだろうか。その成果は極めて疑わしいものだ。ガザの武装勢力はこれまで、いとも簡単に指導者層を再生してきた。それはアルカイダやISも同じである。そのため、誰を生かしておき誰を殺害するのかを誰が決めるのかというのは極めて大きな問題なのだ。その結果どうなるかを慎重に検討せずに、権力者が殺害命令を下せてしまうのであれば、この歪なロジックをひっくり返せば、ハマスはイスラエルの指導者のほとんど、軍隊、及びガザ地区の人々全体に対する懲罰などパレスチナ人に対する戦争犯罪を犯した者全てを暗殺するよう命令を出すことだってできることになる。

暗殺は典型的には流血を引き起こすものであり、終わらせるものではない。今後数ヶ月以内に、ISが指導者が死亡に追い込まれたことへの報復として残虐行為に出ても、誰も驚かないだろう。ガザ地区の場合、これまでに行われた武装勢力の主要幹部の暗殺後には、毎回ロケット弾や迫撃砲による攻撃が発生し、それに「対抗措置」としてイスラエルから壊滅的な攻撃が行われているのだ。

不透明な情勢が続くこの地域でも、これだけは確実に言える。イスラエルがまたガザを空爆すればイスラム教過激派の武装勢力からはイスラエルに向かってロケット弾や迫撃砲が発射されるのだ。

5年間ガザ地区にイスラエルからの攻撃がなかったことは、少なくとも今世紀の基準では、驚くべきことだった。イスラエルは以前のやり方に戻ろうとしているのだろうか。ネタニヤフ首相が率いる政府は、イスラエルではふざけて「芝刈り」と呼ばれるガザ地区への攻撃を、毎回短期間にする代わりにより頻繁に行うという選択をしたのだ。これは広報面でもイスラエルに有利である。短期間の衝突で34人のパレスチナ人が死亡したことは、メディアではそのことが軽く伝えられるだけだ。それに対して、3週間の作戦でガザ地区を更地にする勢いで攻撃をしていた昔は、世界から非難が浴びせられていた。

イスラム教過激派の武装勢力は、イスラエルから壊滅的な猛攻撃を引き出すような挑発に出ることはなくなるかもしれない。ハマスは、先週戦闘員がイスラエルに何百ものロケット弾を打ち込んだPIJの動きから、何とか距離を置こうと苦心していた。

このことから、ハマスについて何が言えるだろうか。ハマスは、イスラエルとは協調しないことを示すことを1つの目的として、ベエルシェバに土曜日2発のロケット弾を打ち込んだだけだ。PIJがロケット弾や迫撃砲をイスラエルに打ち込めば、ハマスの指導者層には下位戦闘員や支持者から、同じくイスラム教過激派のライバルに負けないようハマスも同じく攻撃を加えるべきだとの圧力がかかることになる。

イスラエルでは政治が麻痺した状態が続いており、そのためガザ地区で衝突が発生する可能性が高まるだろうと予期していた人もいる。過去にそうなっていたからだ。現在、ベニー・ガンツ氏は水曜日までに連立政権を樹立しなければならない。もしそれに失敗した場合、新年にまた選挙が行われ、政権樹立が試みられることになる可能性がある。しかしイスラエルではガザ地区を攻撃すべきかどうかで意見が分かれているのではない。どれほど大規模に攻撃すべきかで意見が分かれているのだ。

ガザ地区のパレスチナ人は、このイスラエルの政治状況下で、これ以上壊滅的な攻撃にならなかったということで安堵しているだろう。ベンヤミン・ネタニヤフ首相はガザ地区を向こう見ずに攻撃していると見られないよう用心し、イスラエルの主要な指導者全員に確実に十分ブリーフィングや情報伝達を行なって意思決定への参加を促すことに余念がなかった。2日という短期間の攻撃でアル=アッタを殺害できたことは、ネタニヤフ首相の中では戦略的成功ということになっているのだろう。

では、ガザ問題の解決は1cmでも近づいただろうか。いや、近づいていない。良くても、いずれかの時点で封鎖が極めて部分的に短期間緩和される可能性がある、という小さな前進しかしていないのだ。

長期的見通しは極めて心配なものだ。イスラエルとガザ地区は非人道的な舌戦を繰り広げており、その酷さはエスカレートするばかりである。イスラエルのアヴィグドール・リーベルマン元国防大臣は在任中、「ガザ地区には無実な人などいない」と躊躇いなく発言した。この発言は、問題発言とすら見られなかったのだ。

パレスチナ人を人としてすら見ない動きは、イスラエル国外にも広がっている。アメリカでは、民主党の大統領候補の中でパレスチナ人の殺害に言及したのはエリザベス・ウォーレン候補だけで、そのほかの候補は揃ってイスラエルの行動に支持を表明した。ジョー・バイデン候補はTwitterで、「イスラエルには自国をテロの脅威から防衛する権利があります。イスラエル市民が常にロケット弾による攻撃に怯えながら日々暮らさなければならないなど、許容できません。そのため私が副大統領を務めた政権は、イスラエルの救世主的存在となるアイアンドーム防衛システムの導入を強く支持したのです」と語った。バーモント州選出のバーニー・サンダース上院議員は、パレスチナ人が殺害されていることには言及しなかったが、少なくともパレスチナ人には言及した。

また、パレスチナの武装勢力も消える気配がない。消えるどころか、能力は向上している。ロケット弾の届く範囲は広がっており、今回はテルアビブ地域に着弾した。兵器の備えが減っているという証拠もほとんどないようだ。武装勢力の攻撃可能範囲が広がるにつれてより多くのイスラエル人がその脅威にさらされている。学校、ショッピングセンター、及び高速道路も安全ではなくなっているのだ。これで一体何かを達成できるだろうか。何も達成できるはずがない。市民を無差別に標的にすることの非道特性と違法性が明白になるばかりだ。

しかしそれと比べて、4分の3が難民であるガザ地区の200万のパレスチナ人がまとめて罰せられている状態が終わることなく続いている現状はどうだろうか。こうした市民のほとんどは子供で、その大多数は封鎖された状況しか知らない。彼らは外の世界を知らないのだ。国連は長年、ガザ地区は2020年までに人が住むのに適さなくなると予測してきた。水質悪化で水は動物にすら与えるべきでないものになっている。ガザ地区の人々は、生命維持装置で生かされているようなものなのだ。

ガザ地区の人々がこうした状況に置かれ続けているのは、イスラエルとパレスチナの過激派武装勢力が、和平の可能性を全て消し去るという、たった1つの戦略的目標を達成できるようにするためだ。イスラエルでもパレスチナでも、和平を求める人々は孤立無援だ。ガザ地区がパレスチナのその他の部分と切り離され、そして世界からも切り離されている限り、そしてその状況が長期的な休戦によって維持されている限り、この紛争に終止符を打つ真摯な交渉は望めない。

クリス・ドイルはロンドンに拠点を置くCouncil for Arab-British Understandingのディレクターを務めている。Twitter: @Doylech

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