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衛星打ち上げ失敗、その先に来るさまざまな問題の徴候

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16 Feb 2020 09:02:19 GMT9
16 Feb 2020 09:02:19 GMT9

先週イランは人工衛星を軌道に乗せようと急いだが、結果としては失敗した。イランはこれまでに少なくとも3度は弾道ミサイル発射能力を劇的に向上させる試みに挑んだが、今回もまた失敗に終わったことになる。米政府はそのように見ている。

ロケット「シームルグ」(不死鳥の意)が人工衛星「ザファール1号」(勝利の意)を宇宙空間へとどめるのに必要な速度に届かなかったため、今回の打ち上げは足元をすくわれた。いくつもの制裁を加えられ国際的に孤立し国内では怨嗟の声も高まるなか、執拗に宇宙開発能力の向上に余念がないのは確かに問題だ。ウラン濃縮(と地域で戦争をあおること)も相変わらず継続中だ。

こうした果敢な拡張に歯止めをかけられなければ、この地域は暗い未来に直面する。核合意がふたたび息を吹き返すか、トランプ後の世界がイランに宥和的でありさえすれば、イランの野望をくじく断乎たる手段は欠落するからだ。イランは、2009年、2011年、2012年に衛星の軌道投入にともかく成功している。そのため、最近の一連の失敗もイラン国内の専門家らは「試行錯誤」の一環であり、ゆくゆくは「やりとげられる」と期待を込めて結論するにいたっている。

イラン政府はこうした憂慮を払拭している。情報通信技術相のムハンマド・ジャヴァード・アーザリー・ジャフロミー氏は、通信目的の衛星であり、打ち上げ失敗は後退ではなく次につながるものだとしている。が、イラン革命の起きた1979年2月の記念日に合わせて衛星の打ち上げが図られたことを鑑みれば、このようなコメントに酌むべきものはない。

イランでは革命式典中、通常は国軍の重要な進歩や技術的功績、宇宙への野望や核開発の伸張といったことが披露される。これまでの例に照らせば、ただの通信衛星をこれほど華美に飾り立てるのは不釣り合いだろう。新たな弾道ミサイルが披露されたことも懸念要因として取り沙汰される。イランは表向き人工衛星の軌道投入を試みているとするが、実態は長距離の大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発ではないのか、という懸念だ。

2018年の国連決議はイランが特に核兵器を射出できるミサイルの開発をすることを規制する目的のものだったが、イランの弾道ミサイル計画はこれに当たるか微妙なところだ。米国および欧州の同盟国の抱く懸念は、このままイランが核濃縮を進め、それに打ち上げ能力が向上して付帯するとなると、必然的に核弾頭を搭載したICBM開発にもつながりかねない、というものだ。

米国とイランの間の緊張の高まりがすでに天井知らずであるいま、もしこうしたことが現実のものとなればリスクはとてつもなく大きくなる。米国は「最大限の圧力」を推進しガーセム・ソレイマニ司令官殺害を実行したが、イランは核開発計画も弾道ミサイル開発もやめず、シリアやイエメンやガザ地区の安定を損なうような真似を精力的に挙行している。

イスラム革命防衛隊(IRGC)はいま、新世代のエンジンを盛んに喧伝している。これは従来の重いスチール製のものに比べ軽量の複合材料製であり、イラン革命41周年の記念日の数日前、「ラアド-500」ミサイルに試験搭載された。シームルグとは異なり、新ゾヘイルエンジンは衛星を宇宙へ打ち上げる設計となっている。最終的には、革命防衛隊の秘密めいたコウサル計画にのっとり将来モデルがICBMに搭載されることになるはずだ。となると欧州全体に脅威が及ぶ。

イランの果敢な拡張に歯止めをかけられなければ、この地域は暗い未来に直面する。核合意がふたたび息を吹き返すか、トランプ後の世界がイランに宥和的でありさえすれば、イランの野望をくじく断乎たる手段は欠落するからだ。

