Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

首脳会談を目前にしたEU・中国の微妙な関係

2022年3月30日、ブリュッセルでの欧州委員会の週次カレッジミーティングを開始するウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長。ヨーロッパは中国がヨーロッパ大陸を分断し支配し、集団的利益を損なうのではないかと懸念している。(AFP/Pool)
2022年3月30日、ブリュッセルでの欧州委員会の週次カレッジミーティングを開始するウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長。ヨーロッパは中国がヨーロッパ大陸を分断し支配し、集団的利益を損なうのではないかと懸念している。(AFP/Pool)
Short Url:
02 Apr 2022 02:04:43 GMT9
02 Apr 2022 02:04:43 GMT9

アンドリュー・ハモンド

エイプリルフールは、毎年4月1日の悪ふざけやデマを中心にした習慣だが、この日が重要な政治的会談の場となることは滅多にない。だが、今年のエイプリルフールである金曜日にはオンラインでEU・中国首脳会議が開催される。両者の関係がまさに重要な局面を迎えるタイミングだ。

外交的な空気は暖かであるかもしれないが、コロナウイルスによる危機が始まって以来、両者の関係は大きく揺れ動き、緊張は急激に高まってきた。さらに中国がウクライナ侵攻をめぐってロシアへの支援を明確にしたことで、緊張が緩和されたとは言い難い状況だ。新疆ウイグル自治区での人権侵害、香港の国家安全保障法の施行、昨年批准が見送られた長期交渉中の投資に関する包括協定など、ここ数年で中国・EU間で意見が対立してきた問題のリストは短くなってはいない。

最も象徴的なのは、EUのジョセップ・ボレル外務次官が中国を「システム上のライバル」と呼んだことだろう。きっかけは、コロナウイルスの偽情報に関するEU報告書の批判を弱めるよう、中国がEUに圧力をかけようとしたことだ。欧州対外行動庁が作成したこの文書には、「ロシアや、それほどではないが中国など、様々な国の公式情報、国家に承認された情報源が、広く陰謀説や偽情報を対象とし続けている」と記されている。

EUと中国の関係を冷え込ませてきたこれらの問題のより広い背景には、中国の外交政策の焦点がヨーロッパに移行したことで、中国がヨーロッパ大陸を分断し支配し、集団的利益を損なうのではないかというEUの懸念を煽ったという状況がある。たとえば、一帯一路(Belt and Road)構想についてはEUは以前から疑念を持っており、特に中国の経済開放が遅く感じられることや、主要産業における中国によるヨーロッパ企業の買収の波などへの不満を抱いてきた。イタリア、クロアチア、チェコ、ハンガリー、ポーランド、ギリシャ、マルタ、ポルトガルなど、多くのEU諸国がすでにBRI協定に署名している。

だが、中国の影響力がヨーロッパ大陸全体に拡大していることを示す動きは決してこれだけではなく、EU当局もそのことにより気づいている。もう一つの例は、中国と東欧・中欧の主要国による毎年の「16+1」だ。「16+1」は、投資、運輸、金融、科学、教育、文化などの分野で、11のEU加盟国とバルカン諸国5ヶ国と中国の間の協力を強化・拡大することを目的としている。

ヨーロッパは中国がヨーロッパ大陸を分断し支配し、集団的利益を損なうのではないかと懸念している。

アンドリュー・ハモンド

中国の欧州に対する対外的な介入における重要な傾向は、より顕著になってきている。たとえば、中国は「16+1」 のように、それぞれの国家や国家ブロックの個別のニーズに合わせてアプローチを変えており、欧州諸国への働きかけは、明確な見返りを伴うものとなっている。中国からの投資と引き換えに BRI に署名した国々が良い例だ。

このように相互に懸念を抱き合う状況の中、双方は共通の関心と協力関係のある分野を強化することに熱心だ。その中には、開かれた多国間貿易システムの重要性や気候変動への取り組みなどが含まれる。

経済問題では、バイデン政権の反対にもかかわらず、中国はCAIの批准の可能性をいまだに期待している。この件は政治的に棚上げ状態になる可能性が高まっているが、4月のフランス大統領選挙と今秋の中国共産党全国代表大会(習近平氏が3期目の総書記としての地位を確保するとみられている)を契機に、妥協が批准につながる可能性もあるだろう。双方がその時点でまだこれが自らの利益になると考えればの話だが。

地球温暖化についても、両者は長年にわたって有意義な対話を続けており、費用対効果の高い低炭素経済の発展にも協力してきた。中国とEUは、世界の温室効果ガス排出量の約3分の1を占めている。

気候変動に関するEUと中国の話し合いがこれほど協力的なものであったのは、両者が根本的に安定した気候の下での豊かでエネルギーが安定した未来というビジョンを共有して、このアジェンダの実現に向けた協力の必要性を認識しているからだ。たとえば、2015年の協定では、国内の緩和政策、炭素市場、低炭素都市、航空・海運産業からの温室効果ガス排出、ハイドロフルオロカーボンについての協力体制を強化することに合意している。

適切なビジョンを持つ両首脳陣は、将来的な低炭素への移行を加速することで、非常に大きなウィンウィンの機会が得られることを認識している。そのため、この協力体制は今後数年でさらに深まることが予想される。ヨーロッパは中国が必要とする分野でのクリーン技術を強みとしているためだ。中国は将来的に世界最大の経済大国になる可能性がある中、これは、ヨーロッパの技術・科学企業にとって大きな商機となる。

つまり、緊張は高まっているものの、EUと中国は両者とも、貿易から気候変動までの様々な問題においてパートナーシップをより深めていくことから得られるものがあるのだ。だが、政治がそれを許さない可能性もある。ウクライナ紛争の進展や中国がどこまでの支援をロシアに行うかによって、今後の展開が大きく左右されるだろう。

  • アンドリュー・ハモンド氏はロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのLSE IDEAS の共同経営者。
特に人気
オススメ

return to top