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宇宙の年から火星の年へ

もう一つの前線では、科学者グループがプラスティックごみを炭化水素燃料に変容させる新たな技術を公開した。
もう一つの前線では、科学者グループがプラスティックごみを炭化水素燃料に変容させる新たな技術を公開した。
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28 Dec 2019 08:12:45 GMT9
28 Dec 2019 08:12:45 GMT9

今年は医薬と技術分野で重要な展開があったが、個人的には科学の世界で2019年は宇宙の年であったと言ってよいと思う。 

実際に、年初には中国が月の裏側への宇宙船-ローバー付属―の着陸を成功させた。月の裏側の探査に付きまとう(電波無線を通した)通信の困難を乗り越えた、前人未到の難度の高い達成である。宇宙船と付属ローバーは、以来ずっと完璧に機能している。 

しかし、今年宇宙分野で最も華々しい成功はブラックホールの初画像化であった。太陽の25億倍の質量をもつ超大型で、私たちの銀河から5400万光年離れて位置している。私は当時(4月)、アラブニュースの記事でこの信じがたい達成のため必要だった多面的な技術的飛躍(月面でリンゴの写真を撮るのに似ている)を解説した。当時の興奮と驚きは収まったが、この科学者の国際チームが成し遂げた驚異的な仕事はやはり称賛すべきだ。世界に散らばる八か所に設置された何十個もの電波望遠鏡からの信号を組み合わせて、500万ギガバイトものデータを分析し、特別なスーパーコンピュータなどの芸当を必要としたのだ。

同じく宇宙分野では、9月には不幸で悲しい失敗があった。インドの二度目の月探査船チャンドラヤーン2号(チャンドラヤーン1号は、2008年10月から2009年8月まで非常に順調に月の周囲で活動していた)が、月に着陸を試みて墜落したことだ。インドは、今後その努力を倍増させ、次回また挑戦して成功すると約束した。

最後に、10月には「宇宙の年」に太鼓判を押すかのように、2019年ノーベル物理学賞が「宇宙の進化と宇宙における地球の位置づけの理解への貢献に対して」三人の宇宙飛行士に授与された。一人(ジェイムズ・ピーブルズ)は初期宇宙学への画期的貢献に対して、その他二人(マイケル・メイヤーとディディアー・ケロズ)は50光年離れた太陽に似た星の周りをまわる惑星の初の発見 (1995年にさかのぼる) に対してである。ここでも、恒星をまわる惑星を検知する困難を強調せざるを得ない。実際、非常に離れた恒星は最大の望遠鏡でも点にしか見えないが、その表面積は検知しようする惑星よりも100倍から10000倍も大きいのだ。

医薬は、常に重要なブレークスルーを成し遂げているもう一つの分野だ。今年最も重要なもののひとつは、嚢胞性線維症に有効な薬の開発だ。これにより、この遺伝病は患者の多数にとって、生命の危険のある病気や少なくとも寿命を縮める病気から、管理可能な慢性病へと変わる。だから、今年米国で良い結果が出てこのための薬物の組み合わせが承認されたのは非常に歓迎すべき動きだ。

同様に、エボラ(致死率の高いウイルス)に有効な治療の追求において一通り失望した後でようやく、今年コンゴ民主共和国で二種の薬品の試験が行われ、患者の生存率が著しく上昇することが分かった。

遺伝学分野で多くの重要なニュースあり、非常にわくわくするものがある一方、少々警戒させるようなものもあった。

ニダル・ゲッスム

同じく医薬分野では、遺伝学分野で多くの重要なニュースがあり、非常にわくわくするものがある一方、少々警戒させるようなものもあった。 

4月、通常の治療がうまくいかなかった数種の癌の患者を治療する目的で、人間の遺伝子を修復するのに、今や有名となったCRISPR遺伝子編集技術を初めて利用したと研究者グループが報告した。

同様に2月、医学者グループがハンター症の患者のDNAの遺伝子組み換えを行い、初の「体内」人間の遺伝子編集手順を発表した。これは、ほぼ男児のみに発症し、ニューロンを破壊して身体そして多くの場合脳の損傷にも至る、まれな遺伝病だ。

