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「メイド・イン・サウジアラビア」のルーシッドEVに向け準備進む

サウジアラビアは、国内に初の電気自動車製造工場を建設すると発表した。( @LucidMotors )
サウジアラビアは、国内に初の電気自動車製造工場を建設すると発表した。( @LucidMotors )
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03 Mar 2022 12:03:05 GMT9
03 Mar 2022 12:03:05 GMT9

数ヶ月前、アラブニュースに「持続可能な成長を達成するためのEVへの投資」というタイトルの記事を書いた。その中で、サウジアラビアの公的投資基金(PIF)が、ルーシッド社に投資するという大胆な動きをしたことについて述べた。ルーシッドは米国企業で、テスラなどと競合するプレミアム電気自動車を製造している。

同記事で私は、これは世界最大の石油輸出国が、EV産業の傍観者ではなく、参加者になるための戦略的な動きだと述べた。

また、PIFによるルーシッドへの投資により、サウジアラビアは「ビジョン2030」で構想されている複数の目標を同時に達成できるようになったことを強調した。

私は、サウジアラビアにルーシッドの製造工場を建設する社会経済的なメリットについて、それがサウジをテクノロジーの中心地に変える源となる、と述べた。また、革新的でやりがいのある仕事を生み出し、高技能分野の技術を国産化することもできる。もうひとつ見逃してはいけない重要な点は、サウジのクリーンエネルギーに向かう動きと、その一環としてEVがどのような役割を担えるかということだ。

それゆえ、ルーシッド・グループが実際に具体的な一歩を踏み出し、サウジアラビアのジェッダに年間15万台のEVを生産するルーシッド製造工場を建設することを知り、大変嬉しい思いだった。

同社は今週初め、投資省、サウジ産業開発基金(SIDF)、キング・アブドゥラー経済都市と、そのための協定に調印した。ルーシッドは、これが同社にとって米国外初の国際製造工場となり、15年間で最大34億ドルの価値につながる可能性があると発表した。

サウジに海外工場を建設するというルーシッドの決断は、軽々しく下されたものではない。 どう考えても、サウジアラビアをルーシッドEVの重要な中心拠点と見ており、サウジアラビアとこの地域に極めて高い市場潜在性を感じているのだ。

EVの利用は、サウジアラビアのクリーンエネルギーへの取り組みの一環でもある。これは、サウジアラビアのクリーンエネルギーへの取り組みが本物であり、「ビジョン2030」の目標達成に向け、同国が「有言実行している」ことの証しだ。

フアド アル ゼイヤー

ルーシッドは声明の中で、同社初の国際製造工場の建設地としてサウジアラビアを選定する前に、複数の機会を検討したと述べている。同社は、「価格競争力のある商品と新興の国内サプライチェーン、そして国際的物流を促進する工場立地」によるメリットを期待していると話した。また、ルーシッドは、生産体制が完全に整えば、この工場でサウジ国民を中心に「数千人」を雇用する見込みである。

実際、ルーシッドはサウジアラビアに数十億ドルを投資することで、サウジアラビアの財政や投資規制の枠組み、そして同国の人材能力に高い信頼を置いている。サウジアラビアは、この瞬間のために何年も前から準備を進めてきた。サウジは数十年にわたって教育分野に投資し、エンジニアリングやその他の重要な分野で若者を育成している。

電気自動車の製造には、高い革新的技術が必要だ。例えば、電池の製造には化学エンジニアが必要であり、モーターや車両本体の製造には電気・機械エンジニアが必要である。さらに、化学工学や電子工学、組込みソフトウェア、電気工学など、横断的な専門知識を持つプロフェッショナルが必要とされるだろう。また、自動車工学や電気自動車工学、車両力学、車両アーキテクチャといった新しい分野も強く求められるようになる。ジェッダのキング・アブドゥルアジーズ大学や近くのKAUSTといったサウジの大学は、国内の電気自動車産業を支えるため、これらの新しい専攻をカリキュラムの一部として導入しなくてはいけない。

また、サウジアラビアは、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下の指導のもと、同国をルーシッド工場のような外国直接投資にとって魅力的な国にするために、規制や投資の枠組みの見直しをはじめとする急速な変革を進めている。

サウジアラビアは、充電ステーションなど、EVの利用に必要なインフラの整備にも取り組んでいる。喜ばしいことに、ルーシッドは非常に革新的な企業で、その最上位車種では1回の充電での走行距離がEPA基準800kmだ。これはテスラモデルSよりも160km長い!つまり、リヤドからダンマンまで、停車や充電の必要なく往復できるということだ!

EVの利用は、サウジアラビアのクリーンエネルギーへの取り組みの一環でもある。これは、サウジアラビアのクリーンエネルギーへの取り組みが本物であり、炭素排出量を60%以上削減することを含む「ビジョン2030」の目標達成に向け、同国が「有言実行している」ことの証しだ。同国は、NEOMでのブルー水素の製造など、クリーンな炭化水素技術ベンチャーに投資している。また、サウジアラビアは「サウジ・グリーン・イニシアティブ」の一環として、100億本の植樹を計画している。

PIFのルーシッド社への投資、およびルーシッド社のサウジアラビアでのEV製造計画は、運輸部門において持続可能なエネルギー戦略を実施し、炭素排出量を削減するというサウジの計画に沿ったものだ。また、EVへの移行は、サウジが世界の燃料需要増加に対応するため、より多くの原油を輸出することができることを意味する。

サウジアラビア産EVの開発は、サウジにとって、経済の多様化、持続可能なモビリティの向上、炭素排出量の削減に十分な機会を提供すると同時に、ハイエンドの成長産業においてサウジの若者に新しい雇用を創出する革新的産業のための礎となる。

近い将来の「メイド・イン・サウジアラビア」のルーシッドEVの登場が大いに期待される。

  • フアド アル ゼイヤー 氏は、エネルギー移行、デジタル化、イノベーションを専門とする独立系エネルギーコンサルタント。元OPECデータサービス部長で、IEFJODIデータ・トランスペアレンシー・イニシアティブの元グローバルコーディネーターである。
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