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ヨルダン川西岸地区併合への地ならしを行った国連決議

ヨルダン川西岸地区にあるイスラエル入植地マアレ・アドゥンミーム。(ロイター)
ヨルダン川西岸地区にあるイスラエル入植地マアレ・アドゥンミーム。(ロイター)
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17 Dec 2019 10:12:00 GMT9
17 Dec 2019 10:12:00 GMT9

3年前、国連安全保障理事会は第2334号決議を可決した。14ヶ国が賛成し、1ヶ国――アメリカ――が棄権したこの決議は、政治的大変動に等しいものだった。イスラエルによる占領地域における違法な入植地政策をこの国際機関が厳しく非難したのは、多年ぶりのことだった。アメリカはこのとき、イスラエルの責任を問う過去の試みとは異なり、最も密接な同盟国を守るための行動を何も起こさなかった。

しかし、それ以来起きたことが証明しているのは、イスラエルのような国際法違反者に対して国際的なコンセンサスを尊重させる有意義な仕組みをつくることに、国連が失敗したということだ。ある意味で、第2334号決議を承認するということ――それはパレスチナ人の権利を外部から支持するものだが――は、この国際機関がこれまで行った中で最も高くついた決断のひとつだとわかった。

2016年12月23日の採択からちょうど1ヶ月後、イスラエルは、占領中のヨルダン川西岸地区の違法のユダヤ人入植地に新しい住宅を数千戸建設するという計画を発表して、全世界を嘲った。イスラエルの首相ベンジャミン・ネタニヤフと、当時防衛大臣を務めていたアヴィグドール・リーベルマンは、この挑発的な動きを、居留地内の「住宅ニーズに応えたもの」として正当化した。その後の3年間が示したように、これほど真実からかけ離れていることはなかった。

入植地の拡大は、隣接して実現可能なパレスチナ人の国家が樹立されるいかなる可能性も潰すこと、そして、アメリカによる仲介と「和平プロセス」の年月を通じて形作られてきた、いわゆる「平和のための土地」案との決別を狙った、はるかに大きな戦略の一部であったのだということが明らかになってきた。

イスラエルの戦略は完全に成功した。トランプ政権がイスラエルの右翼連合政権に与えた自由裁量権のおかげで、いまやイスラエルの政治家は、かつてほとんど思いもよらなかったことを大っぴらに計画している。すなわちそれは、広大なヨルダン川流域沿いの西岸地区にある、大規模なユダヤ人入植地ブロックの一方的な併合だ。

イスラエルがその入植地プロジェクトをタガを外して加速させる一方で、アメリカは、パレスチナ人の指導者層に対して、様々な国際機関や利用可能な政治的・法的プラットフォームを通じた反撃の機会を、象徴的な意味でも確実に与えないようにしている。

ラムジー・バロード

過去3年間を通じてワシントンは、イスラエルの不吉な陰謀に目をつぶってきた。さらに悪いことに、ワシントンはイスラエルの政治的話法を完全に受け入れ妥当と認めてきた一方、テルアビブの行動に対して口実を提供するため、あらゆる必要な手段をとってきた。米国の国務長官マイク・ポンペオが先月行った、ユダヤ人入植地は「それ自体国際法に抵触するわけではない」という宣言は、ワシントンが採用した多くの意見のうち、イスラエルによる横柄と国際法違反への地ならしをしたもののひとつにすぎない。

思い返せばバラク・オバマ大統領には、この国連決議――そもそもいかなる履行のための仕組みも無かった――への投票を単に棄権する以上のことをするチャンスがあった。そのチャンスとはすなわち、アメリカがイスラエルに対して交渉材料として気前よく金銭的支援を行うことだった。残念ながら、オバマはまったく反対のことをしてしまった。彼はイスラエル軍に資金援助して、ガザ地区に対してイスラエルが行う全ての戦争に資金を融通したのである。彼が国連で遅ればせながらとった行動は、トランプ政権がパレスチナ人に対して、そして国際法に対しても残酷な戦争を引き起こす準備を整えることとなった。

