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ネタニヤフ政権とバイデン政権の関係にとって重要なイラン問題

アリエル・シャロン元首相の追悼式典に出席するベンヤミン・ネタニヤフ首相とジョー・バイデン副大統領(当時)。2014年1月、エルサレム。(Getty Images)
アリエル・シャロン元首相の追悼式典に出席するベンヤミン・ネタニヤフ首相とジョー・バイデン副大統領(当時)。2014年1月、エルサレム。(Getty Images)
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01 Mar 2023 03:03:39 GMT9
01 Mar 2023 03:03:39 GMT9

米国とイスラエルの関係は米国の中東ビジョンの中心にある。そのような地位は、イスラエルが近隣アラブ諸国に対して軍事的優位を見せつけた1967年以来ずっと明白だ。

この関係を強固にするために、米国は第二次世界大戦終了以降、他のどの国よりも多くの支援をイスラエルに提供してきた。オバマ政権とベンヤミン・ネタニヤフ首相の政権との関係は険悪ではあったが、それでも2019年~2028年の期間にイスラエルに380億ドル相当の軍事支援を提供することを約束した。

しかし、米国とイスラエルの関係は、戦略的で揺るぎないものだとの主張に反して、揺らいだ、大いに混乱したものに見えることがしばしばある。この関係は現在、そのような段階のうちの一つを経ているところなのかもしれない。バイデン政権が中東における平穏と安定を切望する中、その主要同盟国イスラエルは現状を揺さぶっている。イスラエルの指導者らはまたもや、米国に対してイランへの断固たる態度を要求している。ネタニヤフ首相とジョー・バイデン大統領はこの問題に関してはパレスチナ問題の場合とは違い協力できるだろうかとコメンテーターらは問うている。

米国はイスラエルに対し追従を期待しているが、イスラエルの指導者らはそのような役割を果たしたくないと思っている。

イスラエルの指導者が取った最も大胆な動きはおそらく、2015年にネタニヤフ首相が米連邦議会での演説の場を厚かましくも利用してイラン核合意への反対を訴えた件だろう。オバマ政権内では、ネタニヤフ首相はイランではなく米国と闘っており、民主党を敵に回すことでイスラエルへの超党派支援を危険に晒していると見る向きが多かった。イスラエルの安全保障は米国の軍事力と経済力に強く結びついているというのに、何故喧嘩を売るのか。この関係を損なえばイスラエルの安全保障が脅かされることは確かなはずだが。

ネタニヤフ首相はバイデン大統領とも15ラウンドをフルで戦うつもりなのだろうか。彼は2015年から学んだのか。そんな風に思ってはならない。二人は互いについて強みも弱みもよく知っている。対照的に、ネタニヤフ首相とバラク・オバマ大統領が初めて会ったのは、オバマ大統領が初めて大統領選に勝利した1年前の2007年だった。

現在の米国とイスラエルの関係には良い面も悪い面もある。イスラエルにとっての良い面は、米国が軍事支援の点で後退していないことだ。両国は1月、過去最大の合同軍事演習を実施した。昨年11月の軍事演習では、明らかにイランを念頭に置いた長距離軍事飛行が行われた。これは単なる軍事力誇示かもしれないが、イランがロシアに兵器を供与していることに対するバイデン大統領の焦燥の産物である可能性もある。

一方、パレスチナ問題に関しては米国は苛立っている。当局者は、ネタニヤフ首相がこの問題に関する米国のメッセージを無視しており、入植についての連立パートナーからの要求にあまりにも簡単に屈服していると感じている。米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、自身のイスラエル訪問によって入植や取り壊しの計画に一定の歯止めがかかったと考えていた。凍結とまではいかないとしても、大幅な減速は期待できるだろうと。

しかし、ネタニヤフ首相らはブレーキをかけるどころか、アクセルを強く踏み込んでいる。E1地区の破滅的な入植計画は新たな承認段階を経て進んでいるうえ、入植地はイスラエルの法律のもとで合法化されようとしており、35ヶ所の入植地に住宅7000戸を建設する計画も承認される見込みだ。

