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分断された国々がパンデミック対応に頭を悩ませる

反コロナウイルス都市封鎖集会の演説中に折悪くして咳を我慢するブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領(AFP通信)
反コロナウイルス都市封鎖集会の演説中に折悪くして咳を我慢するブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領(AFP通信)
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07 May 2020 11:05:05 GMT9

コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、世界中の多くの国々の間での分断を深める恐れがある。この危機は政治的な二極化、人種・民族アイデンティティ、宗教、その他の社会政治的対立に関して、既に分断が激しくなっている国々に対して、特にリスクを生じさせている。

パンデミック前に政治家が対立の溝を深くしてきた一部の国々では、その指導者らは同じアプローチを取り続けている。例えば、ブラジルでは、ジャイール・ボルソナーロ大統領が主要メディアや諸機関に対する攻撃や、自分を強力なリーダーとして見せる努力を強化した。彼のウイルス対応には、その影響を軽く扱うことや、ソーシャルディスタンスに反対すること、ウイルスの拡散を制限しようとする州や都市の指導者を攻撃することなどがあった。アメリカでは、党派的政治アイデンティティがウイルスに対するアメリカ人の見方や影響緩和策の形成に大きな役割を果たしてきた。連邦議会では超党派的な初動の取り組みが見られたが、国レベルの政策決定の大部分は現在、党派的分断が生じている。

その他の一部の事例において、パンデミック前に分断を促すような論調や行動を意図的に取ってきた指導者らが、COVID-19を前に団結を呼び掛けようとしているが、物事を元の状態に戻すことの難しさを目の当たりにしている。これはインドのナレンドラ・モディ首相に特に当てはまることだ。カーネギー国際平和基金が最近発表した報告書によると、ウイルスに直面したモディは「ポピュリスト的で対立を煽る論調をトーンダウンさせた」ものの「パンデミックを取り巻く恐怖心が急速に社会的対立や不寛容を、特にインドのムスリムに対するそれを増幅させた」。

複数の国々で、パンデミックは既に高まりを見せていた外国人嫌悪を煽り立てている。アメリカ人が中国人風の顔立ちの人々に嫌がらせをする例や、中国人が西洋やアフリカの人々に対して嫌がらせをする例があり、これらは全て、標的となる集団がウイルスを媒介するという考えに基づいている。インドやスリランカなどの国々では、ウイルスはイスラム嫌悪感情を煽っている。多くの場所で、移民が標的にされてきている。

深い分断と激化する対立は、歴史的なパンデミックへの対応時には、数多くの困難を突き付ける。第1に、 良いガバナンスと政策決定を損なう。政党と指導者が公衆衛生や景気刺激策で合意できない場合、政府の対応能力を阻害する。多くの国々で起きているもう1つの問題は、危機管理の仕方に関する国の指導者と州や市の指導者との間の意見の不一致だ。ブラジル、トルコ、アメリカなどの国々では、国の大統領または首相と、州や市の指導者の間の政治的ライバル関係が政策対応を妨げ、国民にちぐはぐなメッセージを送っている。中には、公衆衛生の専門家の情報が自身の世界観と異なる場合や、自身の権力や評判の脅威となり得る場合に、政治指導者がこれを無視する場合もある。

2つ目に、社会の深い分断は、明確なメッセージを伝える指導者の力を損ない、国民による政府やメディアの情報の信頼度を減じ、重要な公衆衛生対策の遵守を抑制してしまう。政治対立やその他の分断により、国民は指導者やメディアのメッセージや情報、規制を「相手陣営」のものだと捉えて信じにくくなってしまう。これは、指導者がポピュリスト的な語り口を利用している国々に特に当てはまる。このような語り口は、統治機関や「エリート」(科学者や公衆衛生の専門家を含む)のことをしばしば信頼するに足りない存在として描写する。

国民全体または人々の特定の区分が信頼を寄せていない分断環境でかじ取りを行う政府は、事業所の閉鎖やソーシャル・ディスタンシングの実施などの公衆衛生対策に従ってもらうよう人々を説得するのが難しくなるだろう。同様に、人々を経済活動に戻したい政府も、戻っても安全だと国民を納得させにくくなるかもしれない。結局のところ、信頼感のない環境でワクチンプログラムを実施することにも困難が生じるだろう。政治的立場に従って分節化された様々な政府の指導者やメディア状況からちぐはぐなメッセージを国民が受け取ると、健全な情報を国民に提供し、ウイルスの拡散を抑制したり、経済を再開させたりするために設計された対策を確実に順守させることは特に難しくなる。

複数の国々で、パンデミックは既に高まりを見せていた外国人嫌悪を煽り立てている。

ケリー・ボイド・アンダーソン

全ての国々が深まる分断の上でパンデミックを経験しているわけではない。中には、ニュージーランドやカナダなど、国の一体感を利用することができ、統治機関への信頼があってパンデミックへの効果的な対応を実施できた国もある。イギリスなど、その他の国々の中には、政治指導者がパンデミックへの対応の中で、政治的・社会的な違いを乗り越えようと取り組んできたところもある。

分断された社会を本当に癒したいと考えている指導者らにとって、パンデミックこそ、支援を自分たちのアイデンティティ集団や政治基盤に対してより多く届けるのではなく、全ての社会集団により公平に提供されるよう、政治家が取り組むべき時だ。これは、社会の様々な部分に対する共感を示し、人々をまとめる機会を指導者に与えてくれる。このような取り組みは、団結を求める当たり障りのない声明に留まるもの(これはしばしば盲目的に与党を支持するよう国民に求めているように受け取られる)であってはならず、そうではなく、実質的な対策が伴わなければならない。一方、最も分断されている国々でさえも、多くの人々が他者を助けるため、社会的分断を越えて、優しさと寛容性を示している。これは長期的には社会的な癒しを促す草の根運動の種になるかもしれない。

ケリー・ボイド・アンダーソンは、国際安全保障問題や中東の政治・事業リスクの専門アナリストとして16年以上の経験を有するライターで、政治リスクコンサルタント。彼女のこれまでの肩書には、オックスフォード・アナリティカ審議副部長、アームス・コントロール・トゥデイ編集長などがある。ツイッター:@KBAresearch

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