事実、かつてのアメリカの国連大使ニッキー・ハレーの2年間の任期は、オバマ政権によるイスラエルへの「裏切り」とされるものを修正することに、大部分が捧げられていた。世界的な「反ユダヤ主義」とされるものからイスラエルを守るという名目で、アメリカは幾つかの国連機関との繋がりを絶ち、結果としてワシントンを残りの世界から孤立させた。

国連がワシントンとテルアビブ共通の敵に指名されたことにより、国際法は無意味なものになった。アメリカ政府は、徐々にイスラエルの周囲に防御シールドを固め、第2334号決議やその他多くの決議を無意味なものに変えてしまった。

言い換えれば、アメリカはイスラエルによるパレスチナ占領の違法性に関する国際的なコンセンサスを、テルアビブが国連に対してのみならず、いわゆる2国共存案や「和平プロセス」に対するいかなるコミットメントとも縁を切るチャンスに、ものの見事に変えてしまったのである。

イスラエルがその入植地プロジェクトをタガを外して加速させる一方で、アメリカは、パレスチナ人の指導者層に対して、様々な国際機関や利用可能な政治的・法的プラットフォームを通じた反撃の機会を、象徴的な意味でも確実に与えないようにしている。これは、2018年に行われたパレスチナ自治政府への全ての援助の停止、そしてその1週間後のパレスチナ難民の福祉のための国連機関・UNRWAへの資金拠出の停止という、組織的な経済戦争を通じて工作されたものだ。

パレスチナ人に対してアメリカとイスラエルが行っている戦争は、二正面から仕掛けられたものだ。片方では、ヨルダン川西岸地区のほとんどを併合するという今にも起こりそうな一歩の前兆として、より多くのパレスチナ人の土地の占領、新しい入植地の建設と既存の入植地の拡大に集中した。他方には、アメリカ政府による政治的・金銭的手段を通じたパレスチナ人への容赦ない圧力があった。

第2334号決議から3年後、新しい情勢が我々の目の前にある。無くなったのは、伝統的なアメリカの「調停」、そして2国共存案やその他の見せかけの解決策を中心とした隣り合っての入念な対話の日々だ。今では、イスラエルは単独で、錯乱していて絶えず拡大している右翼的な有権者の期待に応えるべく設計された未来に向けた、自国独自の「未来像」を練り上げている。アメリカの役割に関しては、チアリーダーのそれに格下げされてしまった。このチアリーダーは、国際法、人権、正義、平和、あるいは地域の安定といったようなものですら些細に思い、平然としている。

ナファタリ・ベネットは、11月9日にイスラエルの新しい防衛大臣に任命されてすぐ、占領中のパレスチナ人の都市アル=ハリール(ヘブロン)に新しいユダヤ人入植地を築くという、危険かつ重大な決断を行った。当然、ユダヤ人入植者は歓喜した。彼らはゆくゆくは、イスラエルそれ自体よりも歴史のある、古いヘブロンの市場が破壊されるのを見ることになるだろう。そして、さらなる入植地の拡大や併合の可能性を、ヘブロンに見出すことになるだろう。

同時に、パレスチナ人たちは後ずさりしている。ヘブロンへの動きは、今イスラエルが政治的あるいは法的な悪影響を少しも恐れることなくパレスチナで活動しているという最後の証しだからだ。国連の第2334号決議は、イスラエルに責任を問うことに失敗したのみならず、ある意味では、ヨルダン川西岸地区でのイスラエルの膨張をさらに助長して、その後にきっと続くであろう併合への地ならしを行ったのである。

ラムジー・バロードは、ジャーナリスト、作家で、パレスチナ・クロニクルの編集者。彼の近著は『最後の陸地:パレスチナの物語』(Pluto Press, London)。バロードはパレスチナ研究でエクセター大学から博士号を取得している。Twitter:@RamzyBaroud

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