ハーフェド・アル=グウェル

こうした能力にはさらなる拡大の余地があることもさらに悪い点だ。地球を周回する人工衛星を軌道に乗せられる打ち上げロケットを使えば、地球上のほとんどどの地点にも弾頭は届くためだ。

明らかに、ザファール1号をただの通信衛星と呼ぶのは大間違いだ。そればかりか、イランが現有する兵力を超えた致死的な戦略能力開発をさらに果敢に推し進めることの端緒を開く。最高指導者ハメネイ師がイランの防衛力を押し上げて「開戦をくじき(米国という)脅威を終わらせる」としていることと軌を一にする。革命防衛隊のお好みが非対称作戦であることも考え合わせれば、根拠のない言説と取るべきではない。イランは今後もこの地域で恐るべき力量を秘めつづけると宣言したものとみるべきだ。

米国がアフガニスタンやイラクやシリアやリビアに総じて数兆ドルもの資金を投じた結果があのような惨事だ。これを見て世界は戦争や好戦性のエスカレーションに飽いていることは人も知るごとくであり、そしてこれが問題なのだ。イランが米軍基地にミサイル攻撃をしかけ米国人兵士100人以上が傷を負うという段になっても、こんなことはほんの5年も前には考え及ぶこともできなかったことなのだが、米政府も国防総省もこうした攻撃が二度と起こらないことを確証することに何ら関心を示さなかった。これに力を得て、イランの強硬派はさらに危険なエスカレーションを追求、兵器開発を求めている。イランは来年3月までにさらに5機内外の衛星を建造する計画だ。

つまるところ、イランを取り囲んで孤立化させる堅固な障壁にはほころびがあるように映る。あるいは、穴がありすぎてとうてい抑止力になりえない。制裁に疲弊した市民や除け者国家を生きる世代の中から穏健な者を助け強硬な者の牙を抜くことが想定されていたのなら、結果は正反対だった。シリアやイエメンで戦争が起きる、イラクで手の付けられぬ騒動が持ち上がる、などといって恐怖をあおればイランをさらに強硬に懲罰することにも国際社会の支持は取り付けられるつもりだったのなら、かたくなに反戦・反介入主義を唱える向きくらいしか緊張の縮小に賛意を示さない。イランの地域覇権の野望をくじく確かな道のりがあるなら、ひとり米国のみで対することはできぬのだから世界全体を巻きこむ必要があろうし、その際にはただ脅威とばかり言っておけばいいわけでもない。外交的な解決策というものも必要なのだ。

ただそのために綿密に新たな戦略を編んでみても、競合する地政学的利益のせいで払いのけられるというのは腹立たしいことにちがいない。例えば、ロシアや中国は、米国がペルシャ湾を哨戒しているというのにイラン海軍との合同演習をおこなっている。さらに言えば、中国はいまもイラン産原油を手に入れており制裁の穴を突いている。中国は応答装置をオフにした「幽霊船」を準備して追跡を逃れており、制裁はそのぶんゆるくなっている。

その結果、新たな力学が定着しつつあるようだ。そうした地域では、イランがはるか遠くの大国の利害を傷つけたり脅かしたりしないのであれば、寛大にあつかう側へとイランをめぐる頭の体操は変化しつつある。残念ながらそうした考えではこの地域の同盟国・友邦はさらなる緊張の拡大にいっそう脆弱となるばかりだ。イランを止めるつもりが、かえってイランに粘り強さを与えてしまったのかもしれない。イラン国内に10~12か所が知られている原子力施設のどれかで核実験の報が確認されるのももはや時間の問題となっているのだ。

イラン問題には制裁や脅しだけではなく、なおいっそうの外交力も必要だ。

  • ハーフェド・アル=グウェル氏は、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院外交政策研究所の在外上級研究員。また、国際的経済コンサルタント企業マックスウェル・スタンプと、地政学リスクのアドバイザリー企業オックスフォード・アナリティカの上級顧問も務める。さらに、ワシントンD.C.の戦略諮問ソリューション国際グループの一員であり、世界銀行グループ理事会元アドバイザー。ツイッター:@HafedAlGhwell
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