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衝動にほだされるのか、戦略的に動くのか、トランプ氏は進路を定めねばならない

ドナルド・トランプ大統領は自分の衝動しか信用しない。かつて米軍将官らが語った言葉だ。(AFP)
ドナルド・トランプ大統領は自分の衝動しか信用しない。かつて米軍将官らが語った言葉だ。(AFP)
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06 Jan 2020 10:01:33 GMT9

ドナルド・トランプ大統領は自分の衝動しか信用しない。かつて米軍将官らが語った言葉だ。いわばイランはここしばらく、トランプ氏の矛盾する衝動を試してきたことになる。米国を孤立させたいという衝動と、米国は偉大だとぶち上げたい衝動と。イランはトランプ氏の忍耐を試し、はたしてどちらの衝動が勝つかの勝負に大金を張りつづけている。外交政策ではトランプ氏はその支持基盤に対して相反する公約を掲げている。公約の一つは、「終わりなき戦い」を終わらせ、米国を中東問題から引き離す、というものだ。それと同時にトランプ氏は米国の「偉大さ」についても公約、米国の敵が米国人や米国の利益をそこなう場合には高い代償を支払わせるとしている。

イランもトランプ氏に負けじと歯止めを知らない。6月には公海上を航空する無人機を撃ち落としている。ペンタゴンの報復攻撃の指令に対し、トランプ氏はその10分前にこれを中止させた。攻撃により人的被害が出るようではイランに負わされた損害に見合わぬ、というのがその口実だった。下手な言い訳とみる向きが多く、イランをつけあがらせ米国とその大統領をさらに愚弄してもかまわぬと思わせかねない、と言われた。案の定、9月にはサウジアラビアの石油施設が攻撃を受けた。米国はこれを「戦争行為」としたがイランが気にするそぶりはなく、他方で「かつてない破壊行為」の脅威は無視された。

トランプ氏は、イランを経済的に叩き地域を不安定にするイランのふるまいに高い代償を払わせることで、二つの衝動の折り合いをつけようとしている。マイク・ポンペオ国務長官は5月、CNNとのインタビューで、米国はイランとの戦争を求めないと明言したが、こうも言っている。イランの攻撃があれば「断固として」これに応酬する、と。

このところイランはトランプ氏への挑発を強めている。先週バグダッドの米大使館が攻撃を受けるとトランプ氏はイランにその責任があるはずだとしたが、最高指導者ハメネイ師はトランプ氏に直接ねらいをつけた。同師が米国大統領にじかに語りかけることはまれだが、ツイッター上では「トランプは何もできない」と愚弄した。ハメネイ師のこの発言は、イランの支援を受けた民兵らが2日間で2度バグダッドの米大使館を急襲し、イランの意を受けた民兵が米国人の業者を殺害し、イランのロケット弾攻撃により数ヵ月にわたりイラクおよび中東一帯の米国の権益がねらわれたことを受けてのものだ。

トランプ氏は戦争は望んでいないのかもしれない。それであっても、緊張の高まりに向き合う構えは必要だ。

ダーニア・コレイラト・ハティーブ博士

3日、トランプ氏の直接指令を受けてコッズ部隊のソレイマニ司令官が暗殺された。言葉の応酬から行動への変化だ。ソレイマニ氏と武装組織の指導者アルムハンディス氏がバグダッドの空港を発つ際に殺害されたことを受け、トランプ氏は戦争の開始ではなく停止させることを求める、と語った。とはいえ、米国に不慮の事態に即応するプランがあるのか見極めるのは重要だ。トランプ氏が大金星をあげたのは確かだ。リンゼー・グラム上院議員言うところの「両手をアメリカ人の血で汚した」敵を排除できたのだから。しかし、ここまで向こう見ずな真似に出てしまった以上、簡単には引き返せないはずだ。トランプ氏は戦争は望んでいないのかもしれない。そうであっても、緊張の高まりに臨む姿勢は取っておくべきだ。次なる戦略は何かを問うことは重要だ。レバノンやイラクで抗議活動が起きていることも考えれば、状況は臨界に達しており、いずれとなってもただではすまない。

イランの情勢は厳しい。米国の制裁により後がないだけでなく、レバノン・イラクへの影響力にもほころびができているとみられる。政治腐敗にうんざりした市井の民は、中東地域でイランと連帯する国々の体制を糾弾している。しかしながら、イランとしては弱気には出られないうえ、レバノン・イラク、ことによるとシリアへの影響力まで失うリスクは負えない。ソレイマニ氏を失ったことはイランにとって戦略上の痛手であることは疑いない。がまた、復讐を誓うことのできる「殉死者」を得た形でもある。

米政府の払う代償も安くはない。ソレイマニ氏の死により交戦規定は一変した。これまでの代理戦争・経済戦争の局面から、イランと直接対面しての戦いに変じた。米国は緊張を抑えるべく動く、とポンペオ氏は言うが、すでに緊張は高まっているのだ。要は、けりをつける気はあるのか? ということだ。米国がこの地域で近年してきたことから鑑みれば、残念ながらその気配はなさそうだ。イラクは、戦略のないまま米国が進出しさあ、プランに目鼻がつくぞ、というときにバラク・オバマ氏がとっとと手を引いている。

ソレイマニ氏殺害にけりをつけられるような首尾一貫した戦略をトランプ氏は描けるだろうか。それとも、大統領選の年を迎えて、相矛盾する衝動と有権者への公約の間であいかわらず揺れ動きつづけるのだろうか。ただひとつ言えるのは、米国大統領がソレイマニ氏のような、イスラム革命そのものともいえるようなきわめて知名度の高い人物を直接ねらう決定をしたなら、もはやあとには引き返せないし路線変更も困難だろう。孤立主義を志向する衝動にふたたびトランプ氏がとらわれる場合には、米国の「偉大さ」もこれっきりでお役御免となるのは必定だ。

  • ダーニア・コレイラト・ハティーブ博士は、ロビー活動に軸足を置いた米-アラブ関係の専門家。エクセター大学で政治学博士号を取得。ベイルート・アメリカン大学イサム・フェアーズ公共政策・国際問題研究所で客員研究員を務める。
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