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アラブ指導者たちへのメッセージ:経済改善、汚職根絶、雇用創出を

2019年11月11日、アブダビ国際石油展示および会議に出席する参加者たち。(ファイル写真/AFP)
2019年11月11日、アブダビ国際石油展示および会議に出席する参加者たち。(ファイル写真/AFP)
09 Dec 2019 11:12:34 GMT9

中東およびアラブ人たちの意見についての我々の集合的な理解に寄与する世論調査は非常に重要だ。長きにわたり、西洋諸国をはじめとして世界中のコメンテーターやアナリストたちはアラブ人たちの思考を推測し、彼らの精神性について議論し、同地域の集団思考という幻想をそのまま鵜呑みにしてきた。当然ながらこれは馬鹿げたことであり、Arab Newsによる最新の世論調査からは、一般の意見や物の見方は多岐にわたっていることが明らかになっている。

同地域において、人々の生活や政治に対して宗教がどれほどの役割を担っているのか、また担うべきなのかということは最も重要な議論の1つとなっている。特にこのことは、現在大規模なデモが起きているイラクとレバノンにおいて重要な論点だ。

今回の世論調査はこれまでの研究を裏付けるもので、アラブ世界の人々は宗教が自分たちの生活にとってきわめて重要であるという考えを保っている一方、政教分離を推し進めてほしいと考えていることを示している。彼らは過激主義に対しても距離を置きたいと考えている。

また、若年層は上の世代以上に宗教から距離を置き始めている。2018年のBBCによる世論調査は、2013年の世論調査に比べてアラブ人たちが非宗教的になり始めているのではないかということを示唆していた。このことは世界の他の多くの地域にも当てはまる。複数の世論調査によると、米国のキリスト教徒たちの間でも宗教心が薄れてきていることが明らかになっている。

イラクとレバノンではそうした人々の割合が高くなっている。この2ヶ月間、両国では分断を呼び生産性を損なうアイデンティティ中心の政治を弱体化させるため、政府のセクト主義廃止を求めてデモ抗議が行われている。

イラクとレバノンのそれぞれ74%と63%の世論は、宗教が政府による政治的決定に影響を与えていると答えている。そして両国共に3分の2以上の世論が、政教分離によって戦争が減るだろうという意見に同意している。

政治システムの刷新という彼らの願いは届くのだろうか?今のところ、激しいデモが広範囲に広がっているとはいえ、彼らの願いが届くことはなさそうだ。イラクとレバノンの既存のエリート層が態度を変えることはおそらくなく、両国が近い将来ポストセクト主義へと向かうこともないだろう。

しかしながら不思議なことに、イラクの重要な政治的指導者のうち、唯一デモを支持しているのはナジャフ出身のシーク教の高名な聖職者である大アヤトラのアリ・アリー・スィースターニーだけだ。他の多くの聖職者たちは彼の姿勢を支持していない。レバノンでは、ヒズボラがはっきりとデモに反対の姿勢を見せており、ヒズボラの議長であるハッサン・ナスルッラーフは、デモ参加者は外国の工作員だと批判している。

先ほど挙げた世論調査の結果は、ヨーロッパおよび北米にほとんど影響を与えないだろう。どれほどの人間が、アラブ世界が変化しており、過激主義への反対を強めていることを信じるだろうか?そうした事実は、メディアで一般的に語られている言説に反するものである。

だが、Arab Newsの世論調査は、アラブ人たちが自分たちの将来に関係があると考えている他の課題も明らかにしている。宗教は大きな脅威だとは考えられておらず、人々を立ち上がらせているのは国家の経済状況だ。イラク国民レバノン国民共に(それぞれ57%、61%)経済問題を最優先することで未来は良くなるという意見に強く同意している。

また、アラブ人たちは今後に対して明確な見通しを持っている。それが重要だ。まずは経済を最優先させなければならない。そのために彼らは、信頼できるシステムとガバナンスの改善、宗教が日々の生活において一定の役割を担いつつも政治への影響力を弱めることを望んでいるのだ。

クリス・ドイル

経済問題は、汚職――これは両国に蔓延しており、最も大きな問題だと見られている――と若年層の失業率と並び、デモの中心的な要因となっている。イラクの資源の豊富さと同国の公共サービスの貧弱さ、怠慢な制度の無意味さなどを考えれば、世論調査の数字がこの程度に留まっているのはなぜかと考える者もいるだろう。

イラクとレバノンは様々な課題を抱えているが、今回の調査から読み取れるメッセージは明白であり、経済改善、汚職根絶、雇用創出に焦点を絞るべきだということだ。それをどうやって実現するのかということは、特にレバノンのように負債を抱えている国において、現在の危機の核心となっている。

世論調査の結果は驚くほど楽天的な見通しを明らかにしている。世論調査回答者の大半は、今後同地域では過激主義が衰退し、今後テロリズムも無くなっていくだろうと予想している。イスラム過激派がアラブ社会に悪影響を与えていると考えているのはわずか28%で、過激主義が同地域における対立の主要要因だと考えているのはわずか15%だった。

西洋の政治家やメディアの要人はそのことを頭に入れておくべきだ。リスクは依然として高いままであったとしても、アラブの人々が正しいことをすべての人間が願わなければならない。今回の世論調査でも示されたように、包摂(特に女性の権利)への支持は高まっており、政治の世界で女性が要職を担うことに対する反発も減ってきている。イラクもレバノンも、政界の要職に占める女性の割合は非常に低い。

また、アラブ人たちは今後に対して明確な見通しを持っている。それが重要だ。まずは経済を最優先させなければならない。そのために彼らは、信頼できるシステムとガバナンスの改善、宗教が日々の生活において一定の役割を担いつつも政治への影響力を弱めることを望んでいるのだ。

クリス・ドイはロンドンのアラブ・ブリティッシュ理解協議会(CAABU)の会長を務めている。彼はエクセター大学でアラブ・イスラム研究の第一級優等学位を取得し、1993年から同協議会に所属している。これまでに数多くのアラブ諸国への英国議会代表団の取りまとめ、および同行を行っている。Twitter: @Doylech

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