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命を脅かすパンデミックがトルコ社会を統一できないとすれば、一体何にそれが可能なのか?

2019年6月23日に再度行われたイスタンブール市長選で投票するエクレム・イマモール、妻のディレック、息子のセミ(AFP)
2019年6月23日に再度行われたイスタンブール市長選で投票するエクレム・イマモール、妻のディレック、息子のセミ(AFP)
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04 Apr 2020 08:04:20 GMT9
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シネム・センジズ

社会階層差に存在する多くの差異や分断にも関わらず、逆境に直面した人々は往々にして団結し、戦争や災害、危機の際には連帯を示す。

この類の結束がもっともはっきりするのはおそらく、運命を共にしていると感じる国家が、その存在そのものに対する現実的で潜在的な脅威に直面している場合だ。しかし、差し迫った脅威が消滅した後にこの結束を維持することは困難である。

世界のコロナウイルス (COVID-19)の感染者数は日に日に増えており、いかなる国もこの危機から逃れることはできない。コロナウイルスの影響に対処しつつ余波に備える一方で、為政者はパンデミックの制御に苦心している。世界中がこの困難な時代を経験するにあたって、指導者がもっとも優先すべき事項の1つは、恐れる人々を落ち着かせ、可能な限り社会の二極化を阻止することである。

トルコは、COVID-19のアウトブレイクに苦しむ一方で、数々の地域的および世界規模の問題に対処し続けている多くの国の1つだ。3月11日に国内最初の発症が確認された。4月1日、ファフレッティン・コカ保健相は15,679人の症例を確認し、死者数が277人に達したことを明らかにした。

しかし、コロナウイルス は単なる公衆衛生の問題に留まらない。世界規模のアウトブレイクがあらゆる国に政治的、経済的、社会的、心理的な影響を及ぼしている。

トルコではすでに分断した社会の二極化が進行している。発症者が増え危機が深まるにつれ、敬意を持った政治的言説が新たな水準に達し、ソーシャルメディア上の表現がさらに差別的になり、トルコ社会がますます分断されている。

こうしたすべてのことが疑問を投げかける。民族や政治、宗教的信条や富などに関わらず、あらゆる人々を脅かす致命的なパンデミックが社会を団結させることができないなら、一体何にそれが可能であろうか?

パンデミックとそれに伴った資金の配分、またウイルスの拡散を抑えるための連携的な取り組みを危うくするロックダウンの導入についての論争により、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とイスタンブール市長エクレム・イマモール氏の対立が蘇った。

コロナウイルスとの戦いへの支援を募る目的で、3月30日にエルドアン大統領は「自給自足だトルコ」というスローガンを掲げた国家連帯運動を開始した。大統領は自らの給料の7ヶ月分をこの構想に寄付することを約束し、病の蔓延を遅らせるために講じられた予防措置の結果として財政的に苦しんでいる低所得労働者にさらなる支援を提供することを目標とした。公式ウェブサイトによると、これまでに集まったのは5億5250万トルコリラ(8240万ドル)。国家機関や民間企業、政治家などが寄付を行った。

一方、2023年の大統領候補と目されるイマムール市長は、「私たちは共に成功する」というスローガンのもと独自の市営運動を開始した。市長はトルコ人富裕層に現金やその他の寄付を求めており、助けを必要とする何十万人もの非富裕層を支援している。

水曜日に政府は市長の市営キャンペーンを非難し、違法であると決定した。これによりトルコ社会の政治的二極化がさらに加速し、ソーシャルメディアは支持する政党に基づく「私たち」と「彼ら」に分断された。双方が人々のために最善を尽くしていることを証明しようとしている。

異なる政党を支持する人々や、国の異なる地域から来た人々が別の意見を持つことは当然である。ただし、お互いに否定的な攻撃に甘んじるのではなく、建設的な批判や討論に参加する必要がある。建設的な批判は間違いを指摘するだけでなく改善が可能な点とその方法を示唆するため、いかなる国であれ、議論のレベルを上げることが重要である。

しかし、そうしたことは起こっていない。そして二極化の拡大による心理的ダメージが不安を引き起こしている。

あらゆる国と同様に、トルコの人々は国家連帯の精神で協力し合い、迫りくる経済危機の克服に備え、パンデミックから脱却しなければならない。差し迫った健康への脅威が去れば、犯した間違いを指摘することでその役割を果たすことができるだろう。ただし、それは将来的な話だ。今は政党政治に取り組んでいる場合ではない。

パンデミック後の時代には、社会と経済の再評価および再構築が重要な課題となるだろう。現時点では、政府と地方自治体の双方があらゆる区別を取り払い、ウイルスを封じ込めるために取られているすべての手段を受け入れなければならない。そして、トルコ社会のすべての階級で取り組んでいくことがさらに重要だろう。

パンデミックによりレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とイスタンブール市長エクレム・イマモール氏の対立が蘇った。

シネム・センジズ

トルコ当局はウイルスの拡散を抑え、経済的および社会的影響を軽減するための措置を段階的に実施している。これらの対策には経済的および社会的援助プランが含まれているが、依然として議論の対象となっている。危機の際にも、市民が一定の責任を負っている。為政者たちは、たとえば室内から出ないなど、人々の安全を守るために計画された政府の指示に国民が従うことを求めている。

国家と国民はそれぞれ責任を負っており、したがって世界的な健康危機は、国家と国民が連携し協力し合うことでのみ克服が可能だ。実は、これこそがパンデミックの進行を食い止めるためのもっとも重要な一歩なのだ。こうした場合、権力者であれ反対者であれ、全員が協力し、共通の利益のための最善の決断を下すことが重要である。

市民として、私はトルコ社会の二極化や、こんなにも困難な時代における連帯の欠如に辟易している。トルコの大多数の人々と同様に、このパンデミックから一刻も早く脱却するため、国のすべての人が団結し連携しながら協力しあうことを願っている。

シネム・センジズはトルコの政治アナリスト、専門はトルコと中東の関係。Twitter: @SinemCngz

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