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問題山積の中国、米覇権に挑む余裕なし

デモ隊の1人が将軍オウ(オウはサンズイに奥)の警察署に投石している。(ロイター)
デモ隊の1人が将軍オウ(オウはサンズイに奥)の警察署に投石している。(ロイター)
23 Nov 2019 10:11:48 GMT9

ここ10年ほどの間、中国の台頭をうけて「アメリカに唯一対抗しうる超大国の出現か」との議論がかまびすしい。

そもそも1978年に鄧小平が改革開放路線を打ち出して以来、中国社会は劇的な変貌を遂げ、GNPを20倍にするほどの経済成長を遂げた。この間、中国国内の極貧人口は8000万人(かつての10分の1)に減少。近年に至ってもこの勢いは衰えず、中国のGDPは2007年に世界総生産の11%だったのが2015年には17%へと急増している。中国の台頭はまさに天翔ける彗星のごとく地政学を彩ったのであり、ひとむかし前の西側にとっては地政学的リスクの増大そのものであった。

 ここで注意すべきは、あれよあれよという間のこの急成長に幻惑されてか、かつての中国無視がいまや中国への過大評価へと過剰修正されてしまったことである。

香港で逃亡犯条例案が上程されかけたとき、これが通ると何らかの容疑者とされた香港市民は中国本土に引き渡されることになるというので反対運動が起き、それをきっかけに6月、学生らを中心とした対中抵抗運動が始まった。条例案は後に撤回されたものの、はなはだ刺激的な内容であったため広範な抵抗を呼び起こしてしまった。かねてより中国共産党が香港への影響を強めつつあったことに対し、香港市民の間では不満が鬱積していたのである。かくして抵抗運動側の要求は条例案撤回にとどまらずより包括的なものとなり、地方議会選挙の完全な自由選挙化、警察の暴行を調査する第三者委員会の設置などが盛り込まれた。そしてこの5か月の間に抵抗運動は習近平政権にとって、2012年の発足以来ともいえる剣呑なものとなったのである。言うなれば、台頭しつづける中国に内側からかけられたブレーキがこの香港であった。

 内側の脆弱さは他にもある。中国経済の奇跡は労働生産性の悪さが祟って今や終焉を迎えつつあるのだ。2015年の推計では、中国人労働者の1人あたりGDPはアメリカの19%にすぎなかった。この推計が出て以来、生産コストにおける中国の優位は、アメリカ人労働者の卓越した労働生産性を考慮に入れるならもはや無いも同然とまで見積もられている。

 くわえて、OECDの評価によると中国の企業債務は2012年の対GDP比120%から2017年の160%へと悪化の一途を辿っている。また、中国はグローバル化のメリットをしばしば説くけれども、その割に中国市場は、投資制限や参入障壁に見てとれるようにG20諸国に対しては極めて閉鎖的である。

 さらに、中国では少子高齢化も深刻である。夫婦1組あたりの出生率は近年急速に低下、2017年には1.2人にまで落ち込んだ。IMFの試算によれば中国の労働力人口は2011年をピークに下降に転じている。2013年の時点では現役世代6.57人で高齢者(65歳以上)1人を支えている計算だったのが、2050年には全人口の半分ちかくが高齢者となるなか現役世代1.14人で高齢者1人を支えることになると予測されている。中国は豊かになる前に老衰してしまいそうなのである。

 以上のとおり内政・経済・人口構成といった諸領域にわたる宿痾は、中国の有能な支配層エリートにとってすら克服に時間を要するものである。仮にこうした宿痾を共産党政権が(まず無理だが)何とかできたとしても、今度は地政学的な問題が立ちはだかるだろう。世界に君臨する最強国家アメリカを追い落とし自分が取って代わりたいという中国の夢は遠く険しいのだ。見通しうる将来においてどうしてもこの夢を追いたいとなれば、色あせつつある二大勢力、欧露のいずれかと極めて強固な同盟関係を結ぶぐらいしか手立てがない。

香港の抵抗運動は習近平政権にとって極めて剣呑なものとなっている。

ジョン・C. ハルズマン博士

習近平とウラジーミル・プーチン大統領は互いに擦り寄っているように見えるけれども、だからといって強固な中露同盟が出現しうるという訳にはいかない。そびえ立つ巨大な心理障壁、大ロシアのナショナリズムがあるからだ。そもそもプーチンが拠って立つ統治コンセプトは、強権政治を耐え忍ぶ国民性を前提に「よき皇帝(ツァーリ)」として全土に君臨、隷下の諸侯(オリガルヒ財閥群)を意のままに操るというものである。この統治によってプーチンは、大祖国ロシアの栄光ある地位をふたたび世界に宣していこうとしているのだ。そんなプーチンにとって中国の弟分を演じるなど思想面でも実利面でもとうてい許されることではない。そんなわけで、中国政府からたとえば合弁事業の話が持ち掛けられた場合でも、うっかり格下あつかいされないようすべてを疑ってかかることになる訳である。

 ひるがえって中国と欧州との同盟はというと、なおさら無理である。トランプがどう吠えちらかそうが米欧は70年以上にわたって地政学的協調を(ときに渋々ながら)続けてきたのだ。営々と築き上げられてきたその絆を、あの氷のような欧州エリート連中がえいやっとなげうち対中同盟に向かって雪崩れを打つなど、まず考えられることではない。

 つい先日『ニューヨーク・タイムズ』紙に、中国当局が国内西域のウイグル人じつに100万人を強制収容した件に関する、中国共産党の内部文書が流出した。一読して言えそうなことは、つね日頃から人権に口やかましい欧州が、ウイグル人をこれほど虐待している監獄国家・中国との同盟を断固推進することなど、いよいよもって有りえないということである。

 以上みてきた諸事情を踏まえつつ、我々は世界をありのままに見据えていくべきである。中国はどれほど台頭しているように見えてもじつは問題山積の状況にあり、地政学的な限界も抱えている。そんな中国が早晩アメリカを凌駕して世界を睥睨するなどまず有りえない話で、すくなくとも次の世代まではアメリカこそが世界に冠たる超大国でありつづけるとみてよい。

  • ジョン・C. ハルズマン博士は、国際政治リスク関連のコンサルタント業務に定評があるジョン・C. ハルズマン・エンタープライズ社の社長兼マネージングパートナーで、ロンドン金融市場のビジネス紙『シティAM』の上席コラムニスト。連絡先:  www.chartwellspeakers.com.

 

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