Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

トルコとシリアは友になれるか――その複雑な道筋

トルコ国旗をまとったシリア人の少年がトルコ兵と並んで立っている。シリア、タルアブヤドの町で。(ロイター)
トルコ国旗をまとったシリア人の少年がトルコ兵と並んで立っている。シリア、タルアブヤドの町で。(ロイター)
Short Url:
18 Jan 2020 09:01:34 GMT9
18 Jan 2020 09:01:34 GMT9

【ドバイ=スィネム・ジェンギズ】

トルコには有名なことわざがある。いわく、「旧友は敵にはなれない」。私はこれを逆にして問いたい。「旧敵は友に戻れるのか?」と。13日、トルコとシリアの情報当局の間でずいぶん久しぶりにトップ同士の会談がおこなわれたとの報道があった。これを受けての問いだ。

報道によると、トルコ国家情報機構のハカン・フィダン長官と、バッシャール・アサド大統領の安全保障補佐官アリ・マムルーク中将は、モスクワで開かれた平和交渉に合わせて会談したという。

ロイターによると、匿名のトルコ政府関係者の話として、会談では「テロ組織PKK(=クルド労働者党)のシリア内組織YPG(=クルド人民防衛隊)への共同掃討任務をユーフラテス川東岸地域でおこなう可能性」についても話し合われたという。一方、国営シリア・アラブ通信(SANA)はマムルーク中将のトルコ方との会談の報道を否定している。ロシアの調停による3カ国協議の場では、シリアはトルコに対し、シリアの主権を尊重しただちに兵を引くよう求めた、ともしている。

こうしたたぐいの会談は確認そのものが困難なので、中身について双方から異なる説明が出ることもままある。が、どうやら会談はあったらしく、長年の敵対関係を鑑みて「転換点」とする向きもあるが、これはむしろ多とすべきだ。

シリアとトルコとロシアの3国がつどった場で、トルコとシリアの情報当局トップの間が険悪でなかったというのは、少なくとも公式にはこれが初めてだ。

トルコとシリアに国交がないのは言うに及ばないが、とはいえ過去にはこの二国の間で同様の接触はあった。軍事・諜報の面でである。

現に去年2月の時点でも、トルコのエルドアン大統領は下級職レベルでの両国情報当局同士の対話は続けられていると認めている。ただ、メディアに公開されることはなかった。

一度目の下級職会合は2018年のイドリブ停戦交渉がおこなわれる中で実施された。去年10月にはアサド政権の大統領補佐官が、ロシアの仲介によるトルコ政府代表団との会談をほのめかしたこともある。場所はソチで、ロシア政府によるシリア和平交渉ではおなじみの場所だ。

トルコはもはやアサド氏の下野を求めない、とする報道もちらほら出てきている。中には、アサド氏が民主的な選挙を制するなら協力してもよいとチャヴシュオール外相が発言した、などとほのめかす報道もあった。

近年ではダマスカスに大使館を再び開く国も出て来ている。アサド氏に敵対する国々による大きな政策転換であり、アサド政権と同政権に敵対するアラブ諸国との間に関係改善の兆しが出はじめているものとみられている。

13日の会談はトルコ・シリア両政府とも政治的に大した意味のあるものと見ていないが、それでも、シリア紛争とその解決のための協議の行く末にとって新たな扉が、むろんロシア経由ということではあるが、開かれたということでもある。

今回の会談は、会談が開かれたことそのものと同じくらい、そこに至る道筋が重要だ。ロシアのプーチン大統領は、1月8日にイスタンブールを訪問する前日にシリアを2017年以来初めて訪れている。シリア北西部のイドリブ一帯の問題解決で一致を見るため、ロシアはシリアとトルコの仲立ちをしてきている。トルコは長らく、シリア政府によるイドリブ攻撃について懸念を表明してきている。

1月8日のトルコ・ロシア首脳会談を受け、シリア政府とイドリブの反政府勢力との間で新たな停戦が発表された。

1998年に結ばれたテロとの戦いに関するアダナ合意がある中、ロシア政府はトルコに対しシリアとの協議に応じるようずっと圧力をかけつづけている。

他方で、トルコもロシアもシリアの領土保全については同意している。シリア北部にいる分離主義勢力をにらめば両者の利害は一致するからだ。

トップ会談があったようだが、前向きにとらえるべきだ。「転換点」とみるべきでない。

スィネム・ジェンギズ

プーチン氏は、トルコとシリアの情報トップが会談をもった重要な日と同じ日に、モスクワでリビア国内当事者同士の交渉をぶつけており、いわば一石二鳥を狙った形だ。そういう機会でもなければトルコとシリアが対談するなどまずない。トルコ側には、ロシア訪問団のトップとしてチャヴシュオール外相、フルースィ・アカル国防相がいた。両者とも、ロシア・トルコ両国が関わりをもつリビア危機に関する協議がらみでの訪露だ。


冒頭の問いを再度持ち出す。「旧敵は友に戻れるのか?」だ。この地域の合従連衡を見れば、要はおよそ何でもありだ。

シリア紛争9年に対峙したトルコ政府の外交の歩みを見ると、そこには多くの教訓がある。昨日の敵は今日の友、ならぬ明日の友、ただし以前と同じ友とは限らぬ、などと。

いわゆるアラブの春による騒擾がアラブを襲うほんの数年前には、トルコとシリアの仲はよかった。また、その時分はシリアも国として機能していた。

いまあるのは国家機能が失われ独立した領土もない国だ。戦乱に困憊した国土に諸国が軍勢を駆って押し寄せ、そこここで代理戦争が繰り広げられる。冒頭の問いに答えれば、シリアがふたたびトルコの友に戻る日もあるにはあろう。が、一体それはどんなシリアなのか? それこそが問題だ。

  • スィネム・ジェンギズ氏はトルコの政治アナリスト。専門はトルコ-中東関係。ツイッター:@SinemCngz

【お断り】当欄の執筆陣による見解は論者個人のものであり、必ずしもアラブニュースの主張を映したものではありません。

特に人気
オススメ

return to top