Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

ウクライナ戦争で注目される東アジアの安全保障

2022年3月29日、ウクライナ北東部の都市トロスチャネッツで、破壊されたロシア戦車付近の瓦礫の中を歩く住民たち。(AFP)
2022年3月29日、ウクライナ北東部の都市トロスチャネッツで、破壊されたロシア戦車付近の瓦礫の中を歩く住民たち。(AFP)
Short Url:
30 Mar 2022 10:03:59 GMT9
30 Mar 2022 10:03:59 GMT9

欧州ではロシアのウクライナ侵攻を契機に、防衛からエネルギーに至るまで、安全保障のほぼすべての側面で見直しが始まっている。一方、この戦争が東アジア、特に台湾や日本の安全保障に与える影響についてはこれまであまり注目されてこなかった。しかし、この戦争が東アジアの安全保障に及ぼす影響は欧州と同じくらい深刻なものになるだろう。

ウクライナ紛争の地は遠く離れているが、東アジアに大きなリスクをもたらす。中国はこの紛争と欧米の対応を注視している。ロシアがその行動に対して高い代償を払い、日本も発動している制裁措置がその経済を崩壊させるほど長引いたとしよう。その場合、中国は少なくとも自国の経済が十分に保障されるまでは台湾に対して軍事行動を起こすことをためらうかもしれない。

しかし、ロシアが侵攻してキエフに傀儡(かいらい)政権を樹立し、欧米の制裁を比較的早く撤回させることができれば、中国は台湾への圧力を強め、早い機会に侵攻する可能性さえ出てくるだろう。もしそうなれば、日本も紛争に巻き込まれる可能性がある。1970年代から中国が領有権を主張している尖閣諸島は台湾から225キロメートルも離れていないのだ。

安倍晋三元首相が昨年12月に述べたように、「台湾有事は日本の有事であり、したがって日米同盟にとっての有事」なのである。しかし、ウクライナ戦争における米国の対応は、多くの日本人に、この同盟の強化が必要なのではないか、日本の安全保障を米国だけに依存するべきではないのでは、と疑問を投げかけている。

このことは、平和主義憲法をはじめとする、日本の安全保障の中核をなす考え方の再検討を意味する。第二次世界大戦後、連合国軍が日本を占領している間に、ダグラス・マッカーサー元帥の監督下で作成された日本国憲法は、日本が再び他国に脅威を与えることがないようにすることを目的としていた。

戦後の日本の平和主義は、第9条に明記されている。日本国民は、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」のである。そのため、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」としている。

日本が核保有国から攻撃を受けた場合、米国は日本の防衛を拒否するのではないかという懸念がある。

伊藤隆敏

朝鮮戦争では、9条をやや緩やかに解釈し、日本に自衛の余地を与えた。1954年、新に施行された自衛隊法に基づき、陸上、海上、航空自衛隊が限定的に創設された。

しかし、日本国憲法は基本的に、日本に対する脅威は巨大な軍事力を必要とするほど大きくないという前提に立っている。その前文にあるように、日本国民は「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」のである。

つまり、日本が非武装のままであれば、他国は日本に対して脅威を感じず、攻撃もしないという考えだ。日本の左翼の多くは、しばしばこの論理に共鳴し、非武装・中立が平和の方程式であると主張してきた。

しかし、ロシアは紛争初期に自国の核戦力を厳戒態勢に置いたと発表した。この宣言は世界中を緊張させたが、特に唯一の被爆国である日本には深い衝撃を与えた。日本は長年、核兵器の存在に反対してきた。しかし、核兵器を開発する国は増えてきている。その中の1つである北朝鮮は、日本海に着弾するミサイルの発射実験も日常的に行っている。

ウクライナはNATOに加盟しておらず、1994年以降、自前の核抑止力を持たないままである。また、バイデン米大統領は、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定するなどの、ロシアとの直接的な軍事衝突のリスクを回避したい意向を明らかにしている。このため、日本が核保有国――ロシア、中国、北朝鮮――から攻撃を受けた場合、米国は同様に日本防衛を拒否するのではないかと懸念されている。確かにアメリカは日米安全保障条約でそのことを約束している。しかし、アメリカがその約束を守るかどうか、どの程度守るかは、手遅れになるまで日本には分からない。

このような背景から、与党自民党は憲法を改正し、日本の自衛隊法について明確に言及し、自衛隊を認めることを求めている。ハト派の岸田文雄首相でさえ、この改正案を支持し、国会で議論するよう働きかけると述べている。

さらに、安倍元首相を筆頭に一部の日本人は、日米安全保障条約を拡大し、NATOに存在するような核共有の取り決めを含めることを主張している。半世紀以上前に核兵器を「持たず・作らず・持ち込ませず」と誓った日本にとって、これは非常に異論のある提案である。1970年代であれば、批判の嵐を巻き起こしたことだろう。しかし、岸田外相が「核兵器に関する原則を見直すつもりはない」と述べる一方、自民党内には核武装論議を容認する向きもある。

この議論がどのように展開されるかは、世界がロシアに課すコストに大きく依存する。もしモスクワがウクライナでの侵略行為から逃れ、重く長期的な経済的代償を払うことなく譲歩を得るならば、日本は自国の安全を確保するために、より過激な行動を取る動機を得るだろう。その意味で、欧米の制裁へのコミットメントはアジアの安定に重要な意味を持つのだ。

・伊藤隆敏(いとう たかとし)氏:元大蔵省副財務官。現在はコロンビア大学国際公共政策大学院教授であり、東京の政策研究大学院大学特別教授を務める。

©Project Syndicate

特に人気
オススメ

return to top