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イスラエルは、領土併合に関して慎重に歩みを進めるべきだ

イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相と「青と白」党の党首ベニー・ガンツ氏がワシントンDCでドナルド・トランプ大統領と会合。(ロイター)
イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相と「青と白」党の党首ベニー・ガンツ氏がワシントンDCでドナルド・トランプ大統領と会合。(ロイター)
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29 Jan 2020 01:01:49 GMT9
29 Jan 2020 01:01:49 GMT9

突如として、米国のドナルド・トランプ大統領が1月28日(火)にサミットを主宰する。ホワイトハウスにて、トランプ大統領と次期イスラエル首相候補のたった二人の人物との間で行われる。ただし、「今世紀最大の取引」なるものは期待しないほうが良い。そういった触れ込みとなるかもしれないが、この利己的なアジェンダは、出席者たちの政治的かつ選挙用アジェンダをいかに早く推し進めることができるかを慮るものにすぎない。このアジェンダは、イスラエルにどのくらいの領土を併合するかを取り決めることで達成されるわけだが、併合の対象となっているウエストバンクの断片区画は1967年にすでに東エルサレムに取り込まれている。 はっきり言えば、イスラエル人とパレスチナ人の間の和平が考慮されているわけではないのだ。それは単なる見せかけにすぎない。

和平協定が生まれるとしたら、それはベンジャミン・ネタニヤフとベニー・ガンツ、この二人のライバルの間でのことだろう。焦点は、どちらが次期イスラエル首相となり、ネタニヤフは彼の切望する起訴免除を手に入れられるかどうかなのだ。トランプはガンツに圧力をかけて何らかの権力分割を調整することにより、彼の「友達」ネタニヤフを救済しようという気になっていると考える向きもある。しかしちょっと待て、トランプは友達など持っていない。彼が 持っているのは利害関係だ。目下の彼の利害は弾劾を逃れて11月の米国大統領選に当選することだ。彼の二人のゲストは、このトランプ自身のアジェンダに関しても一役買うことが期待されているのだろう。どちらかがそれをしくじれば、トランプのツイッターというお仕置き部屋に放り込まれるリスクがある。

パレスチナ側は米国大統領とイスラエル首相につきまとっている司法上の難題のツケを払わされるリスクを負っている。トランプもネタニヤフも、何か大きく世論の気をそらすものを喉から手が出るほど必要としているからだ。米国上院は現在トランプの弾劾裁判を行なっている − ただし司法プロセス上の決定打はほとんどなく、むしろ与野党のヤジ合戦的な様相ではあるが。共和党上院議員たちは俄然白けており、ハンドスピナーやストレスボールをいじって  いる。

ネタニヤフはさらに開き直っている。彼は起訴免除を要求し、それが手に入るまではイスラエルの政治制度を巧みに掌握し続けている。クネセト(イスラエル国会)はネタニヤフがワシントンDCでトランプと会談中に彼の起訴免除について討議を始めることになっている。このタイミングは偶然のものではない。「イスラエル我が家」党首で要職任命に関わるとみられる政界実力者アヴィグドール・リーベルマンは、「ビビ(ネタニヤフの愛称)」の「高飛び」の可能性を非難してこう言っている:「彼はクネセトまで2.5km車を走らせる代わりに、ワシントンまで9,500km飛ぶほうを選んだ」

 こうした全ての動きによって、首相選挙のネタニヤフのライバルであるガンツが一気に窮地に立たされた。彼は当初、トランプの計画の公布はどんな形であれイスラエルの選挙戦への「明らかな介入」となる、と宣言して応戦していた。しかし再考の結果、彼はトランプを怒らせるのはリスクが大きすぎると悟り、心変わりをした。それでも24日(金)の時点では、彼は再び躊躇を示し、トランプとの別途一対一会談を求めた。トランプ-ネタニヤフ主演のロードショーの脇役にしか見えないことになるのを避けたかったようだ。ガンツは政界の戦場における退役将軍となるかもしれないが、それでも二人の思惑の裏をかくリスクを取ろうとしている。 

今回の計画の内容ははっきりしないが、期待感は低い。ネタニヤフが併合交渉のリーダー連中に自信を持って同行を呼びかける気になれなかったのも不思議はない。何より、ウェストバンクのどれほどの区域をイスラエルは取り込もうというのか?トランプはイスラエルによる併合に対して何の異存もない。特に、この動きは福音派とイスラエル支援のトランプ支持母体を喜ばせることになるわけだからだ。トランプ政権は、ウェストバンクの併合をもはや違法とはみなさないとして、これまでの米国の立ち位置をすでに覆している。

ヨルダン渓谷の併合はほぼ確実だ。1967年以降、当時与党だった労働党がこれを計画しており、イスラエルの政治上このことへのコンセンサスはとれている。主要定住圏もエルサレム定住圏に併合される可能性がある。ウェストバンクの中央丘陵地帯やヘブロン周辺に散らばる定住圏については、やや意見の分かれるところだ。しかしイスラエルのリーダーたちは全員、今回の動きが領土拡張論者の夢を実現する最大のチャンスだということを承知している。ネタニヤフは彼ら全員を代弁してこう宣言した:「今日ホワイトハウスには、イスラエルにとって史上最大の友がいる。」イスラエルの二名のライバルたちは、イスラエルが最大級の領土をかすめ取ることに対してトランプがゴーサインを出すことを間違いなく求めており、両者ともそれぞれライバルより弱腰に見られることを望んではいないはずだ。

パレスチナのリーダーは先制して拒絶を表明しているが、DCでのこの動きを妨害する様子はほとんど見られない。パレスチナ側には何の打診もなかった。C地区はウェストバンクの61%を占めているが、一部の人間が恐れている通り、もしもこの地区が統合されれば、200以上の個別の半独立的パレスチナ地区がイスラエルの領土に取り込まれることになる。併合はいずれにしても耐え難い現在の状態を有無を言わせず公式化することに他ならない。

イスラエルのリーダーたちは全員、今回の動きが領土拡張論者の夢を実現する最大のチャンスだということを承知している。

クリス・ドイル

イランの核合意の時のように、何十年もの歴史を持つ国際的合意がトランプによって粉砕されようとしているのを、国際社会は外野から見守っている。他国はどう反応するだろうか?他国の反応はおそらく、「どっちつかず」と「冷ややかな態度」の間を前後するのであろう。一部の国はトランプをこれまで以上に敵に回すことは避けようとする。欧州連合の方は間違いなくその長期的な立場を貫き、いかなる併合も、交渉の場へ戻ることへの強硬な要求も、完全に無視するはずだ。

しかし、万が一併合が進行するようなら、これらの大国たちは国際法と人権への途方もない侵害をただ無視していることができるのだろうか? 過去の事例が警鐘となろう。ロシアがクリミア半島を不法侵略した時のことを思い出して欲しい。欧州連合は直ちに制裁措置を課し、現在もそれは続いている。一環性が国際関係の一面であるなら、イスラエルも全く同様の展開に直面することになろう。

イスラエルは慎重に歩みを進めるべきだ。パレスチナのバンツースタンの将来はどうなるのか?また、国家としてのパレスチナの重要性が取りざたすらされないのであれば、「一国内では両国民が同等の権利を有するべきだ」と訴える同権運動をパレスチナ人が開始するまでに一体どのくらいの時間がかかるのか?

  • クリス・ドイルはロンドンのCouncil for Arab-British Understandingの局長を務める。     ツイッター:@Doylech

 

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