Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

エルドアンのウクライナに関する選択肢はどれもリスクに満ちている

2022年1月30日、キエフ郊外の森林で、サバイバル技術の速修講座の一環として深く積もった雪からシェルターを造る方法を学ぶウクライナ市民たち。(AFP)
2022年1月30日、キエフ郊外の森林で、サバイバル技術の速修講座の一環として深く積もった雪からシェルターを造る方法を学ぶウクライナ市民たち。(AFP)
Short Url:
31 Jan 2022 09:01:38 GMT9
31 Jan 2022 09:01:38 GMT9
  • このような複雑な危機における仲介者には、如才ない洗練された外交術が必要だ

ヤサル・ヤキス

ウクライナ危機は、引き続き国際的な議題の中心であり続けている。2008年に始まったこの問題は、米国が旧ソ連――特にウクライナとジョージア――諸国にNATO(北大西洋条約機構)加盟への道を開くイニシアチブを打ち出したことに端を発する。

欧州のNATO加盟国からの反応を受け、この約束は将来的に実現の可能性があるという、より曖昧な動きへと変容した。この動きは多くのウクライナ人に勇気を与えたが、ウクライナ国内の強固なロシア系コミュニティやロシア政府との協調を支援する多くの国民の存在もあり、分断も生み出した。そして、多くのウクライナ人たちが街に出てこのイニシアチブに対する抗議を行う結果となった。

ロシア側は同地域において強引な動きを続けており、かつての裏庭である同地域における影響力をできる限り取り戻そうと試みている。ウクライナに対してロシアが取りうる行動は4つある。1つめはウクライナとの交渉による解決であり、そこにNATOまたは米国、あるいはその両者が絡んでくる可能性もある。2番目は、ジョージアにおけるアブハジアと南オセチアの時のように、従属国による支援の下でドネツクとルハーンシクの事実上の独立を固めていくという道だ。3番目は、ウクライナの混乱を煽り、親ロシア派の政府を成立させるという手段である。そして第4の選択肢はあからさまな侵攻となるが、それが現実のものとなる可能性は低いだろう。

米国を中心に、ロシアがウクライナ侵攻を準備しているという報道が繰り返されているが、ウクライナ当局はそのような差し迫った危機はないという印象を示している。

ウクライナの防衛大臣は先週、ロシアとウクライナの緊張が昨年から悪化していることはなく、ロシア政府が攻撃を準備しているという兆候はないと述べた。同様にウクライナの外務大臣は、米国、英国、オーストラリアが外交官の家族らに対してウクライナを退去するよう助言したことに対し、軽率な決断だと述べている。

そしてこちらも重要なことだが、28日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が米国のジョー・バイデン大統領に対し、不要なパニックを煽っているとしてロシア侵攻に関する警告をトーンダウンさせるよう求めたことをメディア各社が報じた。ウクライナの大統領が、自国が直面している脅威への認識で他国の大統領に劣っているということは考えにくいだろう。

事態の分岐点にある現在の情勢において、戦争を煽る行為は何よりも避けたいところである。先週、ロシアが軍事訓練の準備と称してウクライナ国境付近に新たに6,000名の兵士を送り込んだのは事実だ。米国防総省はこれに対し、東欧配備に備えて8,500名の兵士に高警戒態勢を命じたと発表したが、この流れ全体が、戦争の深刻な脅威というよりは軍事力による威嚇行為のように映る。

仮に戦争が勃発した場合、ロシアとの戦いにウクライナへの派兵を行うNATO諸国がいくつあるのかは分からない。既にクロアチアの大統領は、自国の兵士を派遣しないと宣言している。ロシアとの戦争を避けるために、多くのNATO諸国が言い訳を並べることになる可能性がある。ロシア政府は西欧諸国に対して直接的な威嚇は行っておらず、威嚇の対象は東欧諸国およびバルト三国に限定されている。

見当違いの部分もあれば前向きな役割を担いたいという部分もあるが、トルコは西洋諸国とロシア間の最も複雑な対立のひとつに対して、調停役としての役割を進んで引き受けようとしてきた。だが、トルコにはそこで求められる影響力があるだろうか?トルコはこの危機において、再び特例的な存在となるだろう。同国はNATO加盟国だが、米国の議員の多くは、トルコ政府を同盟における有用な存在と言うよりもお荷物と見ている。他方で、トルコはNATOの主要加盟国として、この対立においてどの立場を取るかによって均衡を崩す存在になりうる。さらに、ロシアとNATOの和解にはトルコの利害関係も絡んでいる。同国は多くの領域でロシアと協力関係にあるが、軍事産業分野ではウクライナとも協調している。

トルコが製造した武装ドローンが、ドンバス地区の親ロシア軍に打撃を与えている。このことは、トルコ政府がこの問題の解決に貢献するための追い風ではあるが、このような複雑な危機における仲介者には、如才ない洗練された外交術が必要である。

まだ日程は決まっていないが、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領によるトルコへの招待を受け入れた。プーチン大統領はこの機会を逃さず、NATOの団結を弱め、トルコ政府と米国を遠ざけようとするだろう。トルコはロシアとウクライナの仲介役を買って出たが、ロシア政府はそのようなイニシアチブにはほとんど興味を示していない。ロシアとしては、他のNATO加盟国を締め出してでも、米国政府との問題解決を望む可能性がある。そしてトルコは板挟み状態になるだろう。

今回の危機の結果、米国から見たトルコの戦略的重要性が高まる可能性もあるが、トルコにとってはいずれの選択肢もリスクに満ちている。

  • ヤサル・ヤキス氏はトルコの元外務大臣、与党・公正発展党の創設メンバー。ツイッター:@yakis_yasar
特に人気
オススメ

return to top