警戒させるようなものとして、去年CRISPR遺伝子編集技術を人間の双子の胚に適用した中国人医師のスキャンダル(その医者は、双子を保有しているHIV感受性から保護するための試みだったと説明した)をなぞるかのように、1月に中国の科学者グループが5匹のそっくりなクローンで遺伝子を編集されたサルを作ったと報告した。CRISPR技術の容易さと有効性より、多くのこうしたクローン作製や遺伝子編集が行われることは予想できていたとはいえ、上記のような事例発生がどんどん多くなるのは、憂慮すべき動きだ。 

遺伝学のもう一つの応用として、人間の進化と歴史の研究がある。実際に3月、現在のホモ・サピエンスはもともと30万年以上前の南アフリカに起源があり、それから東アフリカに移動し、そこから約6万年前にアフリカの外に出たという説を支持する証拠が、遺伝学研究からもたらされた。10月、類似の遺伝病研究で、現代の人類が約20万年前にボツワナ(アフリカ南部にも)に現れた、もしくは居住していたことが示唆された。

最後に、4月にNASAが「双子研究」(2015年3月から2016年3月にかけて、宇宙飛行士スコット・ケリーが国際宇宙ステーションで一年を過ごし、その間彼の双子のマークは比較するために地球に留まっていたことを思い出してほしい)の医学的結果を発表した。その結果、宇宙飛行士のDNAおよび知覚能力の変化を含め、いくつかの長続きする変化があったとが示された。

もう一つの前線では、科学者グループがプラスティックごみを炭化水素燃料に変容させる新たな技術を公開した。

ニダル・ゲッスム

技術分野では、グーグルが大きなブレークスルーを発表し、IBMが直ちにそれに挑戦した。すなわち、量子の優越性だ。これは、その問題や解の有用性にかかわらず、伝統的」コンピュータが実際上は解けない問題(イオンを必要とする)を解くことができる、量子コンピュータの能力を意味している。実際に、グーグルは同社の「シカモア」プロセッサは、世界最高のスーパーコンピュータが終えるまで1万年かかるタスクを200秒で完了できると発表した。

似たような領域では、アルファスターという名の新たな人工知能(AI)アルゴリズムが、複雑なリアルタイム戦略ゲームであるスタークラフトIIで、11のうちで10ラウンドで、プロのプレイヤーを破った。これで、AIプログラムはチェス、碁、スタークラフトといった存在する中でももっとも複雑な戦略ゲームにおいて、最高の人間プレイヤーを破ったことになる。

技術ーおよび環境―の他分野では、これまで確認された記録に比べて50度も高い摂氏マイナス23度において、超伝導(導通抵抗ゼロで電力が流れる状態)を研究者グループが作り出した。

もう一つの前線では、科学者グループがプラスティックごみを炭化水素燃料に変容させる新たな技術を公開した―拡大可能だともし分かれば、とても歓迎すべき元気の出るニュースだ。

また、環境の話題を話すときには、地球温暖化と気候変動の原因となる大気中の二酸化炭素濃度が、5月に測定された時に過去250万年間で最高値となる415ppmであったことに留意せねばならない。同様に8月、米国国家大洋大気庁は、2019年7月は世界的に過去最高に暑かった月であり、20世紀の平均値より摂氏で0.95度暑かったと報告した。 

こうしたニュースは、私たちの星と将来にとって幸先のいいものではない。

今後の展望については、宇宙探査と発見の分野に戻っていえば、2020年は火星の年になるだろう。アラブ首長国連邦、米国、中国がそれぞれ火星への探査船打ち上げを来年7月(打ち上げに最適な期間)に予定している。少なくとも、私たちの地域では数年間で行われる中で最もわくわくする試みとなるだろうし、その実行と教育的・科学的影響をしみにしている。

しかし、いつものことではあるが、科学は私たちに予想できない発見とブレークスルーを予想するように教えてきた。それらが全て、人類にとって良いものになることを祈ろう。

  • ニダル・ゲッスムは、アラブ首長国連邦シャージャのアメリカン大学の物理学および宇宙学教授である。ツイッターアカウントは@NidhalGuessoum
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