米国とイスラエルの長期的な目標は大きく異なっている。イスラエルは、米国が永久的に中東に関与して自分たちのアジェンダを支援してくれることを望んでいる。米国の支援があればイスラエルは地域における自国のビジョンを規定することができるし、米国が援護してくれると完全に分かったうえでシリアにおいてイランやその他の標的を空爆することもできるのだ。とは言うものの、イスラエルの指導者らは米国がイスラエルから距離を置くシナリオについても実際に検討している。ネタニヤフ首相はずっとロシアのウラジミール・プーチン大統領と親密な関係を持ってきたし、今でもそうだ。そしてイスラエルと中国も、米国が望むより遥かに親密な関係を持っている。

しかし、近年の米国の政治家らが意見を同じくする可能性が高いことが一つあるとすれば、それは米国が中東から手を引いて中国をはじめとする太平洋地域により多くの注意を払うべきだという点だ。イランやパレスチナの行く末が21世紀の道筋を決定するわけではないということが彼らには分かっているのだ。バイデン大統領はオバマ大統領と同じく、パレスチナ問題に巻き込まれたくないと思っている。イラン問題に対する好ましい選択肢は、鍵をかけて置いておき、結果的に外交的なチャンスが訪れることに期待するというものだ。

ブリンケン国務長官は先週、交渉は行き詰まっているが「今後の外交のドアはいつでも開いている。イランの言動や関与の有無に多くがかかっている」と明言した。米国とその欧州の同盟国はイランと戦争をするわけにはいかないのだ。ウクライナを理由とする戦争ならなおさらだ。

イスラエルも紛争に関わる余裕はほとんどない。投資家は、最高裁判所をめぐる大きな対立を理由の一つとしてイスラエル経済から資金を引き上げているようだ。イランとの紛争などという話はこの資本逃避を加速させるだけだ。

バイデン政権が中東における平穏と安定を切望する中、その主要同盟国イスラエルは現状を揺さぶっている。

クリス・ドイル

しかし、米国はそれでもイランとの紛争に不本意ながら巻き込まれる可能性がある。CIA長官は先日、イランの最高指導者がまだ核武装を決定していないとは思わないと発言した。国際原子力機関(IAEA)は、イランのウラン濃縮計画は濃縮度84%にまで進んでおり理論上は数週間以内に90%を達成できると結論付けた。イランはこれを否定し、60%を超えていないと主張している。一方、イランの弾道ミサイル計画は、核兵器搭載が可能な段階に向かって前進している。イランは先週になって初めて、イスラエルに到達する能力を持つ巡航ミサイル「パーヴェ」を公開した。

イランがウラン濃縮を進め核武装計画を再開すれば、バイデン大統領は難しい立場に立たされるだろう。バイデン政権はより攻撃的な姿勢を取ることを余儀なくされるかもしれない。同大統領は、イスラエルが一方的にイランを攻撃することで米国が戦争に巻き込まれるかもしれないという恐れにオバマ政権が絶えず晒されていたことを思い出すことだろう。

米国は、おそらくイランを抑止するために、レトリックを強めている。トム・ナイズ駐イスラエル米大使による次のようなコメントは、ネタニヤフ首相の耳にはフルオーケストラの交響曲のように心地よく響いたことだろう。「バイデン大統領が言ったように、我々はイランが核兵器を得るのを黙って見てはいない。大統領は、第1、第2と、あらゆる選択肢が卓上にあると言った。第3の選択肢は、イスラエルはなすべきことをすることができるしするべきであり、米国は彼らを支援するというものだ(…)イランに対抗するためのイスラエルと米国の協力は完全に足並みを揃えている」

イランは、イスラエルが直面している政治的・経済的危機を十分に認識している。米国については、紛争に対して尻込みしていると見ている可能性がある。イラン指導部はそれを利用しようとするだろうか。そうかもしれない。ただし、そうするには彼らは深刻なほどに思慮を欠いている。

バイデン政権とネタニヤフ政権の間にどのような相違点があろうと、また両者の優先事項がどれほど相反していようと、両者が協力できる可能性が一つある。それはイランが核開発を進め過ぎた場合だ。バイデン大統領は行動せよという連邦議会からの圧力に晒されるだろうし、ネタニヤフ首相も国内のタカ派からの圧力を受けるだろう。イランのタカ派の考えがどのようなものであろうと、同国政府にとっては外交面での選択肢の方が、軍事シナリオとなった場合の選択肢よりも遥かにましなものであるはずだ。

  • クリス・ドイル氏はロンドンの「アラブ・イギリス理解推進協議会」の責任者。ツイッター: @Doylech
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